ショートスリーパーが特異的に持っている遺伝子型

ショートスリーパー が特異的に持っている 遺伝子型

 今回は〝睡眠〟を主テーマとした記事の2本目になりますが、ショートスリーパーについて見ていこうと思います。
 このことを確認しておきたい最大の理由は、「自分もショートスリーパーだから、あまり寝なくても良いのだ」と思っていたり、「世の中には短時間睡眠で済むという人が沢山いるので、自分もそのようにしてみよう」と思ったり、「偉大な有名人に短時間睡眠の人がいるから、睡眠時間を削って頑張れば偉大になれるかも」と思ったりする人がいらっしゃるかも知れません。これらは、ショートスリーパーに憧れを持っている場合に起こりやすいと言えるでしょう。
 或いは、「結構早く目が覚めて、その後は寝付き難いので、ショートスリーパーなのかも」と、良いように解釈してしまう人がいらっしゃるかもしれません。しかし、実際には不眠症であって、慢性的な睡眠不足に陥っている人がいらっしゃる可能性があります。
 ということで、真のショートスリーパーは本当に存在しているのか否か、存在しているのであれば、どの程度存在しているのかを知っておく必要性が出てきます。それと同時に、真のショートスリーパーであることを、どのようにして検証するのかを見極めておく必要もあるでしょう。

 これまでに、睡眠をテーマにして研究を続けてきた研究者は相当数に及ぶと思われます。また、その中のテーマの一つとしてショートスリーパーというものの真の姿を捉えようとしてきた研究者も相当数に及ぶと思われます。しかし、その実態を客観的に検証することが出来るようになったのは、ヒトのDNAの塩基配列を高速で調べて解析できる装置が開発され、ある程度普及してきてからのことになりますので、ここ数十年程度の成果となります。そして、今回主として紹介しますのは、2019年に報告されたもので、それまでには満足のいく結果が得られていなかったわけです。
 掲載しました図(高画質PDFはこちら)の左上に、現在において、ショートスリーパーが特異的に持っていると判断されている遺伝子変異を4つ挙げておきました。即ち、〝変異〟が原因となっているわけで、〝ショートスリーパー遺伝子〟と呼べるようなものはありません。
 上から順に、ADRB1-A187V、ADRB1-A189V、NPSR1-Y206H、DEC2-P384Rとなっていますが、斜体の文字で表している部分が、誰もが持っている遺伝子の名前であり、その右隣に例えば「-A187V」と書かれていますが、これは187番目のアミノ酸が、アラニン(A)からバリン(V)へと変異している、ということを示しています。他の3つの遺伝子も同様であって、本来のものから変異した遺伝子を持っているからこそ、ショートスリーパーとしての特徴が生じていることになります。
 この4種類の遺伝子変異のうち、ショートスリーパーとしての特徴を最も強く与えているのはADRB1-A187Vであるとされていますので、以降は、これについてのみ言及していくことにします。

 この遺伝子変異が特定されるにあたって調査された家系があるのですが、それは図の右上に挙げた家系図の人たちです。その中で、黒く塗られた人(男性は■、女性は●)が、正真正銘のショートスリーパーで、毎晩が4時間、長くても6時間程度までの短時間睡眠にて快活に生活している人たちです。また、同じ家系に属しますが非ショートスリーパーの人は白抜きの□や〇で示されています。そして、この家系の全員のDNA塩基配列が網羅的に調べられ、種々の解析が行われた結果、ショートスリーパーを特徴付けているのがADRB1-A187Vだったということです。

 ADRB1は、アドレナリンβ1受容体をコードする遺伝子で、頭文字を採って遺伝子名にされています。なお、この遺伝子は10番染色体の、q25.3と表記される位置に存在しています。
 ADRB1が翻訳されて生じるアドレナリンβ1受容体は、心臓にも多く分布していますが、脳では脳幹の部分の橋(きょう)と呼ばれる部分のニューロンにも多く分布しています。
 変異を示す「-A187V」の意味は上述の通りですが、この1個のアミノ酸の種類が変わると、アドレナリンβ1受容体の性質が、少しだけ変化することが確認されています。どのように変化するのかについては、原著の中には幾つかのことが記されているのですが、煩雑になりますので結論だけ述べておきます。
 それは、脳の覚醒を促進させるニューロンが、より簡単に活性化されるようになるとのことです。即ち、目覚めやすく、より長く起きている脳へと変化することになる、というわけです。そのため、毎晩4〜6時間の短時間の睡眠でも、眠気や疲労感は生じないようです。また、その他の健康状態も、この家系のショートスリーパーにおいては、何ら問題は生じていないということでした。
 
 では、ADRB1-A187Vという変異を持っている人は、どの程度の割合で存在しているのでしょうか…? 図の左下に少々大きめの文字で発生率を書き込んでおきましたが、「4.028/100,000」だと計算されています。即ち、およそ10万人に4人の割合になります。
 「10万人に4人… たったの4人!?」「=2万5千人に1人。そんなに少数派なのであれば、自分がショートスリーパーである確率はゼロに近い」ということになります。他に発見されている3種類の変異につきましては、その影響力が小さく、併せて、必須の変異ではないということですので、これらの変異に期待するわけにもいきません。
 結局のところ、頑張り屋さんが自称ショートスリーパーだと言っている場合、生まれながらのショートスリーパーである確率は極めて低いため、短時間睡眠を継続した場合にはそれなりのダメージが心身に加わり続ける…、と考えて良さそうです。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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