「…何もかも失ってしまった…」という状況になってしまった人もいらっしゃるなか、ヒトという生物種が発達した大脳を持ってしまったことを、喜ぶべきなのか、或いは残念に思うべきなのか…。
我が家の庭に、スイレンなどを植えている大鍋があります。数年前の2月、その水中を覗いてみると、底の土にイトミミズが頭だけ突っ込んで胴体を水中に出し、くねくねと体を揺り動かしている様子が見えました。その時の水温は5℃でした。あまりにも冷たい水の中で、動物が元気そうに活動している姿に驚きました。そして、彼らは土の中に頭を突っ込んだまま活動していますので、何も見えない真っ暗な土に埋もれて、一体何を楽しみにして生きているのか…。しかし、それでも彼らは生きている。楽しみや苦しみなどを感じることなく、ただ無心に生きているということなのか…、と思いました。
ヒトの発達した大脳は、それを使って色々と考えたり、腹を立てたり喜んだり、悲しい思いをしたり楽しい思いをしたり…。大変といえば大変ですが、それはヒトとして生まれたからこその醍醐味なのだと考えるしかないでしょう。そして、せっかく人として生を受けたのですから、感情を上手くコントロールし、発達した大脳によるデメリットを減らすことが出来れば良いのにな…と思うところです。
犬や猫も感情を生じ、それによって行動内容を変えますが、将来のことを考えて悩んだりワクワクしたりはしないはずです。喜怒哀楽の感情を生じるのは大脳の中の辺縁系と呼ばれる部位で、犬や猫も発達していますが、そこで生まれた感情を元にして将来のことを考えたりするのは大脳皮質の部分だとされています。そのため、大脳皮質がヒトほど発達していない犬や猫は、将来のことを不安に思ったりしなくて済むと言えます。
大脳によって生み出される、例えば「この先どうなるのだろう…」というような不安は、今度は間脳の部分まで下りてきて、そこにある視床下部に入力されると、全身にわたる各種の生理的な活動内容が変化します。そして、不安が強いほど、私たちの健康維持にとってマイナスとなる変化が次々と進行していきます。この「不安」というものが、ストレスの中でも悪いほうのストレス、即ちdistress(ディストレス)の最大原因となるものです。これを、良いほうのストレス、即ちeustress(ユーストレス)に変えることが出来れば、がんをはじめとした疾患を避けることもでき、脳の問題処理能力や生産性も大幅に高まることになります。
そのためには、どのようなコツがあるのでしょうか…。例えば、目の前に大きな波が迫ってきたとしましょう。サーファーの人ならば、それを見てワクワクすることでしょう。一方、波を怖いものだと思っている人は、大いに不安を感じることでしょう。全く同じ大きさの波であっても、それをどのように捉えるのかによって、精神状態が正反対になってしまうということです。難しいことだと言えば、それはそうかも知れませんが、捉え方を、いわゆるプラス思考に変えるしか、他に方法は無いと言えます。「こうなって良かったと思うことにしよう」、「この試練が将来の自分を支えてくれることになるはずだ」、「この経験は自分にとって大きくプラスになる」などと、強引にでも思い込むことだと言えます。
掲載した図(高画質PDFはこちら)は、何らかのストレッサーが自分に降りかかってきたとき、それをディストレスにしてしまうか、ユーストレスにできるかによって、がん(癌)に対しても正反対に作用する、ということが示されたものです。思い悩めば、発がんしたり、がんが進行したりしますし、ワクワクして快活に過ごしていれば、発がんしなかったり、がんが治癒に向かったりする、ということです。なお、この論文には、ディストレスが、がんを促す生理学的メカニズムが紹介されており、海外ではこのような研究が大いに進んでいるのが現状です。何が起ころうが、強引にでも前向きにとらえる、という思考習慣をつけることが如何に大切かを感じた次第です。