タウリンを主題にした記事は、これが5本目になります。なお、どれから読んでもらっても構わないように記事構成や内容には配慮しておりますので、ご安心ください。
充分量のタウリンを補給し続けることは、老化を抑制するためにも非常に重要です。ただ、ある程度の期間において補給を続けても、なかなか理想的な含有量にまで増えていかない組織もあるのです。その筆頭が、皮膚の奥まったところにある“真皮(しんぴ)”です。今日は、真皮のタウリン含有量の加齢変化と、それを回復させる方法について言及していくことにします。
アンチエイジング(抗老化)を現実のものにしたいという場合、特に露出する顔面や首の部分のシワやたるみが大いに気になるところでしょう。多くの方が「歳だから仕方ない」と思いがちな現象ですが、その背景には“真皮のタウリン不足”という、あまり知られていない問題が潜んでいます。
タウリンというと、「エナジードリンクの成分」というイメージが強いかもしれませんが、皮膚科学の視点から見ると、タウリンは 真皮の健康を支えるための極めて重要な分子だということになります。そして残念ながら、加齢とともに真皮のタウリンは確実に減少します。しかも、摂ればすぐ届くという単純な話ではないのです。
添付しました図(高画質PDFはこちら)の左側に、動物実験によるデータを示しておきました。なお、動物実験にてデータが採られる理由は、人(ヒト)の皮膚を採ってきて試料にすることが現実的に不可能に近いからです。実験動物には申し訳ないのですが、苦渋の選択だというところでしょうか…。
先ず、左上のグラフは、マウス(無毛マウス;ヘアレスマウス)から得られたものなのですが、縦軸は“タウリン含有量”、横軸は週齢を示しています。なお、マウス(無毛マウス)の15週齢はヒトの20代前半、29週齢はヒトでは30歳前後に相当します。マウスとヒトの老化の進行が必ずしも直線関係になっていないため、単純計算の結果とは異なっているわけです。そして、15週齢、29週齢と、マウスが加齢していくに伴って、皮膚のタウリン含有量が減少していくことが判ります。その中でも、表皮よりも真皮の方が、タウリンの減少が顕著であることも判ります。
また、2段目のグラフはラットから得られたものですが、ラットの12週齢はヒトの18~20歳、24週齢はヒトでは25~30歳に相当します。そして、表皮では12週齢でタウリン含有量は少し増えるのですが、真皮では減少し、24週齢では特に真皮のタウリンの減少が顕著であることが判ります。
以上を概観するならば、マウスでもラットでも、特に真皮におけるタウリン減少が顕著であることが判ります。
次に、一番下のグラフですが、これは35週齢のマウス(ヒトでは35歳前後)にタウリンを飲料水に混ぜて(3%濃度に調整して)、4週間にわたって与えると、表皮のタウリン含有量は大いに増加したのですが、真皮では殆ど増加しなかったことが判ります。
そこで、次のようなことが言えるわけです。それは、経口によるタウリン補給によって、表皮のタウリン含有量は回復するのですが、真皮では殆ど回復しないということです。このことは即ち、真皮はタウリンが届きにくい部位だということになるわけです。言い換えれば、「タウリンを摂っているのに肌のハリが戻らない」という現象の説明にもなるということです。
このようになってしまう理由としましては、真皮という組織は、タウリンの血流による供給、タウリンの分布や保持、タウリンの細胞への取り込み能力が低い、といったことが挙げられるのです。
では、真皮にタウリンが届き難い理由を、もう少し詳しく見てみることにします。
まずは、血流の問題についてです。真皮は毛細血管から栄養を受け取る仕組みになっているのですが、加齢とともに血管の数が減り、血流も低下します。だからこそ、タウリンを摂取しても真皮まで届き難いのです。
次は、タウリンの分布や保持についてですが、タウリンは水溶性が高いため、真皮の構造に“留まりにくい”という現象が生じるのです。即ち、真皮はコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸などの、巨大な細胞外マトリックス(ECM)で構成されているのですが、タウリンは水溶性で分子が小さいため、このECMに保持され難く、すぐに流れ去ってしまうというわけです。
次に、タウリンの細胞への取り込み能力についてですが、タウリンは水溶性が高いため、親油性である細胞膜を浸透することが出来ません。そこで、専用のTAUT(タウリントランスポーター)を介して生体膜を通過するのですが、真皮は表皮に比べてTAUTの発現が元々低く、加齢によってTAUTの発現がさらに低下するため、年齢とともにタウリンが入り難くなる、ということなのです。
今度は、真皮のタウリンはどのような役割を担っているのか、ということについて見てみたいと思います。もし、あまり重要な役割を担っていないのであれば、敢えて真皮のタウリン含有量を増やす必要は無いわけです。しかし実際は、次のような重要な役割を担っています。
1つは、浸透圧の調整です。もし、浸透圧を適正に保てずに細胞(線維芽細胞)がしぼむと、コラーゲン産生能力が落ちます。そうなると、皮膚のコラーゲン量が減少し、肌の張り・弾力・潤いを保つことが出来なくなります。
2つ目は、コラーゲン産生の直接的な安定化です。タウリンは細胞内カルシウムの濃度や、ミトコンドリア機能を安定させ、線維芽細胞がコラーゲンを作るための“作業環境”を整えます。
3つ目は、抗酸化作用です。タウリンは、紫外線や炎症で発生する活性酸素から線維芽細胞を守り、コラーゲン産生の低下を防ぎます。特に、炎症時に生じる次亜塩素酸(HOCl)を無毒化する働きは、タウリンに特有の防御機構です。
4つ目は、抗炎症作用です。加齢とともに増える“微小な慢性炎症”を抑え、コラーゲンを破壊する酵素(MMP)の暴走を防ぎます。
以上のようにタウリンは、真皮のコラーゲンを作ったり、作ったコラーゲンを守ったりするために、欠かせないものだということになります。もっと言えば、加齢に伴って真皮中のタウリンが減少していくため、シワやたるみがどんどん増えていくのだと言えそうです。
そんな重要なタウリンが、特に真皮において加齢と共に大きく減少していくような体になってしまっているのは、一体なぜなのか…?
その答えは明確です。
タウリンは、体内の各組織において極めて沢山の役割を担っているのですが、体内において限りある物質であるため、優先順位が付けられています。その順位とは、脳>心臓>腎臓>肝臓>網膜>…という順です。一方、皮膚は、 命に直結しない、多少ダメージを受けても生きられる、体毛が守ってくれる組織だ、というわけです。この優先順位は、動物の進化としては極めて合理的です。考えても見てください。顔がシワクチャになったお爺さんもお婆さんも、元気で過ごされているじゃないですか…。
もう一段踏み込んで考えるならば、ヒトに進化するまでは沢山の体毛を持っていました。その体毛が、紫外線、乾燥、摩擦などの外的ストレスから守ってくれていましたので、皮膚そのものの“質”に依存しなくても充分に生きられたということです。要するに、タウリン不足の犠牲にしてもよい最有力候補が皮膚だったということです。
しかし、ヒトは体毛を失いました。体毛が無くなったことで、皮膚は外界に直接さらされる臓器になりました。その結果、真皮のタウリン不足が“老化の弱点”として顕在化した…、というわけです。シワクチャで見た目がみすぼらしいことは我慢できたとしても、外界とのバリア機能も低下するとなると、健康に生きていくためにも問題が生じることになります。
では、どうすれば真皮にタウリンを届けられるのでしょうか。重要ポイントは次の3つです。
1つは、血流を改善することです。これは最も重要なことでもあります。具体的な方法としましては、入浴、運動、マッサージ、体温を上げる生活です。血流が改善されると、タウリンの“輸送路”が太くなるということです。
2つ目は、タウリントランスポーター(TAUT)の働きを維持することです。具体的な方法としましては、適度に汗をかく、過度な乾燥を避ける、紫外線ダメージを減らす、慢性炎症を抑える生活をする、ということです。
3つ目は、タウリンを“継続的に”摂ることです。真皮は代謝が遅いため、単発の大量摂取では届きません。毎日少しずつ、長年月にわたって補給することが必要だということです。
