死亡率が最も低くなる睡眠時間

死亡率が最も低くなる睡眠時間

 今回から、何回かに分けて〝睡眠〟について見ていきたいと思います。睡眠不足の場合は、仕事の能率が上がらなかったり、ミスや事故を起こしやすくなったり、継続することによって(慢性化することによって)万病の元になったり、最終的には死亡率が高まって寿命が短縮することになります。
 一方、睡眠時間が長すぎる場合、体の概日リズムが乱れることになり、頭痛がしたり、腰などが痛くなったり、抑うつな気分になったり、疲れやすくなったりし、継続すると万病の元になって、最終的には死亡率が高まって寿命が短縮することになります。また、高齢者の場合は、認知機能の低下、運動機能の低下、各種臓器の機能低下が加速されることになって、寿命の短縮に拍車が掛かることになります。
 では、一体どの程度の睡眠が理想なのか、そして、死亡率が最も低くなる睡眠時間は何時間なのかについて見ていくことにしましょう。

 掲載しました図(高画質PDFはこちら)の左上は、年代別の〝推奨睡眠時間〟が示されたものです。縦軸は睡眠時間、横軸は世代になっています。なお、分かりやすいように、年代を図中にも黒文字にて書いておきました。
 新生児から高齢者までを概観すると、年齢が進むにつれて〝推奨睡眠時間(濃い青色背景・白抜き数字)〟が短くなっていくことが判ります。要するに、歳を取るほど寝なくても済む状態になっていく、ということです。
 では、もう少し詳しく見ていくと、右から2番目の「24~64歳」の場合、〝推奨睡眠時間〟は7~9時間になっています。7時間と9時間では大きく違うように思いますが、更なる詳細は後で見ていくことにしましょう。そして、6時間の場合や、10~11時間の場合は水色の背景で示されていますが、これはダメだとは言い切れない時間だという解釈で結構でしょう。一方、5時間未満や12時間以上は、明らかに〝非推奨(推奨できない)〟時間だということになります。
 
 次に、「65歳以上」を見ておきますと、〝推奨睡眠時間〟は7~8時間になっていて、長時間側の時間が1時間減らされています。この理由については後で見ていくことにします。また、ダメだとは言い切れない時間として、5~6時間や、9時間が挙げられています。そして、10時間以上は明らかに〝非推奨(推奨できない)〟時間だということになっています。即ち、高齢になっていくほど長時間睡眠は避けるべきだということを示しています。

 では、更なる詳細を見ていくことにします。掲載した図の左下のグラフは、一般成人と糖尿病患者における、睡眠時間と死亡率の関係が示されたものです。縦軸には死亡率、横軸には睡眠時間が採られています。因みに、この調査は米国における一般成人248,817人、糖尿病患者24,212人が追跡調査された結果です。
 その結果、死亡率が最も低かったのは、一般成人も糖尿病患者も7時間睡眠であることが分かりました。なお、調査人数は、糖尿病患者が一般成人の約1割でしたが、糖尿病患者の死亡率(死亡者数)が全体に高いのは、当然のことながら糖尿病が原因になっているからです。
 要するに、6時間睡眠でも8時間睡眠でもなく、7時間睡眠が死亡率を最も低下させる睡眠時間であることを示しています。

 それならば、65歳以上に限定して調査するとどうなるか…ということについてです。図の下段中央のグラフを見て頂きたいのですが、これは、中国における65歳以上の9,578人が追跡調査された結果について、最新の統計解析手法を用いて解析された結果が示されています。
 その結果、7時間睡眠が、最も低い死亡率(ハザード比)であったことが分かりました。なお、最初に見た〝推奨睡眠時間〟は7~8時間でしたが、この死亡率の解析結果では、8時間というのは死亡率カーブが上昇を始めるポイントになっています。従いまして、やはり7時間睡眠が死亡率から言えば最適だということになります。

 もっと高齢者ならどうなのか…ということが気になるはずです。例えば100歳以上で元気にしている人の睡眠時間を知りたいところです。そこで、中国に住む、かなり高齢の高齢者(平均年齢89.26歳、最高年齢117歳)の15,092人が14年間追跡調査された結果を、図の右下のグラフに示しました。調査期間中に10,768人が死亡し、死亡者と睡眠時間との関係が統計解析された結果です。
 この場合、他の年代の特徴であった〝U字曲線〟が、〝J字曲線〟になりました。即ち、睡眠時間が長ければ長いほど死亡率が高かった、ということです。これは、少々驚くべき事実ではないでしょうか…。ただ、睡眠時間が4時間未満であったという高齢者はあまりいなかったようであり、そのようなショートスリーパーの統計上の結果については正確さに欠けますが、少なくとも若い世代では睡眠不足で死亡率が高まる短時間睡眠でも、百寿者であれば睡眠不足にはならないと言えそうです。
 言い換えれば、怪我や病気さえしなければ、高齢になるほど多くの活動時間を楽しむことができるようになる、と言えそうです。

 では、図中にも書きました〝まとめ〟を下に書いておきます。
・睡眠時間は、短過ぎても長すぎても不健康になり、死亡率が高まる。
・ただし、ショートスリーパーやロングスリーパーと呼ばれる遺伝的体質人もいて、個人差は大きい。
・年齢が進むほど必要な睡眠時間は短くなる。成人の場合、死亡率が最も低くなるのは7時間睡眠である。
・糖尿病患者でも同じく7時間睡眠で死亡率が最も低くなる。もちろん、日周リズム(概日リズム)に合わせた睡眠が重要。
・深い睡眠の時間帯は大切であるが、浅い睡眠の時間帯は記憶の整理や新規な発想などにおいても重要であるため、一定以上の睡眠時間が必要となる。
・65歳以上でもその傾向は大きく変わらないが、90歳代や100歳代の場合は、短時間睡眠による弊害は少なくなり、長時間睡眠の弊害が強く現れるようになる。

 いわゆる「睡眠の質」、「睡眠の時間帯」、「ショートスリーパーやロングスリーパー」、「昼寝のメリットデメリット」、「よく眠る秘訣」などなど、「睡眠」に関する話題は沢山ありますので、次回以降もお楽しみに。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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