キノコの細胞壁を構成するβ-グルカンの抗がん作用など

キノコの細胞壁を構成する β-グルカンの抗がん作用など

 ようやく秋らしくなってきましたので、キノコの話題を採り上げようと思います。近年は、キノコに限らず、殆どの野菜や果物が一年中売られていますので、何がどの季節に出来るものなのかがさっぱり分からなくなりましたが、キノコはマツタケに代表されるように、やはり、秋が本番となります。そして、シイタケを含めた何割かのキノコは、春にも生える性質を有していますが、やはり本番は秋だと言えます。
 実際に山に出向いてキノコを採集する人は、かなり少数派になると思いますし、自宅にてキノコ栽培をしている人も、かなり少数派になることでしょう。因みに、我が家はごく少量なのですが、シイタケ、ヒラタケ、ナメコの原木栽培をしています。興味半分で始めたのですが、抗がん作用をはじめとした様々な健康効果が得られますので、そのようなものが家で作れれば良いなと思ったからです。
 
 まず、抗がん作用についてですが、どのキノコにも抗がん作用が見られます。それは、キノコの菌糸の細胞壁の成分が、抗がん作用を示すからです。従いまして、マツタケでも、シイタケでも、ヒラタケでも、ナメコ、シメジ、エノキタケ、マイタケ、マッシュルーム、エリンギ、キクラゲなど、何でも抗がん作用が見られることになります。
 抗がん作用を示す細胞壁成分は、β-グルカンと総称される多糖類です。この類の成分はキノコだけでなく、海藻、酵母、細菌にも見られ、穀物にも少量含まれています。ただ、糖分子の結合の仕方が各々において少しずつ異なっています。また、キノコの中でも少しずつ異なっていて、それによる生理的作用の現れ方も少しずつ異なることになります。
 その中で、今日はシイタケを主に採り上げようと思います。シイタケに含まれるβ-グルカンで主になっているのは、グルコース同士がβ-1,3結合して繋がり、その5分子のうち2分子に側鎖がβ-1,6結合している、という構造になっています。なお、掲載した図(高画質PDFはこちら)の右側中段のシイタケの絵の上方に、その構造が描かれています。図が小さいですが、これが一単位となって、何個かが繋がっている構造になっています。そして、シイタケから抽出・分離されたものは、シイタケの学名にちなんで〝レンチナン〟と名付けられ、抗がん剤として供給されています。

 抗がん作用の機序は、掲載した図の左下に、その一例を採り上げました。レンチナンの抗がん作用については膨大なデータが蓄積されていますので、この図は2022年に報告された総論的な論文の一部になります。詳細は割愛しますが、各種の免疫系が働くことによる抗がん機序となっています。
 「抗がん剤」と聞くと、かなり物騒なものを想像するかもしれませんが、レンチナンはがん細胞を直接的に攻撃するのではなくて、NK細胞、細胞傷害性T細胞、マクロファージなどによる攻撃力を増すことによって、本当に異常になったがん細胞を排除するタイプの効き方になります。いわゆる自然免疫を強化することによって、異常が生じた細胞をアポトーシスに向かわせるタイプの抗がん剤になりますから、いわば理想的な抗がんメカニズムだと言えます。そのため、海外では今でも、引き続き研究データが蓄積されつつあります。

 では、日本でこれが抗がん剤として多く使われているのかといえば、そうではありません。レンチナンの投与方法は、血中に注射または点滴にて投与する方法になっています。すると、他生物の細胞壁成分、即ち非自己成分がいきなり血中に入ってしまうわけですから、量が多ければ免疫系はパニックに陥ることになります。即ち、それが副作用となって現れることになります。そうかといって、レンチナンを経口投与にすると、シイタケを普通に食べたときのような量を投与する必要がありますから、非現実的な多量および価格になってしまいます。それならば、医師は患者さんに、シイタケを沢山食べるように勧めれば良いわけですが、それよりも、儲かる他の抗がん剤が使われることになるわけです。
 結局、β-グルカン(医薬品グレードにした時のレンチナン)は、細菌も使っている細胞壁成分ですので、そのようなものをいきなり血中に入れると免疫系が必要以上に反応してしまうのは当然のことです。従いまして、普通に食べればよいのです。普通に食べると、β-グルカンは消化・吸収されないのですが、腸に存在する免疫担当細胞に働いて免疫応答が活性化され、その結果として抗がん作用が発揮されるのだと考えられます。

 次に、図の右上に載せました、レンチナンの抗炎症作用についてです。これは、炎症に関わるシグナル伝達経路に作用するもので、新型コロナやインフルエンザにおけるサイトカインストームを阻止したり、急性重症慢性閉塞性肺疾患・炎症性腸疾患・乾癬・乳腺炎などにおける炎症を抑制するなど、それぞれについて比較的詳細な機序が見いだされています。
 次に、図の右下に挙げました、抗糖尿病作用です。消化管内の粘度の向上、消化管ホルモンの向上、インスリン感受性の向上、消化管-脳軸の活性化、食欲の抑制、満腹感の上昇、糖新生の抑制、解糖系の抑制、脂質蓄積の抑制などを通じて、食後血糖値の上昇を抑え、糖尿病を予防したり改善させたりします。

 以上、シイタケを中心に、キノコの細胞壁成分であるβ-グルカンの作用について見てきました。NK細胞をはじめとした免疫系の強化や、がんの予防/治療において優れた効果を示すことや、抗炎症、抗糖尿病など、健康の維持増進にとって大変優れた食材ですので、大いに食していただければと思うところです。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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