歯の健康維持は象牙細管の存在を意識することから始まる

エナメル質は、象牙細管を通じて運ばれてくる組織液によって栄養され、虫歯菌をも寄せ付けない仕組みになっている。

 歯の健康維持に関する記事のリクエストを戴きましたので、私なりの見解を述べてみたいと思います。
 例えば、あまり歯磨きをしていないにも拘らず、虫歯とは無縁である人が何割かいらっしゃいます。逆に、1日に複数回の歯磨きをしている人ても、平均以上に多くの虫歯を持っている人がいらっしゃいます。従いまして、歯磨きという行為は、虫歯に対して万能ではないことを意味しています。
 では、飲食物の影響はどうなのでしょうか…? 甘いものを多く飲食するほど虫歯になるリスクは高まると言えます。ただ、完璧に正の相関があるとは言い難いのが現状です。それよりも、近代的な食餌なのか、未開の地の原住民の人たちが食べているような、殆ど未加工の食餌を摂っているかによって、虫歯のリスクは大きく変わってくることが知られています。勿論、後者の人たちに虫歯が少ないわけであり、しかもそのような地域の人たちには歯磨き習慣が無かったりします。
 虫歯の他に、歯を失ってしまう最大の原因が、歯肉炎や歯周炎などの歯周疾患です。そしてその原因は、一般的には歯周病菌の感染であると言われています。予防策としましては、これも巷では歯磨きをすることや、歯科医院で歯石などを取ってもらうことが推奨されています。ただ、そのような対策をしていても、中年期から歯周疾患を罹ってしまう人がいます。逆に、歯科医院に通ったことの無い人でも、高齢になっても健全な歯と歯茎を持っている人がいらっしゃいます。
 幾つかの例を挙げましたが、虫歯や歯周病を防ぐためには、巷で言われているような歯磨きや、歯科医院での定期的な歯石除去を含めたメインテナンスだけでなく、他のアプローチが必要であることを物語っているわけです。

 では、基本に立ち返り、歯の健康が守られているメカニズムを見てみることにしましょう。掲載した図(高画質PDFはこちら)の左側のイラストに描かれていますように、血液によって運ばれてきた栄養素は、歯髄にまで伸びている毛細血管に到達します。その直後の詳細は図には描かれていないのですが、歯髄の表層に位置している象牙芽細胞(ぞうげがさいぼう)に取り込まれ、液体成分だけが〝象牙細管(そうげさいかん)〟と呼ばれる細い管の中に放出されます。この液体成分は、即ち〝組織液〟です。
 象牙細管は、図に描かれていますように、象牙質の内部を周辺に向けて放射状に走っており、エナメル質、またはセメント質にまで到達しています。象牙細管の内部には組織液が通っていますので、それに含まれる栄養成分によって象牙質が作られたり、維持されたり、象牙質が損傷した場合には再生のために使われたりします。
 更に、象牙質を通り抜けた組織液は、エナメル質やセメント質に到達します。そして、じわじわと浸透しながらエナメル質やセメント質の健全性維持のために利用されます。更に、最終的には一部がエナメル質やセメント質の外側に排出されることが確認されています。

 大切なことは、エナメル質の表面から排出される組織液の流れは、エナメル質に付着した虫歯菌による酸性物質を洗い流すように働きます。即ち、健常である限り、歯の表面は組織液によって常に洗浄されている状態だということです。〝健常である限り〟というのは、象牙細管が詰まったりせずに健常な状態であることや、組織液がしっかりと流れている状態であることや、組織液の組成そのものが健常であったりすることです。
 同様に、歯肉に埋まっている部分であるセメント質へも、象牙細管からの組織液の供給と、セメント質の外部への排出があり、この流れがセメント質や、その周囲の組織の健全性維持に一役買っているということです。要するに、全身が至って健康であれば、象牙細管から流れ出る組織液が、歯の全体を守ってくれているわけです。

 では、歯の健康が保たれるメカニズムを、箇条書きにて紹介しておきます。なお、図中にも同内容を書き込んでいますので、資料としてお使い戴ければと思います。
・エナメル質は、象牙細管を通じて運ばれてくる組織液によって栄養され、虫歯菌をも寄せ付けない仕組みになっている。
・セメント質もまた、象牙細管を通じて運ばれてくる組織液によって健全性が保たれている。
・組織液の組成が不健全であれば、象牙質も不健全、エナメル質も不健全になる。虫歯の一因はこれである。
・糖分の多いものを食べると、象牙細管中の組織液の糖濃度も高まり、虫歯になりやすくなる。
・ミネラルやビタミンなどの栄養素の不足した食事は、組織液を不健全にし、エナメル質やセメント質の健全性を失わせる。
・虫歯などが原因でエナメル質が無くなった場合、象牙細管中に浸透圧の高い飲食物(高濃度の糖分や塩分など)が入ると、それが刺激になってニューロンがを発火し、痛み始める。
・知覚過敏は、歯茎の下がりによって層の薄いセメント質が露出し、上記と同様の現象が起こるものである。
・象牙細管の内部に細菌が入っても、炎症が起こってズキズキと痛むようになる。
・象牙細管中の細菌は駆除されにくいため、歯周病や全身性の疾患の原因になり得る。
・物を噛んだ時、エナメル質から象牙質に圧力が掛かり、象牙細管中の組織液の圧力が高まる。それを担当ニューロンが拾い上げて脳に送る。
・エナメル質の温度も、象牙細管中の組織液の膨張または収縮を、担当ニューロンが拾い上げて脳に送る。
・加齢によって、象牙細管の内径は小さくなる傾向を示す。
・象牙質は自力で再生可能な組織である。
・歯は表面まで全て生きている。金属や樹脂などの非生物とは大きく異なる。

 以上のようですので、歯の健康度を維持したり高めたりするための最も重要なポイントは、象牙細管という輸送システムの存在を常に意識し、そこを流れる組織液の健全性を高めることです。歯磨きや口腔内の様々なケアも重要ですが、そのようなことをしていない先住民族の方々が健康な歯や歯茎を維持しているのは、ミネラル、ビタミン、食物繊維などの必要な栄養素が豊富に含まれた未加工の食餌を食べ、自然と共に快活に暮らすことによって、象牙細管や組織液の組成が理想的になっているからです。私たちも可能な限り、そのような暮らし方に近づけたいものです。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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