指定難病のIgA腎症も腸内細菌叢が大きく関わっている

IgA腎症も調査委細菌叢が大きく関与している。

 腎臓を悪くすると、その後は生涯において人工透析療法を受け続けることになったり、腎移植を受けることになったりします。そのうち、現在において人工透析療法を受けている患者さんでは、約3割の人がIgA腎症が原因であることが分かっています。また、腎移植を受けた後の患者さんでも、その後にIgA腎症を患ってしまう人がいます。もちろん、遺伝的な要因もあるのですが、IgA腎症の原因がつかめていないために、正しい予防が出来ていなかったことが挙げられます。

 ネット(Web)上に氾濫しているIgA腎症関連の情報を見てみると、見放されたような、突き放されたような、非常に寂しい気持ちになります。また〝指定難病〟という語によっても、絶望感を抱くことになります。そして、「原因不明」という語が追い打ちをかけることになります。
 掲載した図(高画質PDFはこちら)の右上には、かつてNHKの「きょうの健康」で報じられた画像のなかで、決定的な部分を引用させていただきました。「IgA腎症の主な治療」としては、「扁桃を摘出する手術」と「副腎皮質ステロイド」(の投与)が挙げられています。

 扁桃(口蓋扁桃)が摘出されるようになった理由は、IgA腎症の発症が、風邪を引いたことがきっかけになっている場合が多かったことによります。それは即ち、風邪を引いたときに扁桃腺が腫れることがあるわけですが、その時に扁桃の組織内でIgAが活発に増産され、その時に異常を生じたIgAが産生され、それが血中に入って腎臓に達し、その異常なIgAを処理するために他の抗体(IgGやIgM)が付着し(攻撃が開始され)、過剰な炎症によって糸球体が破壊されていく…、という機序であることが主であると考えられているからです。
 従いまして、異常なIgAが生じる現場である扁桃を丸ごと摘出してしまえば、IgA腎症の原因の何割かが解決できるはずである、と考えられているわけです。併せて、免疫反応全体を抑えるために、ステロイドホルモンの投与が行われます。
 その副作用は…、当然のことながら、私たちの防御力が低下してしまうことです。「免疫は諸刃の剣である」ことは当然なのですが、自衛隊の駐屯地を丸ごと破壊してしまうことと同じことになるわけです。

 IgA腎症に罹ってしまう要因としましては、掲載した図の左下に挙げた表に示されているように、多数あります。因みに、上記の「風邪を引いたことがきっかけになる」話は、表の下から4番目の「感染症」に当たります。そして、それはごく一部の要因だということになります。それにも拘らず、扁桃を丸ごと摘出されてしまうのは、ちょっと納得がいかない…ということになるでしょう。
 この表を掲載している論文の著者が最も重視しているのは、最上段に挙げられている〝腸内細菌叢の異常〟です。なお、この表の中身は、英語表紀であったものを機械翻訳によって日本語に変換していますので、少し違和感のある日本語になっている部分がありますが、ご了承ください。
 IgA腎症が生じる要因、即ち原因の最たるものが〝腸内細菌叢の異常〟だということです。近年、海外におきましては、IgA腎症と腸内細菌叢の関係についての論文が急増してきています。また、口腔内細菌叢と腸内細菌叢は密に関連していますし、それらの細菌種の取捨選択を担当しているのもIgAです。そして、先にupしました記事『腸の調子が悪いと粘膜免疫の力が落ちる』に書きましたように、扁桃に存在していてIgAを産生している形質細胞は、もともと腸管のパイエル板から移動してきたものです。要するに、扁桃だけの問題ではなく、腸管のパイエル板の問題でもあることは自明なわけです。

 腸内細菌とIgA腎症の関係を示したのが右上の図です。詳細を書くと煩雑になりますからポイントだけを紹介しますと、先ずは腸管粘膜のバリア機能が低下することによって、粘膜の下層に居る樹状細胞に様々な異物が届くようになることです。リーキーガット症候群と呼ばれる状態と同様です。この場合、粘膜のバリア機能が低下する最大原因が、腸内細菌叢の不備です。腸管の内表面を覆っている粘膜細胞の栄養は、血中からはあまり補われておらず、上流から流れてくるものや、腸内細菌が産生したものによって殆どが賄われています。従いまして、腸管内の環境が健全でないことが、樹状細胞に多くの〝異物(種々の抗原)〟が届く原因になります。
 その後、抗原に曝された樹状細胞は、T細胞を通じて(T細胞依存性経路)、または直接的(独立性経路)の双方にて、IgA産生形質細胞の前身である幼弱B細胞に働きかけます。T細胞依存性経路では、樹状細胞がT細胞を活性化し、T細胞が幼弱B細胞の活性化を促します。その際、BAFF(B細胞活性化因子)やAPRIL(増殖誘導リガンド)などというサイトカインによって活性化されることになります。もう一方の独立経路(T細胞非依存性経路)では、BAFF受容体やTACI(膜貫通型活性化因子)受容体を介して直接的に活性化されることになり、結果としてIgA産生形質細胞へと分化します。
 その後、IgA産生形質細胞は体循環に乗り、もちろん何割かは扁桃へも移動し、随所において多量のIgAを産生し、分泌します。そのように多量に産生されるIgAの中に、腎臓障害を引き起こす原因となる〝ガラクトース欠損IgA(Gd-IgA1)〟が混じり込むことになります。
 では、なぜガラクトースが欠損したIgAが生じるのか…。その答えは、現段階では明確ではないのですが、IgA腎症を患う人の場合に、IgAの分子の所定の部位にガラクトースを付加する酵素の活性が低いことが確認されています。これには遺伝的な要因も考えられるわけですが、その酵素活性を阻害するような病原性を持った細菌が体内に存在していることが原因である場合や、一度に多量のIgAを産生しなければならない状況が生じたために、ガラクトースの付加が間に合わなくなるという状況も考えられます。
 従いまして、IgA腎症を予防するためには、IgAのガラクトース付加に支障を来すような病原性細菌の定着や増殖を許さないことと、IgAのガラクトース付加が間に合わないようなIgA大量生産の機会を作らないことです。それは即ち、消化管の至る所において健全な細菌叢を構築しておくことと、消化管粘膜(口腔内から直腸まで)のバリア機能を高めておくことが重要だと言えるわけです。逆に、バリア機能を低下させる扁桃摘出やステロイド投与は、一時しのぎにはなっても、長期的には逆効果だと言えるわけです。何でもそうですが、巷の一般常識をそのままを鵜呑みにすることは避けたいところです。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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