ぶつりーずの Wonderful Tonight

ぶつりーずのWonderful Tonight
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今回のアイキャッチ画像(高解像度版)
水瀬あかり・佐伯みのり
◆ 第27話 ── 休憩に入ったお店がライブ会場に

あかりさん、みのり、高木先生、高原教授、佐野教授、JAXAの白石主任研究員の6人が、あかりさんの図書館ホールでの講演後に立ち寄ったお店で、こともあろうか、即興演奏をすることになった。もちろん、何の打ち合わせもしていないため、自由にアドリブで入れるよう、ブルースの演奏が行われていた。ただ、そのパフォーマンスが圧巻であったため、店に客が押し寄せ、やがて店の扉が閉められなくなり、その音のエネルギーと圧巻のパフォーマンスが、周辺一帯を野外コンサート会場のように変貌させてしまった。

――高原教授は、次の1コーラスでエンディングにしようと、メンバーに合図した。
そして――それぞれ、絶妙なテクニックによる、かなりカッコよいエンディングを迎えた。

演奏が終わった瞬間、店内外から爆発するような拍手が沸き起こった。
店内の客が前へ押し寄せ、店外の人も扉の外から声を飛ばした。
「すげーーー!!!」
「やばい!!!」
「カッコいいーーっ!!」
その中で──誰かが叫んだ。
「名前教えてくださーーい!」
「グループ名あるんですかーー!?」

高原教授は、少し照れながらも、責任者として、スタンドマイクを正面に移動させ、その前に立った。
「凄くたくさんの声援や拍手、本当にありがとうございました。…あの…私たちは、近くの図書館ホールで講演がありまして… その帰りに、このお店で休憩させていただこうと訪れました」

すると、客席の一角から
「私たちも講演聴いてました! 水瀬先生ーーーっ!!」
客席がざわめいた。
(え? 先生?! 講演?)
(…どういうこと? この人たち、プロのミュージシャンじゃないの??)

高原教授は、ドラムのあかりさんの方を確認しながら
「今、客席の方から、お名前を頂きました水瀬さんは、さっきドラムを叩いていました、あの女性です。そして、私たちは、彼女の講演を聞きに行っていました」

前の方の席の、若い女性たちが無邪気な表情を見せながら
「じゃ、オジサンたちは、水瀬先生と、どうして今一緒にいるんですかぁ?」
客席から笑い声が漏れた。
「ねぇ… 自己紹介してください!!」

高原教授は、予想外の展開に戸惑いながら、続けた。
「私は… あの水瀬さんと共同研究を行っている大学の者です。… 高原と申します」

客席が再びざわついた。
「えーーーっ!? 大学の先生!? …音楽の先生ですか?」

「いいえ、物理学をやっております」

「ええーーっ、まじですか!? 物理の先生なのに… ギター上手すぎ…」

高原教授は、他のメンバーの顔を伺いながら、続けた。
「じゃぁ、私の方から、メンバーを簡単に紹介します。
 まず、ドラムス──水瀬あかり!!」

客席から大きな拍手、指笛、声援が飛んだ。
「あかりさーーん!!」
「めっちゃ素敵ーー!!」
「かっこよすぎーーー!!」

高原教授は続けた。
「パーカッション──宇宙の研究をされている…白石主任研究員!!」

また、客席がどよめいた。
「宇宙の研究って……なんですか?」
「あっ、あの上着…JAXAのマーク入ってる!」
「うそっ! JAXA?! 超エリートじゃん!!」

高原教授は頷き、次のメンバーへ。
「キーボード──佐野教授!! 私と昔から仲の良い先生で、脳科学の研究者です」

「やばーーい!! 脳科学!」
「佐野先生~~! めっちゃうまーーい!!」

「ベース──高木先生!! …彼は元々、私の研究室で大学院の修士まで終えていて、今は高校の物理の先生をされています」

「ええーーーっ!!  なにーーっ!?  先生ばっかりじゃん!!」

そして──ギター&サックス──佐伯みのり!! …彼女は、今日は学校の帰りの延長だったので、制服のまま来ちゃいましたが……見ての通り、高校生で、今は2年生です」

客席が完全に沸騰した。
「すごーーい!!どこの高校!?」
「…あの制服、知ってる! あそこの超進学校だよ!」
「どうりで……めっちゃ頭よさそう…… いや、それより演奏すごすぎ!!」

そして、誰かが叫んだ。
「グループ名はあるんですかーー!?」

高原教授は、少し困ったように笑った。
「いや、まさか…… 誰もが、こんなふうに演奏できることを、今日まで知らなかったわけですから…… グループ名なんて、ありませんよ」

客席がどっと笑い、また拍手が沸き起こった。そして、声が飛んだ。
「じゃぁ、グループ名、今決めちゃいましょう!」
別の誰かがひらめいた。
「共通項は……物理学じゃん!」
「……確かに。じゃあ……“ぶつりーず” …どう?これ」
「ぶつりーず!? あはは、いいかも!!」
「じゃ、決まり!! 先生たちは、ぶつりーず!!」
店内がどっと笑いに包まれた。

高原教授は、思わぬ急展開に目を丸くした。
「ぶつりーず、か…… まぁ、合ってるかも……」
他のメンバーの顔を見渡すと、みんなが笑いながら頷いていた。

その瞬間──店内から、そして店外からも声が重なった。
「アンコール!!」
「アンコール!!」
「ぶつりーずーー!!」
「アンコール!!」
その声は店の外まで広がり、野外コンサートでのアンコールシーンのようになってしまった。

高原教授は、店長を呼んだ。
「今日は、もちろん楽譜などは持ち合わせていないので…… お店に何かありますか?」

店長は慌てて頷いた。
「いくつかはありますよ! 持ってきますので、少々お待ちください!」

店長が奥へ走っていく間、高原教授は客席へと向き直った。
「アンコールいただきまして、本当にありがとうございます。…まさか…こんな展開になるとは…」
高原教授の話が再開されると、客席は静かになった。
「あの……先ほど申し上げましたように、このメンバーは、互いに楽器ができるなんて思っていませんでしたし……ついさっき結成されたばかりでもありますし… 店長様に、楽譜があれば持ってきてほしいとお願いしたところです」

客席から声が飛ぶ。
「…でも、いきなりの即興で…あの演奏でしょ!?」
「もう、なんだって…できるはず!(笑)」
「……なんで、美男美女ばかりなんですか!?」

高原教授は、照れながら笑った。
「いや……男は……高木先生が少し若めですけど…… あとは、それなりにオジサンですね。でも、水瀬さんや佐伯さんは、確かに……並外れた美女ですね」

「先生たち、幸せですね(笑)」
客席がどっと沸いた。

「もちろんです!(笑) しかも、彼女たちがこんなすごい演奏ができるなんて…… 夢のようです」

場をわきまえた、軽快で的確なやりとりは、開きっぱなしになっていた店の扉の外にまで、和やかな雰囲気を与えていた。

そのとき──店長が、楽譜の束を抱えて急いで戻ってきた。
「これ、どれもがメンバーさんの人数分ありますので…… そして、曲名のリストがここにあります!」

高原教授はそれを受け取ると、客席に向かって申し訳なさそうに…
「ちょっと、みなさん。…曲目の打ち合わせをしますので…ちょっと待っててくださいね」

客席からは笑い声が漏れ、温かい励ましの言葉も出た。
「大丈夫ですよー あわてないでいいですよーー(笑)」
「即興のメンバーなんだから… アンコール受けられるだけも凄い!!」

6人の“ぶつりーず”メンバーは、一か所に集まった。
「どれ…いけそう?」「あっ、これ…!?」「佐伯さん、大丈夫?」「はい、大丈夫です」「あはっ、さすが元軽音部」「ほかの人、大丈夫ですか?」「大丈夫だと思います(苦笑)」「了解!」

全員が定位置につき、高原教授がお客さんに
「お待たせしました…」

「はやーい!(笑)」

「エリッククラプトンの… Wonderful Tonight 」

「きゃーーっ それ、いい!!」

「あの… 先に言っておきますが… 誰も練習してないですからね。ぶっつけ本番ですので… 温かく見守ってやってください」

「だいじょうぶーーっ!」
「待ってましたーーっ ぶつりーず!!」

◆「Wonderful Tonight」──夕方のムーディーな癒しのバラードが始まる
夕方の柔らかい光が、店の窓から差し込み、木のテーブルに淡い影を落としていた。
店内の皆も、店外の客も、息を呑んだ。

佐野教授は、キーボードの音色をギター風に切り替えた。
いよいよ――Wonderful Tonightのイントロのアルペジオがスタート…
| G―― | D―― | C―― | D――

……次いで、そのアルペジオの上に、柔らかいオブリガートが重ねられた。
| G―― | D―― | C―― | D――
それとともに、高木先生のベースが静かに入ってきた。
G ─ (F#) ─ D ─ スライド ─ C ─ D ──

高原教授は、佐野教授や高木先生の、プロレベルの演奏技術に驚いた。
(…佐野先生… すごい! 予想を遥かに超えている…)
(高木君も上手い!)

佐野教授は、次に、高原教授に目で合図を送った。
高原教授は、ギターのボリュームを少し上げた。そして、まるでエリック・クラプトン本人が弾いているかのような、流麗なリードが入ってきた。
A(↑B) ── A ─ G ─ A A(↑B) ── A ─ G ─ G#
A(↑B) ── A ─ G ─ A G(→)A(→)B(→)C ──── E

同時に、あかりさんのドラムが優しく入ってきた。
Snare(ブラシ風): シャ……シャ……シャ……
Hi-hat(軽く): ×……×……×……
Kick(極小): ●………………●……
その音は、ドラムというより、呼吸であった。

何人かの女性が、両手を胸の前で合わせ、じっと前を見つめた。
(……こんな素敵な Wonderful Tonight… 初めて聴いた……)
ある男性は、うっとりとした目で小さく頷いた。
(……上手すぎる… )
また、ある男性は、小さく細かく拍手を送っていた。
(……ほんとに… 今日、このお店に来てよかった…)

イントロが終わりになるころ、高原教授は、みのりの方を向いて、目で合図を送った。
みのりはサックスを構え、そっと唇に当てた。

そして──ボーカルラインを吹き始めた。
B ── B ──────── G ─ A ── B ── A ─ G ─ A
E ── G ── A ── G A ── B ── A ──────────

客の目が一瞬で変化し、悲鳴のような歓声が上がった。
「きゃーーーーーっ!!!」
「ええぇーーっ!??」
「わぁぁぁぁ……っ」
「みのりーーーーーっ!! すげーーーっ!!」

みのりは、人が歌うボーカルでは絶対に不可能な、サックスでしか表現できない細かなアレンジを次々と入れた。

いきなり歓声を上げた客も、聴き逃すまいと、みのりの出す音にすぐに集中した。
(……上手すぎる……)
(……凄い表現力…)
みのりのサックスは、ボーカルの代わりではなく、新しい Wonderful Tonight を作り上げていた。

誰もが圧倒されたなか、1コーラスが終わり、高原教授のギターソロが入ってきた。今度は、高原教授も、オリジナルでは聞けない絶妙なアレンジをたくさん入れてきた。それは、確実に本家を超えていた…

その直後、高原教授は、メンバーにタイムキープの要求を出した。そして、みのりに近づき「ボーカルやる」と伝えながら、エレキギターをみのりに差し出した。
みのりは、すぐにサックスを横に置き、そのエレキギターを受け取った。
他のメンバーは、高原教授が何をしようとしているかは直ぐにわかった。
あかりさんは、ドラムで静かにリズムを刻み続け、白石主任研究員はパーカッションで少し違ったアレンジを入れ、間をもたせた。

高原教授は、そのとき無性に歌いたくなったのである。エレキギターをみのりに渡した後、壁際に立てかけていたアコースティックギターを手に取った。そして、みのりに…
「佐伯さん、リード、いける?」

みのりは、笑顔で頷いた。

G――D――C――123「みのりっ」

みのりのエレキギターでも、あのエリック・クラプトンのリードが再現された。いや、むしろ、みのりは先に高原教授の演奏を聴いたことによって、同じだと面白くないので、自分なりの細かなアレンジを加えて弾き始めた。
A(↑B)~(V) ── A-G-A (F#-G)-A(↑B) ─ A ─ G A(↑B) ── A ─ G ─ A A(↑B)(↓A) ─ G ─ G#
A(↑B)~(V) ── A-G-A (F#-G)-A(↑B) ─ A ─ G [G&B](→)[A&C](→)[B&D] ─── E~(V)

誰もが驚いた。
(……教授の上行ってる…)
(……ブルースでのギターにも驚いたけど… …なんて子だ…)
(……サックスで…あれほどの演奏を披露しておきながら… ギターで…またこれだ)

誰もが聴き惚れたそのリードギターは、あっという間に終わってしまった。
その代わり、オジサンたちが歌い出した。
「I~ l~ i~ t~ e~ S~ p~ o~ h~ m~ ………」

ボーカル用マイクは2本用意してあったため、1本は高原教授がメインで使い、もう1本は、高木先生が佐野教授の方に持って行った。そのため、教授たち2人のデュエットが始まったのである。
それが… なんと、しっかりハモっていた。主旋律を高原教授が歌い、佐野教授はハモリパートを担当していた。かなり上手かった。

その直後、店長が気を利かせて、ヘッドセットマイクを2本持ってきた。
高原教授は、それを、あかりさんと、みのりに渡してもらうよう、手で合図した。
その光景を見た客は、期待感が一層高まった。

あかりさんとみのりは、互いに目線を合わせながら、ヘッドセットマイクをそっと口元へ寄せた。
そして──高原教授と佐野教授のデュエットに、部分的なコーラス を重ね始めた。
みのりは、主旋律の上に柔らかいハモりを乗せた。
主旋律(高原教授):A ─ B ─ C ─ D
上ハモ(みのり):C↑ ─ D↑ ─ E↑ ─ F↑
その瞬間、店内の空気がふわりと広がった。

(……え……)
(みのりちゃん、歌も上手い……)
(サックス吹いて…ギター弾いて……コーラスまで……)
客席がざわめいた。

あかりさんは、みのりとは逆に、主旋律の下に柔らかいコーラスを入れた。
下ハモ(あかり):G↓ ─ A↓ ─ B↓ ─ C↓
その音は、ドラムで見せた爆発的な力とはまったく違う、深くて温かい声だった。

店内外の人々が、息を呑んだ。
(……声、綺麗すぎる……)
(ドラムの人、歌まで上手いって…どういうこと……)
(ぶつりーず……才能の塊じゃん……)

高木先生は、ベースを抱えたまま、コーラスの厚みに合わせて、低音を少しだけ深くした。

佐野教授は、キーボードで薄い和音を敷きながら、高原教授の主旋律に寄り添うようにハモりを続けた。
佐野教授(コーラス和音):[A・C・E]

白石主任研究員は、パーカッションで、コーラスの入りに合わせて軽いシェイカーを入れた。
Shaker:シャラ……シャラ……
その音が、コーラスの揺れと重なり、店の空気をさらに柔らかくした。

店の内外が「三声+和音」のハーモニーに包まれた。高原教授(主旋律)、佐野教授(上ハモ)、みのり(さらに上ハモ)、あかりさん(下ハモ)
そして、佐野教授のキーボードの和音が重なる。
Vo.1:A ─ B ─ C ─ D
Vo.2:C↑ ─ D↑ ─ E↑ ─ F↑
Vo.3:G↓ ─ A↓ ─ B↓ ─ C↓
Key:[A・C・E]
店内外が、まるでホールのような、四声+和音のハーモニー に包まれた。

客席が震えた。
(……やばい……)
(こんなの……プロでもなかなかできない……)
(ぶつりーず……本物のバンドじゃん……)
(今日ここにいた人、全員ラッキーすぎる……)
誰もが、音に吸い寄せられ、音に包まれ、音に癒されていた。
夕方の柔らかい光と、ぶつりーずのハーモニーが溶け合い、店は完全に“奇跡の空間”になっていた。

◆ ぶつりーずの「無限ループ・グルーヴ」
2コーラス目が終わりに近づいたとき、高原教授が、軽く右手を上げて合図を出した。その合図は、“次のセクションへ行くぞ”という、音楽家だけが理解できる合図だった。

あかりさんが、すぐに反応した。
スネアを軽く叩き、ハイハットを閉じて、静かにテンポを整える。
そして──ぶつりーず全員が、同時にこのコードへ入った。
||: G | D | C | D :||
店内外の空気が、一瞬で “新しいグルーヴ” に包まれた。

高原教授は、スタンドマイクの前に立ち、客席に向かって声を張った。
「では……このループで、もう一度、メンバー紹介を兼ねて、それぞれのパフォーマンスをお届けします!」

客席が爆発した。
「きゃーーーっ!!!」
「待ってました!!!」
「ぶつりーず最高ーー!!」

そして──1人ずつ、順番に “今夜最高の演奏” を披露していく。

「ドラムス──水瀬あかり」
あかりさんは、スティックを軽く持ち直し、ループの上に “呼吸のような” ドラムを重ねた。
Kick:●───●──────●───●
Snare:──○────○────○──
Hi-hat:××××××××××××××××
その音は、優しくて、深くて、温かくて、店の空気を包み込むようだった。

客席に静かな衝撃が走った。
「ドラムで…こんな表現できるんだ……」
「素敵すぎ―!!」
「水瀬先生……天才!!」

「パーカッション──白石主任研究員」
白石主任研究員は、シェイカーとコンガを使い分けながら、ループに “宇宙のような浮遊感” を重ねた。
Shaker:シャラ……シャラ……
Conga:トン……カッ……トン……

客席がざわめいた。
「カッコいい!!」
「白石先生!!」
「音が浮かんでるみたい……」

「キーボード──佐野教授」
佐野教授は、ピアノ音でループの和音を敷きながら、右手で “脳の電気信号のような” アルペジオを重ねた。
左手:G──D──C──D
右手:[G・B・D] → [D・F#・A] → [C・E・G] → [D・F#・A]

客席が息を呑む。
「……めっちゃ綺麗……」
「佐野先生!! ステキ!!」
「脳科学の先生が…… こんな演奏…」

「ベース──高木先生」
高木先生は、ループの低音を “床を震わせるような” 深さで支えた。
G ─ F# ─ D ─ スライド ─ C ─ D ──

客席が揺れた。
「高木先生!! カッコいい!!」
「……うまいなぁ……」
「みのりちゃんの先生!!」

「ギター──高原教授」
高原教授は、クラプトンのような泣きのリードを、ループの上に重ねた。
A(↑B) ── A ─ G ─ A
A(↑B) ── A ─ G ─ G#
A(↑B) ── A ─ G ─ A
G(→)A(→)B(→)C ──── E

客席が酔った。
「教授ーーー!!」
「うますぎる!!」
「クラプトン本人みたい!!」

「ギター&サックス──佐伯みのり」
みのりは、サックスを構え、ループの上に “歌うような” メロディを重ねた。
B ── B ──────── G ─ A ── B ── A ─ G ─ A
E ── G ── A ── G A ── B ── A ──────────

客席が悲鳴のような歓声を上げた。
「みのりーーーー!!」
「天才すぎー!!」
「みのりちゃーん!!」

次のループでは、メンバーは顔を見合わせ、共演状態に入るとともに、音量はますます上がっていった。
みのりのサックスが泣き、高原教授のギターが応え、あかりさんのドラムが呼吸のように支え、佐野教授のピアノが光を散らし、高木先生のベースが地面を震わせ、白石主任研究員のパーカッションが空気を揺らした。
その音のエネルギーは、店を飛び出し、歩道で聴いている人たちにも染み渡った。

やがて、歩道に溢れた人々が、音楽に合わせて右手を左右に振り始めた。
最初は数人だったが、やがて全員がその動きに合わせ始めた。
夕方の薄暗い街には照明が灯りはじめ、その光がぶつりーずの音と混ざり合い、とんでもなくロマンチックな空気を作り出していた。
感動し、涙ぐんでいる女の子たちもいた。

そんな中、高原教授が、右手を軽く上げて合図を出した。メンバーはすぐに理解した。次の1コーラスで終えることを…
あかりさんは、スネアの強弱を少し変え、終わりに向けてテンポを整えた。
高木先生は、ベースの深さを少しだけ増した。
佐野教授は、和音を厚くして、終わりの気配を作った。
白石主任研究員は、シェイカーのリズムを少し細かくした。
みのりは、サックスを構え直し、最後のメロディを吹く準備をした。

◆ 最後の1コーラスが始まる
あかりさんのドラムが、少しだけ強くなった。
Kick:●───●──────●───●
Snare:──○────○────○──
Hi-hat:××××××××××××××××

白石主任研究員のシェイカーが、細かい粒子のように空気を揺らした。

佐野教授のピアノが、和音を厚くしながら、右手で光のようなアルペジオを散らした。

高木先生のベースが、深く、温かく、最後のルート音を支えた。

みのりのサックスが、泣くようなメロディを吹いた。
B ── B ──────── G ─ A ── B ── A ─ G ─ A
E ── G ── A ── G A ── B ── A ──────────

そして──高原教授のギターが、最後のリードを入れた。
A(↑B) ── A ─ G ─ A
G(→)A(→)B(→)C ──── E

最後の1小節――――全員が、互いの呼吸を合わせ
あかりさんが、スネアを軽く叩き、ハイハットを閉じた。
白石主任研究員が、シェイカーを止めた。
佐野教授が、最後の和音を置いた。
高木先生が、深いDの音を鳴らした。
みのりが、サックスでEを吹いた。
そして──高原教授が、ギターで最後のEを鳴らした。
その瞬間、6人の音が 完全にひとつになった。

店内外が、一瞬だけ静まり返ったが、その直後、あたり一帯が地響きのような拍手、何人もの指笛、大歓声に包まれた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ぶつりーず最高ーーーー!!!」
「来てよかったぁぁぁぁ!!!」

6人は、客席に向かって深く頭を下げた。拍手や歓声が少し収まってから顔を上げるつもりであったが、収まる気配は無かった。

第26話に戻る> <第28話に進む>

 
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