2026年の初め、あるニュースが目に留まりました。それは「最新の生成AIに大学入学共通テストを解かせたところ、15科目全体で正答率は約97%。しかも、複数の科目で満点に近い結果を出した」というのです。先ずは、その様子を少し具体的に見ていくことにします。
なお、今回の記事は“AI”を主テーマにしたシリーズものの第4弾になります。第1弾から第3弾までは次のようですので、必要に応じてご参照ください。『AIの情報処理方法から学べる、あなたの能力を劇的に伸ばす5つの力』『AI時代に子どもたちは何を学ぶべきか ― AIが得意なこと、人間にしかできないこと』『認知症予防のヒントは意外なところにありました ― AIの思考から学ぶ「脳の使い方」』
◆大学入試問題をAIに解かせた実験の方法
この実験を行ったのは、日本のAI企業(LifePrompt(ライフプロンプト社))です。この会社は2023年から毎年、最新の生成AIに大学入学共通テストを解かせる検証を続けています。2026年の実験では、主にGPT(OpenAI系)、Gemini(Google系)、Claude(Anthropic系)といった最新の大規模言語モデルが比較対象として用いられています。なお、Microsoftの「Copilot」は GPT系モデルをベースにMicrosoftが調整したAIが使用されており、「ChatGPT」もGPT系モデルを採用しています。これらのAIは開発企業こそ異なりますが、いずれも「大規模言語モデル」と呼ばれる共通の仕組みに基づいて動作しています。
AIに解かせた試験問題は「2026年度 大学入学共通テスト」であり、次のような実験条件が設定されました。即ち、「AIが本当に問題文だけで解けるのか」を検証するために、かなり厳密な条件で行われています。AIはインターネット検索を一切使わず、学習済みデータだけで解答します。つまり、カンニングなしの受験です。また、共通テストの問題はPDFをテキスト化し、図表は文章で説明を付け、英語リスニングは音声ではなく読み上げ台本を入力するなど、AIが読める形式に変換したうえで一問ずつ入力されました。選択肢問題は選択肢をそのまま提示し、記述式問題はAIが文章で回答し、人間の採点基準に従って採点されました。
◆ 実験で明らかになったAIの圧倒的な能力
2026年の検証では、AIは大学入学共通テスト15科目を受験し、全体の平均得点率は 96.9%(約97%)という驚異的な結果を示しました。これは、受験生平均(約60%前後)を大きく上回る成績です。さらに、15科目中9科目で満点を達成しています。これは、過去の検証では見られなかった“史上初”の結果です。では、少し具体的に結果を見ていくことにします。
◇AIが満点を取った9科目
<理系科目>
数学 I・A、数学 II・B・C、物理、化学
<文系科目>
英語リーディング、国語(現代文)、歴史総合・世界史探究、歴史総合・日本史探究、公共・政治経済
◇AIが少し苦手だった問題
それは、図表やイラストを含む問題でした。具体的には、英語リスニングの「バスの乗り方」問題(図を選ぶ形式)、地理の地図問題、生物の図示問題でした。
これらが苦手である理由は、AIは画像理解がまだ完全ではないためで、図表やイラストを選ぶ問題でわずかに取りこぼしが出ることがあるためです。ただ、この問題はやがて解消されることでしょう。
◆ AIが高得点を取れた「技術的な理由」
AIが入試問題に強い理由は、次の3つに集約されます。
① 膨大な過去問と類似問題を学習している
AIは、過去の入試問題、模試の問題、教材の文章、新聞・論説文、英文記事、数学の典型問題集など、膨大なデータを学習しています。そのため、「この問題は、あの問題と似ている」という判断が瞬時にできる、というわけです。これは人間の“既視感”に近い能力です。
② 問題文の構造を瞬時に分析できる
AIは文章を読むとき、主語・述語、因果関係、対比構造、段落の役割、キーワードの位置を高速で解析します。これは、現代文の読解で最も重要な「構造把握」を機械的に行っている状態です。
③ 選択肢の「作り方の癖」を見抜く
入試問題の選択肢には、典型的な誤答パターン、よくある引っかけ、言い換えのズレ、不自然な論理飛躍などの“癖”があります。AIはこれを大量に学習しているため、「これは誤答のパターンだ」と瞬時に判断できるのです。
◆しかし AIは「問題文の意味」を理解しているわけではない
まず大前提として、AIは問題文を人間のように“理解”しているわけではありません。
「受験生:え~!? 理解していないのに問題が解けるの?? 先生は『よく読んでしっかりと問題の意味を理解しなさい』って言うんですが…」
AIがやっているのは、過去に見た膨大な文章、類似した問題のパターン、言い換え表現の対応、選択肢の作り方の癖、出題形式の構造など、これらを総合して、「最も正解らしい答え」を統計的に導き出しているだけです。そして入試問題は、パターン化された出題形式が多いため、AIの得意分野と非常に相性が良いのです。
上記のことを、少し言い方を変えると次のようになります。AIは膨大な文章データだけでなく、過去の入試問題も学習しているため、問題文の構造や選択肢の作り方の“パターン”を瞬時に見抜くことができます。大学入試問題は、毎年形式が大きく変わるわけではなく、一定の構造や癖があります。そのため、AIは「これは以前見た問題と似ている」「この選択肢は典型的な誤答パターンだ」と判断し、極めて高い精度で正解を導き出すことができるのです。
「受験生:…これは、受験術を身につけなさいって言っているようなものですね」
「AI:だからこそ、教育改革をしなければならないのでしょうし、AIが得意なことはAIに任せ、人間にしかできない能力を伸ばしたり、入試ではその能力を評価しなければならないと思いますよ」
◆現代の受験術と今後の教育の在り方
ここまで見てきましたように、AIは「理解していない」のに、入試問題を極めて高い精度で解くことができます。これは、入試問題そのものが“パターン化された問い”で構成されているためです。言い換えるならば、現在の大学入試は、「意味を理解しているか」よりも「パターンを見抜けるか」を問う構造になっているということです。
実は、この構造は長年にわたって受験生が身につけてきた「受験術」と非常によく似ています。例えば、現代文では「指示語の内容を探すときは直前を読む」「選択肢は“言い換えのズレ”を探す」といったテクニックがあります。英語では「パラグラフリーディング」「接続詞の働きに注目する」といった方法があります。数学でも「典型問題の解法パターンを覚える」ことが重視されてきました。
つまり、受験生が長年かけて身につけてきた“受験のコツ”を、AIは学習データから自然に獲得してしまったわけです。しかも、AIは膨大なデータを扱えるため、人間よりもはるかに正確で高速です。これが、AIが入試問題で圧倒的に強い理由です。
しかし、ここで一つ重要な問題が浮かび上がります。それは、「AIが満点を取れる試験に、どれほどの意味があるのか」という問いです。もし入試問題が“パターンを当てるゲーム”になっているのであれば、AIが強いのは当然ですし、人間がそこに多くの時間を費やすことが本当に教育として正しいのか、という疑問が生じます。
これからの教育で求められるのは、AIと同じ土俵で競うことではありません。AIが得意な「パターン認識」「情報処理」「高速検索」は、AIに任せればよいのです。むしろ、人間が伸ばすべきは、「意味をつくる力」「問いを立てる力」「価値を判断する力」といった、AIには代替できない能力です。
入試もまた、こうした能力を評価する方向へと変わっていく必要があります。単なる知識量やパターン認識ではなく、「なぜそう考えるのか」「どのように問題を捉えるのか」といった思考の質を問う試験へと移行していくことが求められるでしょう。AIが満点を取れる時代だからこそ、人間の学びの本質がより鮮明に浮かび上がってくるのです。
◆ 教育者への提言
今回の検証結果は、教育者にとっても大きな示唆を与えています。AIが満点を取れる試験が存在するということは、裏を返せば、現在の入試が「パターンを当てる力」を中心に評価しているということです。しかし、これからの社会で求められるのは、パターンを当てる力ではなく、「新しい価値を生み出す力」「問いを立てる力」「他者と協働しながら問題を解決する力」です。
AIが得意な領域はAIに任せ、人間が伸ばすべき能力を育てる教育へと舵を切る必要があります。具体的には、記述式・論述式の比重を高める、思考過程を評価する、探究型・対話型の学習を重視する、「正解のある問題」から「正解をつくる問題」へ移行する、といった方向性が求められるでしょう。
AIが満点を取れること自体は教育の危機ではありません。むしろ、教育の目的を問い直し、人間の学びの本質を取り戻すチャンスです。これからの教育は、「知識を覚える」から「世界を理解し、自分の言葉で語る」へと進化していくべきだと考えます。
◆ 受験生へのメッセージ)
最後に、受験生の皆さんにお伝えしたいことがあります。AIが入試問題で高得点を取ったというニュースを聞くと、「もう人間が勉強する意味はないのでは?」と感じる人もいるかもしれません。しかし、これはまったく逆です。AIが得意なのは、あくまでも“パターンを当てる作業”です。人間が行うように、“意味を理解し”、“問いを立て”、“自分の考えをつくる”ことは、AIには難しいのです。従いまして、受験勉強の本当の価値は、単に点数を取ることではなく、「考える力」そのものを鍛えることにあります。
問題文を読み、何が問われているのかをつかみ、自分の頭で筋道を立てて答えを導く。この過程で身につく力は、大学に入ってからも、社会に出てからも、一生あなたを支えてくれる財産になります。AIが満点を取れる時代だからこそ、人間にしかできない学び方が、より価値を持つのです。
どうか、目の前の問題を「正解するための作業」としてではなく、「自分の思考を鍛える機会」として捉えてみてください。あなたが積み重ねてきた努力は、AIには決して真似できない“あなた自身の力”として残り続けます。今よりも、AIがさらに普及する未来にこそ、その力が大いに生きてくるのです。
◆ おわりに一言
AIが正解を示す時代にあっても、問いを立て、意味を見つけ、未来を選び取るのは、いつの時代も人間です。学びとは、その力を育てるための旅なのだと思います。
