揺らぎは脳・神経系の処理能力を高める

 大自然の中で生まれ育った人類は、周囲を見れば草の葉が揺れている(風あざみ)、木の葉が揺れている、木の枝が揺れている、川の水が流れている、海には波がある、火を焚けば炎が揺れている、という具合に、揺れるものに囲まれて育ちました。そのせいで、揺れるものが周囲に存在しない部屋または空間に長時間置かれると、やがて精神異常を来すようになります。
 「動く」と「揺れる」では、意味が少々違う程度のようにも感じますが、脳・神経系にとっては、それは非常に大きな違いになります。例えば、電車や自動車などの交通機関が動く、スマホやTVの画面中の映像が動く、というような「動く」ものを眺めていても、「揺らぎ」が伴っていない限りは効果が得られません。そのため、マンションやオフィスの一室に籠って何らかの動画を見ていたとしても、それが揺らぎを伴わないものであれば、精神状態は悪化の一途を辿ることになります。ひいては、うつ病や、犯罪を起こすリスクを高めることになります。

 何故そのようになってしまうのか…? それは、これにおいてもやはり、生物進化の過程で設定された特徴であると言えます。そもそも、揺らぎのあるものに囲まれているのが普通の状態であって、固定された壁や床や天井に囲まれていることは、生物としては極めて不自然な状態です。その状態というのは、神経的な信号のバックグラウンドの入力がゼロに近くなり、いざ活動を開始しようとしても、すぐには動き出せなくなってしまうからです。それが長時間続くと、神経活動の低迷を来してしまうことになります。

 野球で、バッターがバットを揺り動かしながら球を待っている様子に近いかもしれません。完全に静止しているものを動かすには大きなエネルギーが要ります。たとえ、次の瞬間に来る、目的とする動きと異なった方向に揺れ動いていたとしても、その方向を修正することは、静止している状態から動き出すよりも少ないエネルギーで済みます。更に、ニューロンや筋肉の活動から見ると、信号の量や収縮率を変えるだけで済みますから、全くのゼロの状態から信号を発するよりも、直ぐに閾値に達することが可能になります。だからこそ、バッターは構えて球を待っているときにもバットを軽く揺り動かします。

 もう一つ大切なことは、「揺れ」に規則性が無く、即ち、ランダムに揺れ動いていることが大切です。この規則性の無い揺れを「揺らぎ」と表現することが出来るでしょう。もし、揺れが規則的である場合、それはバックグラウンドではなくて、目的となる信号かもしれないと脳・神経系が判断するからです。そのため、揺れは、あくまで不規則であることが重要だということになります。以前に「1/fゆらぎ」という概念が流行しましたが、不規則なものに何らかの規則性を見出そうとする解析は貴重ではありますが、そのような規則性さえ見出せないほど不規則なほうがベストだと思われます。

 多くの人は、キャンプファイアーをしていれば、火の近くに寄ってきます。燃える炎をずーーっと長時間眺め続けていても飽きないという人も多いことでしょう。その揺れ方に、人類を引き寄せる何らかのものがあるわけです。過去の記事にて近赤外線のお話をしましたが、炎の揺らぎもこれに劣らず、人類の心身の健康維持、脳・神経の処理能力向上にとって極めて大切なものだと言えます。
 なお、子どもを野外に連れ出して学習させると、学習能力が相当跳ね上がる現象が観察されます。周囲の草の葉の揺らぎ、木の葉や枝の揺らぎ、肌に当たる風の揺らぎ、聞こえてくる自然音の揺らぎなどが、子どもたちのニューロン活動におけるバックグラウンドを底上げしてくれるため、情報処理速度が格段に高まるからです。あと、揺らぎを伴った音楽も貴重だと思います。温かい季節になれば、炎以外のものからも、揺らぎの恵みを与えてもらいましょう。

(元動画は、「Fireplace 10 hours full HD」から、お借りしました。)

 
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