一つ前の記事では、海藻を食べることによって、海藻に濃縮されている多種類の微量ミネラルが摂取できることを紹介しました。そして、別記事にすると言っていました多糖類について、その中から今回は、硫酸化多糖類である〝フコイダン〟について紹介しようと思います。
フコイダン(Fucoidan)は、多くの方がいつかどこかで耳にされていることが多いと思われる物質です。これが注目を浴び始めたのは1990年代後半からで、それ以降、多くの企業からサプリメントの形で商品化されてきましたので、今ではWeb検索すれば多くの商品が掛かってきます。
そして、素朴な疑問として、「これは海藻に含まれる高分子であって、ヒトはこれを消化分解できるのか?」とか、「低分子化しているフコイダン商品があるが、あれは素直に吸収されるのか?」などというのもあるでしょう。或いは「多くは試験管内での実験結果のようだけれども、本当の抗がん効果があるのか?」という疑問もあることでしょう。そこで、そのあたりを踏まえて見てみたいと思います。
結論的に言うならば、掲載した図(高画質PDFはこちら)の右下にまとめておいたのですが、フコイダンの消化率や吸収率が低いからこそ大腸(結腸や直腸)にまで届いてフコイダンとしての作用を発揮できる、ということが大前提としてあると考えられます。もし、逆に、フコイダンの消化吸収率が高くて、小腸の途中まで来れば殆どが消化管内に残っていない、というのであれば、大腸の内壁粘膜細胞にはフコイダンとしての作用は現れないことになります。なぜなら、血中から粘膜へは殆ど供給されないからです。
このことは、口腔内から胃にかけても同様で、例えば唾液中や胃液中の酵素で消化分解されてしまったならば、フコイダンとしての直接的な作用は期待できないことになります。しかし、口腔や胃においても消化分解されませんから、口腔内や胃の粘膜にもフコイダンとしての生理的作用が現れる可能性が出てくることになります。
或いは、低分子化したフコイダンを点滴によって、いきなり血中に…という話が出てくるわけですが、シイタケのレンチナンと同様に、そのような特殊な方法を使ってまで多糖類を薬のように使う必要性はあまり無いと言えます。もっと有効な低分子の天然物質が沢山あるわけですから、それらを使った方が余程効果的なわけです。
ということで、フコイダンの利用の仕方として最も自然であるのが、フコイダンの含有率が最も高いモズクを食べることだということになります。
図の左側に、フコイダンの含有量が示されたグラフを引用させていただきました。湿重量としてオキナワモズク100g中には2.3グラム程度のフコイダンが含まれているようです。適当に味付けするなどして、このモズクをそのまま口から放り込めば、舌がん、その他の口腔がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、結腸がん、直腸がんなどに直接的にフコイダンが接し、例えば右上図に示されているような機序にて抗がん作用を示すことになります。
この図のごく簡単な解説は図の下部にまとめておきましたが、即ち、フコイダンはBMPR(骨形成タンパク質受容体)やTGFR(上皮成長因子受容体)を通じて腫瘍の形成や転移を抑制したり、EGFR(上皮成長因子受容体)の経路を通じて腫瘍細胞の生存や転移を抑制したり、TLR4(Toll様受容体4)やその他の受容体を通じて腫瘍細胞のアポトーシスを促進させ、腫瘍細胞の細胞死を促す、ということです。因みに、他の抗がん機序に関する文献も複数存在するのですが、煩雑になるため割愛させていただきました。
いずれも、フコイダンの代謝産物が効くのではなく、あくまでフコイダンそのものが効いていると解釈されています。従いまして、冒頭に挙げました疑問の幾つかが解決したことと思われます。要するに、消化分解・吸収され難いからこそ、直腸にまで達して抗がん作用を発揮することができる、ということになります。言い換えるならば、フコイダンの特徴が最も活かされるのは、フコイダンがそのままの形で通過する消化管内壁のがんだということになります。
では、消化管以外の部分に対する効果は何かあるのか?という点ですが、最も関連の深いのが腸内細菌です。このフコイダンを分解できる可能性があるのは、当然のことながら腸内細菌です。そして、モズクや、他の褐藻類としてワカメやコンブを食べる機会が多くなるほど、フコイダンを分解できる種類の腸内細菌が増えていくことになります。それらは大抵、ヒトの健康にとってプラスになる種類の細菌であって、結果として腸内環境が良くなることに繋がると考えられます。腸内環境は免疫、炎症、アレルギーなどに大きく関わりますし、脳や心臓をはじめとした殆どの臓器とも関わっていますから、全身の健康は腸の健康が前提であると言えます。また、腸内細菌によってフコイダンが低分子化されれば、がん組織の深部への到達が期待できることになります。
因みに、日本でフコイダンの研究が始められてから30年近く経つのですが、当初はO-157病原性大腸菌を抑制する効果が発見され、その後は様々な生理活性が発見されてきました。例えば、ピロリ菌を阻害することによる胃がんの抑制効果、尿の酸性化を防ぐことによる痛風の抑制、アルコール分解の促進、軟骨再生の促進、血栓の予防などです。そして近年では、日本よりも海外におけるフコイダン研究のほうが活発で、図に掲載しました抗がん機序の研究も海外におけるものです。褐藻の種類によってフコイダンの構成単位となる分子の構造が微妙に異なっていて、海外の海には日本近海に無い褐藻が多くありますので、あたかも宝の山を発掘するような感じで研究が進められているところです。
日本ではフコイダンの含有率の高いモズクが食料品売り場にて売られていますから、それを適量(1週間に数パック(容器orカップ))戴くことによって、少なくとも消化管における、がんをはじめとした種々のトラブルを避けることが可能になると考えられます。