現代の住環境が高ストレスを生み病人を作る

現代の住環境が高ストレスを生む

 食べ物を色々と工夫しても、健康のためだと言って運動をしても、様々な健康グッズを利用しても、それらだけでは片手落ちだということになります。ましてや、几帳面に健康診断を受け、基準範囲を超えたからと言って薬を処方されて飲むなどの行為は、逆効果になることのほうが多いと言えます。では、何が欠けているのかと言えば、その重要なものの一つが今日ご紹介する環境のことです。

 そもそも私たちの体を作っている細胞の起源は、三十数億年前になります。それ以降、地球環境の激しい変化を乗り越えてきたわけですが、細胞の基本構造や遺伝の仕組みは、当時に出来上がったものが基本となっています。その何十億年というスケールの中で、人類と言えるものが誕生したのは数百万年前だとされていますが、それは長い生物(細胞)の歴史においては、ごく直近の出来事だということになります。そして、現代に見られる人工的な環境に変わってきたのは、都市部と山村を平均すれば、長く見積もってもせいぜい百年程度でしょう。これは、細胞の歴史から見ればゼロに等しい短期間だということになります。そして、そんな短期間には、細胞は変化できないのであり、適応することもできないわけです。
 ヒトの祖先が海から上陸した頃、先に上陸していたのは植物でした。因みに植物が上陸した時期は約五億年前だとされていて、次に昆虫の仲間が上陸し、その後に動物(脊椎動物)が上陸しました。即ち、植物が大先輩なのであり、植物が上陸していてくれたからこそ、昆虫を含めた動物の上陸が可能になったのだと考えることが出来ます。
 陸上植物は地表に日陰を作り、水分を蓄え、岩石と砂だけの土地を、豊かな土壌に変えました。また、バクテリア、昆虫、動物の隠れ処になったり、食料になったりもしました。私たちがいま存在できているのは植物のお陰なのであり、それこそ〝神〟に匹敵するものだと言えます。
 そのような植物を目の前にしたとき、私たちの精神が乱れるはずがありません。何億年という長い期間において、私たちの命を多方面にわたって支えてくれてきたわけですから…。
 一方、コンクリート、アスファルト、金属、プラスチックなどを使って現代人が造り出したものは、あくまで〝異物〟です。異物を目の前にしたとき、私たちの心身は無意識のうちに身構え、緊張状態を作り出してしまうのです。

 さて、掲載した図(高画質PDFはこちら)に使わせていただいた文献は図の左上に示したものですので、詳細をご覧になりたい方は検索して内容をご覧になってください。概要を述べておくと次のようになります。この研究は日本が舞台になっていて、被験者は日本の12名の女子大学生です。実験方法の概略は図の上方に示しておきましたが、各被験者は個人差を打ち消すために、日を変えて市街地と森林内の両方においてデータが採られています。そして、被験者にはそれぞれの場所に行ってもらい、到着したならば椅子に座って5分間の休憩をとり、そのうち最後の 2 分間は目を閉じ、その後に目を開け、15分間にわたって目の前に広がる市街地または森林内を眺めてもらいました。そして同時に、脳の活動が連続的に計測されました。なお、引用させていただいたグラフは1名分のデータです。
 この計測方法は、前頭部に付けたセンサーを通して、酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)のレベルを近赤外光の吸光度変化によって捉える仕組みになっているものです。値がどんどん上昇しているのは、前頭前野の血液還流量がどんどんと増えていっていることを意味しています。問題は、この上昇の仕方が過剰なのであり、〝頭に血が上っている〟ことを意味していることです。即ち、目を開けた瞬間に市街地の光景が目の前に広がったため、被験者はリラックスしている状態から離脱し、緊張状態、ストレス過多の状態へと変化していったことを意味しています。
 考えてみれば、特に近年は物騒な世の中になっており、いつクルマが突っ込んでくるか、いつ悪人が自分を襲ってくるか、安心していられない状況を作り出してしまっていますし、クルマが通れば騒音として耳に入ってきますから、これは当然の成り行きだと考えられます。
 一方、今日は詳しく述べませんが、森林内には植物が発散する各種のフィトンチッドや、自然が発する各種の音、その中には想像以上に健康効果をもたらす超高周波音が含まれていますので、リラックス状態を維持することが可能だということになります。因みに、学習や仕事など、何かに集中したいときには、脳の余計な部分を活動させないことが重要となります。

 私たちは、快適さや利便性を追求した結果として、現在のような市街地に見られる住環境を造り出してきましたが、全身の細胞にとって、および、脳にとっては余計な情報処理を強要されることになっているのだと考えられます。その結果として過剰な精神的ストレスを生じるようになり、うつ病、犯罪、各種の疾患の増加をもたらし、都市部ほど死亡率が高いという結果を招いているのです。
 では、どのような対策をすれば良いのでしょうか…。個人的に出来ることに絞るならば、〝神〟に匹敵すると言える植物を身の周りにいっぱい置き、森林の環境を再現することです。そうすれば、これまでにも幾つか紹介しましたファイトケミカルや栄養素の効果が相乗的に発揮されることになります。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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