昔は、自分で考えても分からないことがあれば、それを知っている人に尋ねたり、それを書いていそうな書物を読み漁ったりするしか、他に良い方法はありませんでした。また、尋ねた人によって異なった答えが返ってくるのも当たり前の話でした。「あの人ならどういうかなぁ…」と、誰に尋ねるかも大きな課題でした。しかし現在、各種のAI(artificial intelligence、人工知能)に尋ねることによって、膨大な数の人の知見を殆ど一瞬にして得ることが可能になりました。進化を続けるAIに対する懸念事項は多数あるかもしれませんが、弱点は人間がカバーすればよいわけで、優れた点は大いに活用することが望ましいと思われます。そこで今回は、AIの情報処理の方法から人が学べる点をピックアップし、人の能力アップのための新たな方法を見出そうという観点で見ていこうと思います。
◆ 学校教育が見落としてきた「本当の能力」
学校教育は長い間、次のような能力を重視してきました。それは、どれだけ覚えたか、どれだけ正確に再現できるか、どれだけ早く答えられるか、などです。この評価基準に基づいて、学校では学力試験が行われ、入学試験が行われ、その子、その人の将来に大きな影響を及ぼしてきました。しかし、AIの登場で明らかになったことは、上記のような能力は、いわゆる“頭の良さ”のごく一部にすぎないということです。
因みに、なんでも瞬時に比較的精度の高い回答を生成してくれるAIが得意なことは、“記憶”ではなく“構造化”だということです。ここでいう「構造化」とは、情報を意味のまとまりごとに整理し、その関係性を見える形にすることを指します。
「記憶でなくて構造化?どういうこと?」と思われる方も多いでしょう。しかし、例えば「あの人、学校時代の成績は良くなかったのに、社会に出て素晴らしい活躍をしている…」という場合、その人は“構造化能力”が高いということなのです。純粋な学問を続けている学者であっても、学校時代の成績と学者としての成果は必ずしも一致しないことは、多くの例が示しているとおりです。
要するに、「本当の能力」というのは、どれだけ覚えたか、どれだけ正確に再現できるか、どれだけ早く答えられるか、などでは測れないということです。ましてや、そのような能力はAIが瞬時に処理してしまうわけですから、人はもっと別の能力を高める努力をしなければならず、そのような能力こそ、評価対象にすべきだということになります。
◆ 新しい「頭の良さ」の評価基準
学校での成績が良くなかった人で、社会で大いに活躍している人の特徴を3つ挙げるなら、それは次のようです。① 暗記もののテストは苦手でも、因果関係を見抜くのが得意。② 授業は退屈であっても、実践では圧倒的に強い。③ 細かい知識は忘れても、全体像をつかむのが早い。言い換えるならば、情報を“個々の事実=バラバラの点”として憶えるのではなく、“それらの関係性”を見いだし、“全体をつながりのある形=地図”として整理し、理解することです。この「情報を整理し、関係性を見える形にすること」を、この記事では「構造化」と呼ぶことにします。
結局、「本当の能力」や「頭の良さ」というのは、「構造化する能力」が高いことを指標にすべきであり、その指標によって評価されるべきものだと言えます。では、構造化する能力は具体的にどのような点に着目して力を入れれば高められるのかについて、要点となる5つの項目(分解力、選択力、ネットワーク化力、再構築力、目的最適化力)について順に紹介していきます。
◆ 1. 分解力
これは、複雑な問題を「小さな要素」に分ける力です。AI は、入力された情報を必ず “意味”の単位に分解します。この方法を用いるため、どんな複雑な文章でも混乱しません。
これを人間である社会人に当てはめると次のようになります。社会人にとっての分解力は、問題解決の第一歩 になります。例えば、会議の議題を3つに分ける、上司の曖昧な指示を目的・手段・期限に分ける、大きなプロジェクトをタスク・担当者・期限に分ける、クレーム内容を原因・影響・改善案に分ける、顧客の要望を本音・建前・制約条件に分ける、機械の複雑な不具合を現象・原因候補・再現条件に分ける、実験データを傾向・外れ値・因果に分ける、などのような作業に相当します。
このように分解できる人は、仕事が早く、ミスが少なく、再現性が高い、ということになります。「分解力」は学校では評価されなかった能力ですが、社会では最重要スキルになるわけです。
◆ 2. 選択力
情報過多の時代ですので「重要な部分だけを拾う力」が必要になります。これは、AI の核心である「Attention(注意機構)」に相当し、分かりやすく言えば、“すべての情報を均等に扱わず、重要な部分だけに集中する”ことになります。
社会人にとりましては、“全部覚えようとしない”ことに相当します。例えば、メールは重要度で読む、会議は結論だけ押さえる、資料は“目的に関係ある部分”だけ読む、などのやり方になります。
情報が多すぎる時代では、この“重要な部分を選択できる力”が最強の武器になるわけです。機械の修理などでは、重要な症状だけを素早く見抜き、不要な情報を切り捨てることで、いち早く問題点を解決できることになります。
◆ 3. ネットワーク化力
知識を「つなげて使う力」です。AIは、知識を“点”ではなく、“つながった線”で扱います。そして、新しい情報を既存のネットワークに接続し、“意味”を作るのです。
社会人にとってのネットワーク化は、応用力そのもの です。例えば、過去の経験と新しい情報をつなげる、他部署の知識と自分の仕事をつなげる、顧客の課題と自社の強みをつなげる、などです。日常生活におきましては、新しいことを知ったときに、以前の知識との関係性を見つけてから理解を定着させる習慣をつけておくことが大切でしょう。
つなげられる人は、「応用力が高い人」「センスがある人」と評価されます。
◆ 4. 再構築力
暗記力ではなく「理解で組み立て直す力」です。AI は、答えを記憶から取り出しているのではなくて、その場で「再構築」しているのです。
社会人にとっての再構築力は、“自分の言葉で説明できるか” に現れます。即ち、会議で要点をまとめて話せる、部下に分かりやすく説明できる、顧客に本質を伝えられる、仕様書を目的・制約・自由度に再構成する、実験データを因果モデルとして組み直す、不具合報告を再現可能な手順に再構築する、といった力です。
再構築力が高い人は、知識を“使える形”に変換できるため、応用力が圧倒的に高くなります。この力は“暗記”とはまったく別の能力であって、学校の試験では殆ど評価されなかった力です。
◆ 5. 目的最適化力
「何のためにやるのか」を最初に決める力です。AI は常に“目的に最適化”して動きます。
社会人にとりましては、“目的を最初に決める力” が仕事の質を決めます。即ち、この資料は誰に見せるのか、この会議のゴールは何か、この仕事の成功基準は何か、この製品の最重要目的は何か、この実験の目的は何か、などを決める力です。
欲張って複数の目的を設定すると、結果としてどっちつかずになる頻度が高まることになります。一般的に、目的が明確な人は、仕事のスピードも質も高くなります。
◆ まとめ(社会人の能力を劇的に伸ばす5つの力)
社会人が伸ばすべき能力は上述の5つです。即ち、分解力、選択力、ネットワーク化力、再構築力、目的最適化力です。これらはすべて、学校では評価されなかった能力です。
だからこそ、学校で成績が良くなかった人が、社会で大きく伸びる可能性があるわけです。
