LDLコレステロールを悪玉扱いすると早死にする

LDLコレステロールを悪玉扱いすると早死にする

 健康診断を受けている人で、「LDLコレステロールが高いですね」と言われ、何らかの薬を飲まされている人は決して少なくないと思われます。しかし、そんな中途半端な知識による判断を素直に受け入れていると、寿命を縮めることになります。もちろん、中にはしっかりと学習されている医師もいらっしゃることとは思いますが、製薬企業の言いなりになってしまっている医師も結構多いですので、この場合も肝臓におけるコレステロール合成を阻害する薬を売っている製薬企業の言いなりになっている医師による後押しが、悲劇を呼んだのだと考えられます。
 そもそも、LDLコレステロールというのは、肝臓で生合成されたコレステロールを末梢組織まで運ぶためのものです。コレステロールは水に溶けませんから、タンパク質が埋め込まれたリン脂質(lipoprotein)の膜に包まれて運ばれるのですが、それには種類があって、遠心分離したときに相対的に低比重(low density)であるものを指します。即ち、「low density lipoproteinに包まれているコレステロール」を意味しています。
 もし、体内でLDLコレステロールが作られなかった場合、肝臓で作られたコレステロールを末梢組織まで運べなくなりますから、当然のことながら生きていけなくなります。そのような大切なLDLコレステロールを「悪玉」と呼ぶ行為は決して許されるものではありません。少なくとも、生命の巧妙な仕組みに魅せられた研究者であれば、その仕組みの一部を「悪玉」などとは絶対に呼びません。それはまさに神への冒涜になります。

 なぜ「悪玉」などというレッテルが貼られたのかと言えば、それはLDLコレステロールを減らすための薬を正当化するためでしょう。LDLコレステロールは、肝臓で作られたコレステロールを運ぶためのものですから、肝臓におけるコレステロール合成を阻害してやれば目的を達せられます。「しかし、コレステロールって大切なんじゃないのですか?」と聞かれれば、「いや、悪玉を減らすためだよ」と納得させやすいからでしょう。
 では、なぜそんな薬が? 日本人は、他の理由で動脈硬化になりやすく、その発展形として心血管疾患が増えました。因みに、他の理由とは、一言で言えばリンの過剰摂取と、マグネシウム摂取不足によるCa/Mg比の増大です。詳細は『リンの過剰摂取も生活習慣病の大きな原因である』にて述べているのですが、ごく簡単に言うならば、血中の過剰なリンは、活性酸素種の発生を増やし、血管内皮細胞に炎症や細胞老化を引き起こします。そして、それらを処理するマクロファージの過剰な侵入が起こると共に、アテローム性動脈硬化が始まります。また、過剰なリンは結果として血中カルシウム濃度を高め、その結果として血管の石灰化(水酸化リン酸カルシウムの析出)も進みます。更に、過剰のリンは血管内皮細胞による一酸化窒素(NO)の産生量を低下させ、Ca/Mg比の増大は血管拡張反応を抑制するため、詰まりやすくなって心血管疾患の原因になります。この機序の中で、LDLコレステロールなどは出てこないことに注目してください。
 強いて言えば、アテローム性動脈硬化の場合に、生じるプラーク中にコレステロールが混じり込んでくる可能性はありますが、それは決して主原因ではないということです。しかし、その現場にはコレステロールも見られることから、それを運ぶ器であるLDLごと「悪者」にしてしまえ、ということなのだと考えられます。しかし、これはとんでもない話です。

 では、日本以外の国、例えばデンマークにおけるLDLコレステロールの研究結果を見てみましょう。掲載した図(高画質PDFはこちら)の右端に、データの一部を引用しました。これは、デンマークにおける10万8千243人を、平均 9.4年間の追跡調査を行った結果について統計解析が行われたものです。
 グラフの見方の詳細につきましては割愛しますが、上段のグラフは、心血管疾患で亡くなった人だけを対象として解析すると、死亡率が最も低くなったのはLDLコレステロール値が132mg/dLだったということです。真ん中のグラフは、がんで亡くなった人を対象として解析すると、死亡率が最も低くなったのはLDLコレステロール値が143mg/dLだったということです。下段のグラフは、それ以外の死因で亡くなった人を対象として解析すると、死亡率が最も低くなったのはLDLコレステロール値が136mg/dLだったということです。
 さすがに、心血管疾患で亡くなった人の場合に、死亡率が最も低くなるLDLコレステロール値が最も低いですが、それでも132mg/dLです。

 一方、日本の基準を見てみましょう。少なくとも2014年までは、LDLコレステロールの基準範囲、即ち「健康である」と判断される範囲は、60~119mg/dLでした。デンマークの研究結果によれば、少なくとも132mg/dLを下回るほど、死亡率が高まることが判っています。日本は、LDLコレステロールを「悪玉」に仕立て上げていましたから、値が低ければ低いほど健康だという捉え方が常識になっていたわけです。そして、120mg/dLを超えると「要指導」、140mg/dLを超えると「受診推奨」で、コレステロール合成を阻害するスタチン系の医薬品を飲まされていた人もいたはずです。その結果、寿命を縮めてしまった人もいたことでしょう。驚くべきことに、この基準を未だに採用している検査機関や自治体が存在していますので、ネット上で検索してみてください。また、ネット上の健康情報に惑わされないよう、お願い致します。

 日本の基準はなぜ低かったのか?それは、上述した他の原因が動脈硬化や心血管疾患のリスクを高めていたため、少しでもLDLコレステロールの値が高いだけで、それらのリスクを底上げすることになってしまっていたからでしょう。それにしても低すぎるということで、2014年に基準が高められました。男性の場合、健康であると判断されるLDLコレステロールの値は72~178mg/dLに変更されました。女性の場合は、年齢によって3区分され、表に示されている範囲になっています。しかし、60~80mg/dLなどの数値は、低すぎて死亡率が高まっているレベルの値です。日本はまだ「LDLコレステロール」=「悪玉」なのです。
 腸内細菌の話でもそうなのですが、勝手に善悪を決めつけ「悪玉」「善玉」と呼ぶ人は沢山います。そのような人の話は科学性に欠けるため、信用しないようにしてください。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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