カラスから見たカラスは黒くない

カラスから見たカラスは黒くない

 人間たちは昔から「人間は万物の霊長」であると宣(のたま)ってきました。万物の霊長とは「万物の中で最もすぐれているもの」だという意味です。その驕(おご)りが、他のものを死滅させ、地球環境さえも破壊しつつあるわけです。しかし、これはとんでもない話です。今日は、その一端をご紹介します。
 典型例は、カラスは黒いものだと勝手に解釈し、「黒いから不気味だ…」、「黒いから気持ち悪い…」などという偏見で見てしまっています。しかし、それは見えていないだけの話であって、実際にはすごく奇麗な鳥なんです。ワンちゃんも、ネコちゃんも、カラスは奇麗な鳥だと思っているはずです。もちろん、カラス自身も、自分はすごく奇麗だと思っているはずです。わざわざクジャクの羽を付けなくても、元から奇麗なんです。クジャクの羽を借りて着飾ろうとするカラスを想定したのは、見えていない人間の恥ずかしい誤解ゆえの産物であると言えます。

 その理由は次のようです。私たちの目は、紫外線に相当する波長の光を見る能力を失ってしまったのです。カラスが黒く見えるのは、カラスが発散している紫外線を見ることが出来ていないことに起因するものです。本当は、青色~紫色~ピンク色あたりの絶妙な色調のグラデーションを伴った模様を持っているはずです。その模様のパターンには個体差があり、カラスからカラスを見るとその模様に個性があるため、それで「Aちゃん、Bちゃん、Cちゃん、…」などと見分けているはずです。ところが、人間には全部のカラスが真っ黒なだけで、一括して「カラス」と読んで軽蔑しているわけです。

 目の網膜には視細胞という細胞が在り、視細胞には錐体細胞と桿体細胞が在り、錐体細胞には光線の波長によって反応の仕方が異なる何種類かのロドプシンという複合タンパク質が備わっています。そのロドプシンのなかで光線が当たることによって反応する本体となっているタンパク質の総称が〝オプシン〟です。個々のオプシンにはそれぞれ名前が付けられていて、紫外線領域の波長に反応するオプシンの一つが〝オプシン5(略号:OPN5)〟です。そして、このオプシン5を、私たちは失ってしまったために、紫外線領域の光線を感受することが不可能になりました。
 もし、オプシン5が存在していたら、紫外線を発するものを見たときに何色に見えるのかについては想像の域を出ないのですが、掲載した図(高画質PDFはこちら)の中央上部に示しておきましたように、ピンク色を主体とした色であろうと考えられます。もちろん、紫外線量が少なければ、暗くみえるでしょうし、紫外線量が多ければ白っぽいピンク色に輝くことでしょう。

 ヒトと、多くの類人猿の見え方の特徴は、緑色から赤色までの色の違いを厳密に区別できるようなオプシンの構成になっています。この特徴は、木に成っている果実がまだ緑色なのか、黄色くなってきたのか、或いは熟して赤色になったのかを見分ける必要性が高かったからこそ発達した特徴であると考えられます。この点は、ヒトは優れていると捉えても結構でしょう。
 一方、ワンちゃんにおける見え方を図の右側中段に挙げておきましたが、彼らは木の実を食べませんので、緑~黄~赤の区別を厳密にする必要があまりありませんでした。そのため、使わない機能に無駄なエネルギーを費やさないように、見え方の色合いは全体的に薄いものになっています。しかし、ちゃんと紫外線領域の波長を捉えることが出来ています。

 植物は、葉っぱや花から大いに紫外線を反射させています。昆虫も大いに紫外線を反射させています。カラスなどの鳥も同様です。それは、紫外線を多く浴びてDNA損傷を招きたくないから反射させているわけです。そして、植物や昆虫を餌として食べる鳥は、その在りかをいち早く見つけなければなりませんから、紫外線領域が非常によく見えるようになっています。
 例えば、トンボの前に他の昆虫を放り投げると、トンボにとってはその昆虫がひときわ明るく光って見えているはずです。或いは、ツバメが高速で飛びながら昆虫を捕まえるとき、彼らの目には飛んでいる昆虫がひときわ明るく光って見えているはずです。人間には、昆虫たちが明るく光って見えませんから、「ツバメってすごいね!!」って驚くわけです。

 ところで、このオプシン5は網膜からは消えましたが、視床下部をはじめとした脳内発見されています。微量なタンパク質を検出して同定することは非常に難しいですので、技術が更に進めば他の部分でもオプシン5が発見されることと予想します。紫外線を直接目で確認することは出来なくなった人類ですが、体の他の部分ではしっかりと紫外線を検出して、それなりの生体反応が行われていると考えて結構ではないかと思います。要するに、目には見えなくなった紫外線ですが、体には見えていますよ!!ということになります。

 
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