水中では陸上で出来ない訓練が出来る

水中では陸上で出来ない訓練が出来る

 夏になると海やプールに行く機会が増えることと思いますが、人によっては、或いは年齢によっては、夏だからと言ってそのような機会は増えない、という人もいらっしゃることでしょう。そのような人でも、お家に浴槽が在るのであれば、それを利用することが出来ます。もちろん、プールに較べれば遥かに狭くて浅いかも知れませんが、「お風呂でトレーニング」、「お風呂で筋トレ」、「風呂トレ」、「お風呂でヨガ」、「お風呂ヨガ」、「お風呂でマッサージ」などという語によって、お風呂でのエクササイズを勧める風潮が静かに高まってきている感じです。
 「風呂はゆっくり入りたいなぁ…」と思う人もいらっしゃるでしょうし、「プールや海にはあまり行けないから、その代わりになるのなら…」と、チャレンジする人も出てくることでしょう。たとえ前者の人であっても、体の一部をストレッチするのであれば、それはリラックス効果も高まって良いと思われます。では、基本的なところから見ていくことにしましょう。

 掲載した図(高画質PDFはこちら)の右上に、文字と共に挙げておいたのですが、私たちの祖先は海中に生まれたとする考え方が、やはり優勢です。もちろん、宇宙空間や他の天体でアミノ酸が出来てそれが地球に降ってきたとする考え方は成立するのですが、少なくとも細胞の形をしたものが宇宙空間を飛んできて地球に落下したと考えることは、かなり難しくなります。何故なら、細胞のように多くの水分を含んでいるものは宇宙空間では一瞬にして蒸発してしまうからです。
 結局、細胞は地球の海の中で誕生し、やがて多細胞になり、どんどんと進化していって魚のような形の動物になりました。なお、多細胞になるまでの話の概略は『細胞にとって二酸化炭素は極めて大切』に記しておりますので、ご興味があればご覧ください。
 海の中で魚のような動物になってからは、様々な種類の魚へと分化していったのですが、私たちの祖先にあたる魚は、狂暴になった他の種類の魚の攻撃から逃れるために、川へと逃げ込んだ部類です。「そうなんですかぁ…、弱かったんですね、私たち…」「はい、そうだったみたいです」
 川は淡水(塩水ではない)ですから、海から川へと移動し始めた私たちの祖先は、ミネラルを骨に蓄える方法を編み出したり、強い水流にも耐えられるような頑丈な骨を作ったりしました。このことが、後に両生類として上陸するための準備期間になったのだと考えられます。なお、この当時の概略は『背骨は水中を泳ぐことを前提として設計された』に記しておりますので、ご興味があればご覧ください。

 ただ、骨が頑強なものになったとしても、所詮は水中生活用に設計されたものです。背骨は曲げやすいように、小さな円筒形の骨を繋ぎ合わせる方法が採られていて、更には、その継ぎ目には椎間板のような軟らかい組織が、はめ込まれています。そのため、現代の人類のように直立の姿勢をとると、椎間板が押しつぶされそうになります。酷い場合は、円筒形の骨(椎骨)まで押しつぶされてしまいます。
 そのため、私たちは1日のうちでも何時間かは、椎間板や椎骨を、重力(体重)の影響から開放してやらなければなりません。その方法は、一つは寝ることであり、二つ目は何かにぶら下がることであり、三つ目は水中に身を置くことです。因みに、直立の姿勢をとることがある類人猿の仲間は、寝ることと、何かにぶら下がることの二つを実行しています。温泉に入るお猿さんもいますが…。一方、多くの人類は、寝ることだけになっているのです。

 人類が健康を維持していくためには、寝ること以外に、ぶら下がることも、水中に身を置くことも、その全てを実行していくことが最善であることは言うまでもありません。「今さら水の中に…?」
 私たちが水に上手く馴染める性質を持っていることは、赤ちゃんがしっかりと泳ぐ能力を持っていることからも明らかです。図の左下の方にも乳児が水中に潜って泳いでいる写真を挙げておきましたが、この頃は親やコーチの言葉による指導が伝わることはあまり期待できません。そんなことをしなくても、乳児は水に潜ったならば本能的に息を止めて水を吸い込まないようにし、手足は他の脊椎動物が水中で行うような遊泳運動を自ら開始します。そして、このような〝ベビースイミング〟を継続していけば、学校で水泳を教えなくても最初から泳ぎを知っている子どもとして成長していくことになります。即ち、これが自然な人類の姿であるということが出来ます。
 もっと言えば、赤ちゃんがお母さんのお腹の中に居るときは、ずっと水中なのですから、生まれて間もない赤ちゃんは水中の方が慣れているわけです。さすがに、臍の緒を切ってしまうと肺呼吸に切り替わりますが、それ以外のことについては水中を得意としているということです。例えば、床の上を自由に這い回ることは出来ないですが、水の中なら自由に泳いで移動できます。

 私たちは特に大人になると、多くの人は陸上でのみ生活するようになりますので、体の基本設計に合わない環境下での生活を繰り返すことになります。だからこそ、体重が体の各部分にモロに掛かってしまい、特に上述した椎間板や椎骨、各関節などに故障を起こしてしまいます。そして、それを防ごうとするのならば、上述しましたように、寝ることに加えて、ぶら下がったり、水中に身を置いたりすることが必要になってきます。

 水中に身を置いたならば、じ~っとしていても〝浮力〟が生じるため、重力による悪影響を減らすことが出来ます。また、〝水圧〟が掛かりますから、水深が深い部位ほど締め付けの力が大きくなり、例えば下半身の浮腫みが解消されることになります。また、その結果として体への物理的ストレスが軽減されますから、心地良さによって精神的ストレスも軽減され、〝疲労回復やリラクゼーション〟が実現することなります。

 その他、図の中に〝動作時の抵抗(粘性)〟と記しておいたのですが、水の中で動こうとすると、水の抵抗によって動き難くなります。それを強いて動かすようにすれば、適度な負荷を伴った筋力トレーニングになります。また、それを繰り返せば、関節などに余計な負担を掛けない持久運動になります。更に、水は〝高い熱伝導率〟を持っていますから、運動によって高まる体温をすぐに水の方に逃がせることになり、熱疲労などを避けてトレーニングすることが可能になります。

 冒頭でお風呂の話をしましたが、お風呂でも〝浮力〟は同様に掛かりますし、〝水圧〟は浅い分だけ小さくはなりますが、間違いなく掛かります。ただ、動き回るには狭いですが、色々と工夫すれば多くの動きを実現することができます。因みに、「お風呂でトレーニング」などで検索すれば、色々なやり方が紹介されているサイトが幾つもかかってきますので、それらを参考にして筋力トレーニングを実施されれば結構でしょう。なお、湯の温度は〝ぬるま湯〟以下が安全です。
 もう一つ、〝柔軟性付与〟を挙げておきましたが、このような現象が生じる最大の理由は、温かいお湯(熱くない温度)であれば、温熱によって生理的にリラックスした状態が作られ、また、自宅のお風呂ゆえの精神的にリラックスした状態が作られるからだと考えられます。その両者によって、筋肉や靭帯などの運動器が弛緩するとともに、血行も良くなりますから、ストレッチやリンパマッサージを行えば、お風呂に入った効果が倍増されることと考えられます。

 以上、地上では得ることが出来ない効果を水中で得ることができますので、有効に活用いただければと思うところです。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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