病気に罹る原因は、もちろん、食べ物の問題だけではありません。環境汚染物質の問題だけでもありません。ストレスの問題だけでもありません。今回、テーマにしますのは、睡眠や概日リズムの問題です。そして、病気の種類は、いわゆる〝現代病〟です。
現代病という語の明確な定義は無い感じですが、都市化や産業化など、昔には無かった現代の環境や生活習慣などに起因する種々な病気を指して用いられる言葉です。そして今回は特に、アレルギー、自己免疫疾患、がん、その他の炎症性の疾患(「~炎」と呼ばれるような種々の疾患)が主となります。
先に、掲載した図(高画質PDFはこちら)に沿って見ていくことにします。右上に睡眠のパターンが示された図があります。横軸は時間、縦軸は睡眠の深さが採られている、お馴染みのグラフです。睡眠開始から1時間前後のあたりに深い睡眠が現れ、これは徐波睡眠(Slow Wave Sleep;SWS)と呼ばれています。また、その約1.5時間後にも徐波睡眠が現れています。これが、一般的には健常な睡眠パターンになります。なお、更に後の浅い眠りも記憶の整理などにとって重要なのですが、今回は徐波睡眠に着目することになります。
先にupしました記事『花粉症を抑えるのも酪酸産生菌』や『アレルギーや自己免疫疾患に対する着眼点』において注目した2種類のヘルパーT細胞、即ち、Th1とTh2が、今回も着目ポイントになります。ごく大雑把に言いますと、免疫反応においてTh1は〝抑制的〟に働き、Th2は〝促進的〟に働くことになります。
図に戻りますが、徐波睡眠の時にはTh1への分化が促され、即ちTh1が増えることになります。もちろん、Th1とTH2の比率が適正であるのが一番良いのですが、徐波睡眠が満足に得られない場合、Th1が減り、代わりにTh2が増えることになります。すると、免疫反応に対して促進的に働くTh2が優勢になりますから、B細胞(成熟したものは〝形質細胞〟と呼ばれる)が必要以上に活性化されることになり、アレルギーや自己免疫疾患が加速されることになるわけです。
結局のところ、子どもから大人まで、アレルギーや自己免疫疾患が増えた大きな原因として〝徐波睡眠の不足〟を挙げることができる、ということになります。このような場合、睡眠時間は決して短くはないのですが、深い眠りが得られていないということです。
次に、図の下段を見てみることにしましょう。これは〝睡眠不足および概日リズムの乱れ〟の場合が示されています。両者の関係は、どちらも原因になったり結果になったりする関係ですので、併せて捉えれば結構でしょう。例えば、何らかの気掛かりなことが次々と脳裏に浮かんだせいで熟睡できず、昼間に眠くて仕方なかった、というケースがあるでしょう。或いは、夜勤であったため昼夜が逆転することになり、昼間に寝たのであるが徐波睡眠を得ることが難しかった、というケースがあるでしょう。
そして、そのような場合にどのようなことが起こるかが右の方に描かれています。途中経過の詳細は図から読み取っていただくとして、最終的に赤い文字で表しましたように、炎症性マーカーとして測定されることの多い各種の成分が血液中に増加します。
腸管免疫の面では、腸内細菌叢も概日リズムを刻んで変化しているのですが、睡眠不足によって時計遺伝子の一つであるBMAL1の発現が低下し、それによって腸内細菌叢の概日リズムが健常性を失い、結果として炎症が亢進することになります。
DNA修復や酸化ストレスの面では、高まった酸化ストレスによって増加したDNA損傷が修復されず、細胞周期の乱れなども相まって細胞にとって過剰なストレスとなり、発がんリスクに繋がることが挙げられています。
他にも、睡眠不足や概日リズムの乱れが悪影響を及ぼす機序として、メラトニンの分泌不足がありますが、これについては『睡眠導入だけではないメラトニンの多彩な健康効果』にて述べていますので、必要に応じて参照してください。因みに、メラトニンは、概日リズムの調節、生殖調節、免疫調節、抗酸化、抗炎症、抗がん、抗老化に関わっていますので、上述の内容と重なる部分の多いことが分かります。即ち、睡眠不足は上述の機序に加えてメラトニンの不足による機序も加わるため重大な問題を発生する、と捉えれば結構でしょう。
巷では、アレルギー、各種の自己免疫疾患、各種の炎症性疾患に対しては、抗アレルギー薬や抗炎症薬などの医薬品が処方されることでしょうが、根本原因が夜更かしであったり、寝る前のスマホであったり、日光を浴びないことであったりもするわけですから、そのような根本原因を解決することが先決となります。大抵の昼行性の動物は、暗くなったら灯りを点けることなく眠りにつくように、私たちも昼行性の動物なのですから、あたりが暗くなれば寝るのが良いのです。
思うように眠れない場合は、メラトニンをサプリメントにて補給することや、日中には活発に活動することや、朝には朝日を浴びて体内時計を修正する習慣を付けることも大切です。眠らない街に生きることはやめにしましょう。