高血圧であることが伝わっていないから高血圧

高血圧であることが伝わっていないから高血圧

 今回の記事は、先にupしました『高血圧症の解消に運動が有効である理由』の続きになります。因みに、その記事では次のようなことを紹介しました。それは、体内における血圧の調節は〝フィードバック機構〟によって行われていることや、血圧の状態を常にモニターするための主なセンサーが、頸動脈洞(けいどうみゃくどう)と、大動脈弓(だいどうみゃくきゅう)に備わっていることでした。また、このセンサーは、血圧が高まったことを感じる〝圧受容器〟だということでした。今回は、そのあたりのことを、もう一段踏み込んで見てみることにします。

 健康診断の結果として「血圧が高い」と指摘され、その結果として「血圧を下げる薬をもらって毎日飲んでいる」という人の数は増える一方です。血圧を下げるための薬の種類と作用機序は複数あります。しかし、多くの場合は対症療法にしかならず、その薬を生涯飲み続けなければならない、という人が圧倒的多数でしょう。医薬品には副作用が付きものですから、一時的に血圧が下がったとしても、他の部分への弊害は増える一方です。では、どうするのが最も良いのか…?ということを考えるために、血圧が高まっている理由について知ることが先決となります。

 先にupした記事中には、運動をしないことがフィードバック機構の廃用性退化を進めている、ということを述べました。そして今回は、もう一つ考えられる重要な理由について述べることになります。それは、タイトルに書きましたように〝高血圧であることが伝わっていないから高血圧〟になっている、ということです。
 どういうことかと言いますと、頸動脈洞や大動脈弓に備わっている圧受容器は、機能面から言うと〝伸展受容器〟であり、担当しているニューロンが引き伸ばされたときに活動電位を発する仕組みになっていることです。
 掲載した図(高画質PDFはこちら)の右上を見ていただくことにしましょう。これは、大動脈弓の部分の断面が描かれたもので、血管の外層に枝分かれした神経が描かれています。
 次に、その神経の一部分を拡大したような図が、上図の左下に描かれています。灰色で描かれたコラーゲンやエラスチンなどの線維の中を、ニューロンが縫うように走っていることが分かります。このような構造ですので、血管が膨らんだ時にはどうなるでしょうか…?血管が膨らむと、ニューロンも引き伸ばされることになります。そして、このタイプのニューロンは、引き伸ばされたときに活動電位を発する仕組みになっています。また、大きく引き伸ばされるほど、活動電位の発生頻度が増える仕組みになっています。その結果、生じた活動電位が延髄に伝わり、活動電位の発生頻度が増えるほど、血圧の上昇に強くブレーキが掛かるように、体の各所に指示が送られます。言い換えるならば、心臓からの血液拍出量が増えるほど血管壁が強く押し広げられることになりますので、その分だけ血圧上昇に対して強いブレーキが掛かるようになるわけです。
 では、血管壁が硬くなっていた場合はどうでしょうか…? 血圧が上がっても血管壁(大動脈弓や頸動脈洞の血管壁)にあるニューロンが引き伸ばされ難くなりますので、その分だけ活動電位が発生し難くなります。すると、どうなるかと言いますと、延髄は「まだそれほど血圧は高くないんだな」と判断することになります。即ち、高血圧が持続することになるわけです。

 なお、掲載した図の左側に少しややこしそうな図を載せましたが、これは全身における血圧調整メカニズムの全貌が描かれたものです。細かく見るのならば、もっと細かな図が必要になるのですが、血圧上昇に対してブレーキ役を果たしているフィードバック機構が破線で示されています。腎臓からのフィードバック機構、心臓や肺からのフィードバック機構もあるのですが、最も強力なフィードバック機構に当たるのが、今回述べた〝動脈圧受容器〟によるフィードバック機構です。

 では、高血圧を改善するにはどうすれば良いのでしょうか…? それは、伸展受容器が埋め込まれている大動脈弓や頸動脈洞の血管壁を柔軟にすれば良い、ということになります。言い換えれば、その部分の動脈硬化を解消すれば良いわけです。
 赤ちゃんの頃は、体のどの部分でも軟らかいです。そして、年齢を重ねるたびに、体の至る所が硬くなっていく傾向があります。よく「血管年齢」という語が用いられ、それを測定する機器もありますが、これは血管の柔軟性を測定することによって年齢を推定しています。〝加齢〟が大敵になるわけですが、加齢しても老化しなければ良いわけです。従いまして、血管年齢を若返らせるための最大の着目点は、アンチエイジング(抗老化)です。当研究室の記事カテゴリーに「抗老化-アンチエイジング」がありますので、その中の記事を参照していただければと思います。なお、今後も記事を増やしていく予定です。
 その他、特に大動脈の柔軟性を取り戻す方法の一つとして、前回の記事に書きましたような持久的な運動の有効性が広く認められています。併せて、ストレッチなどによってコラーゲンやエラスチンなどの合成能力を保つことの効果も認められていますので、運動の前後に取り入れていただければと思います。
 一方、絶対に避けるべきなのは、病気や老化を促進するような食生活を続けることです。概して言うならば、加工度や精製度の高い食品や、動物性食品過多の食事を避けることです。特にリンの過剰摂取は動脈硬化にとって最大の敵になります(ご参考:『リンの過剰摂取も生活習慣病の大きな原因である』)。
 逆に、必ず摂るべきものは、7大栄養素をしっかりと含んだ食餌です。因みに7大栄養素とは、<1>ファイトケミカルや機能性物質(タウリンも含む)、<2>食物繊維(水溶性および不溶性)、<3>ミネラル(特にMg,Zn)、<4>ビタミン、<5>タンパク質、<6>糖質、<7>脂質(特にω3系)です。こられを摂らずして降圧薬を飲めば、高血圧が改善されないばかりか、種々の病気が増えて寿命を縮めることになります。

 
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