特に〝肺がん〟を主テーマにした記事を幾つか続けてupしてきましたが、今回はタイトルに示しましたように「肺がんを防ぐための基本的な心構え」ということでまとめてみましたので、紹介させていただきます。なお、殆どのがんに共通する基本的な予防法につきましては『がん予防および克服のための基本(全がん対象)』にて紹介しましたので、今回の記事は、それ以外の、肺がんに特化した予防法ですので、併せてご覧になっていただければと思います。また、類似のまとめ方の記事としましては、『大腸がんを防ぐための基本的な心構え』がありますので、今後も他の部位のがんに関する同様のまとめ記事をupしていく予定でいます。
では本論に移りますが、掲載した図(高画質PDFはこちら)の右側には、web上(インターネット上)に溢れている「肺がんを防ぐ方法」をまとめてみました。即ち、沢山のクリニックや健康関連の団体や製薬企業などが、一般向け情報として発信している内容の代表的なものを全て拾い上げて、私なりにまとめたものです。スマホでご覧の方のために、ここにも羅列しておきます。
1.禁煙する。2.受動喫煙を回避する。3.有害物質を回避する(有害物質の例:大気汚染物質(PM2.5、ディーゼル粒子など)、アスベスト、ラドンガス、シックハウス症候群の原因物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物)。4.呼吸器感染症を予防する。5.バランスの良い食事をする(野菜や果物を充分に摂り、高カロリー食や高脂肪食を避ける)。6.有効な成分を摂る(イソフラボン、ビタミンC)。7.過度の飲酒を避ける。8.適度な運動をする。9.ストレスをコントロールする。10.体重や体形を適切に保つ。11.女性ホルモン過剰を避ける(特にエストロゲン補充療法)。12.健康診断を受ける(できるだけ、がん検診も受ける)。13.遺伝的素因にも注意する。…というふうになりました。
これらにつきましては、私は次のように思います。即ち、上記のような一般論は決して間違っているわけではないのですが、基本的には何らかの〝外力〟を、がんの原因にしている、と思われるのです。言い換えれば、世の中にはこんなに沢山の〝悪いもの〟があるから、それを避けましょう、という感じです。そのため、自分の体を根本的に変えていかなければならない、という発想にはならないのだと思われます。また、「そもそも、がんは偶発的に生じる遺伝子変異の結果なのだから、自分は何も悪くないんだ」というスタンスの結果として生まれた対策だと言えるわけです。そして、一刻も早く見つけ出して早期治療することが、肺がんを克服するための最善の方法だ…、というシナリオへと導かれていくことになります。〝外力〟を肺がんの原因にしている限りは、根本的な予防法は見出せないと断言できるわけです。
では、実際はどうあるべきなのかについて見ていくことにします。肺(気管支~肺胞)という臓器は、空気中に含まれている殆どの物質を吸い込んでしまうという、非常に過酷な条件に曝される臓器です。例えば、皮膚でしたら比較的分厚い表皮に覆われていますし、表面には皮脂層や常在細菌叢もありますし、毛穴などは皮脂が吹き出していますから、経皮吸収する物質があるにしても急激かつ大量に体内へと入り込むことはありません。要するに、皮膚には強力なバリアが備わっているわけです。しかし、肺は空気中の酸素を取り込まなければなりませんから、それを担当している肺胞の内面には強力なバリアを設けることが出来ません。従いまして、気管支~肺胞の細胞は非常に過酷な条件に曝されることになってしまうわけです。
がん化するのは、過酷な条件下で生き延びなければならない場合に、細胞が採る最終手段です。決して、入ってきた毒物によって遺伝子が変異するからではありません。
掲載した図の右上の写真は、電子顕微鏡によって、気管支や、その奥に位置する細気管支に沈着している異物の様子が捉えられたものです。こんなふうに、気管支や細気管支に異物が沈着してしまうと、その部分の細胞にとっては非常に過酷な条件になりますから、通常の仕事をこなしている余裕はありません。何としても対抗するために、普段は使わない遺伝子を開放してパワーアップしなければなりません。そして、それを実行している細胞を、人間は「がん細胞」と呼んでいるわけです。
或いは、掲載した図の中央下段に顕微鏡写真がありますが、これは肺胞にまで入り込んだ微細なカーボン粒子(炭紛)を貪食した(食べた;処理するために細胞内に取り込んだ)マクロファージ(やや黄緑色に写っている細胞)と、その右上にブドウ状に繋がって増殖しているがん細胞(肺腺がんの細胞)が捉えられたものです。炭紛を貪食したマクロファージは、炭粉を消化できませんから、やがて死ぬわけですが、その前に周囲の細胞に対して緊急事態であることを知らせる種々の種類の炎症性サイトカイン(IL-6、TNFαなど)を分泌します。すると、そこに各種の免疫細胞が集合してきて、その部位がまさしく戦場になります。そのようになった時、その部位に存在していた細胞はパワーアップすることを余儀なくされます。そして、それを実行している細胞を、人間は「がん細胞」と呼んでいるわけです。
そのようになることを避けるために、気管~細気管支は、吸気によって侵入してきた異物を粘液で捉え、粘液ごと線毛の動きによって喉(口)の方に追いやる仕組みになっています。若くて健康な人が肺がんに罹り難い理由は、その機能がしっかりと働いているからです。ところが、その機能が衰えてしまうと、異物を排泄できなくなって、やがてがん化に至ってしまうことになります。
また、終末細気管支~肺胞には線毛がありませんので、入ってきた異物を処理するのはマクロファージの役目です。カーボン粒子などの難分解物を貪食したとしても、そのマクロファージおよび粘液を、咳によって痰として喉の方に追いやる(排泄する)仕組みになっています。ところが、その機能が衰えてしまうと、異物を貪食したマクロファージを排泄できなくなり、肺胞内に残存させてしまうことになって、やがて周辺の細胞をがん化させてしまうことになります。
そこで、肺がんを防ぐために重要なことを、掲載した図の右下に書き上げました。即ち、一つは、「1.異物排泄能力を高める」ことです。具体的には、① 気管~肺胞の内面の各種細胞を健全に保つ。② 咳止め薬などによって強引に咳を止めない。③ 吸気の湿度を下げない。口呼吸をしない。 ④ フィトンチッド(精油成分)を吸う。の4つを挙げました。
もう一つは「2.肺に蓄積している老化細胞を除去する」ことです。具体的には、ケルセチンを摂取することです。肺の内部には、特に年齢が高まるにつれて、想像以上に老化細胞が蓄積しやすいことが明らかになっています。それが即ち、異物排泄能力の低下にも繋がっています。肺がんは特に高齢になってから急激に患者数が増えるのも、老化細胞に蓄積や、それに伴う異物排泄能力の低下を起こすからだと考えられます。
以上のように、肺がんを防ぐための基本的な心構えとしましては、一般論ももちろん大切なことなのですが、それ以上に、自分自身の異物排泄能力を高めることが最重要であると考えられるわけです。