痛風のリスク要因とリスク低下の方法

痛風を予防する方法

 この記事の前に、ヒトを含む一部の霊長類が、尿酸からアラントインへ変換する酵素の一つである尿酸オキシダーゼ(ウリカーゼ)の酵素活性を失ってしまった、というお話をしました(『ヒトの進化から見たアラントインの必要性』)。そこで今回は、結果として高濃度化してしまった尿酸による最大とも言えるデメリット、即ち〝痛風〟を生じるリスクが高まってしまったことについて、見て行こうと思います。
 因みに尿酸濃度が高まったことによって生じたメリットは、ビタミンCに代わって体の抗酸化機能を担ってくれるようになったことです。そのため、血中尿酸濃度が低過ぎてもよくないわけです。

 さて、痛風は男性に圧倒的に多く、40歳代が最も多くて、次が30歳代、その次が50歳代、その次が20歳代で、70歳代以上では非常に少なくなります。中年期に最も多いということは、他の多くの疾患が老化に伴って増えますから、痛風はその意味でちょっと変わった疾患だと言うことが出来ます。
 中年期で痛風リスクが高まる大きな原因は、酒の飲みすぎ、健康上あまり好ましくない食べ物の大量摂取、必要な栄養素やファイトケミカルの摂取不足、腸内細菌叢の単純化、過剰な運動または運動不足、高ストレス、肥満、などを挙げることが出来ます。
 
 このうち、特に飲食物について見てみようと思います。掲載した図(高画質PDFはこちら)の右上に、特に痛風にとって好ましくない食べ物の代表例が挙げられていて、右横に和訳を入れておきました。欧米では日本の何倍もの発症率になっていますので、その分だけ研究も進んでいます。
 避けるべきものは、旧来の欧米食にありがちな食べ物で、ビールなどのアルコール飲料は勿論のこと、赤身肉、シーフード、内臓の肉、精製炭水化物(特にフルクトース高含有物)、水素添加油(マーガリン、揚げ物、コーヒーフレッシュ、クラッカー、など)ということになります。
 そのものにプリン体が多いこと以外にも、尿酸の代謝、排泄や再吸収に影響を与えることによって痛風リスクを高まるという機序が存在します。その典型例は、例えばアルコールです。アルコール自体が代謝されるときにATPが多く分解されて、即ちプリン体が多く生じて尿酸値が上がることや、アルコール代謝に伴って乳酸が多く生じ、それによって尿酸の排泄が邪魔されることや、アルコールによって腎機能そのものが低下して尿酸の排泄量が低下してしまうことが挙げられます。もちろん、プリン体が多いビールでは、尿酸値が更に上がりやすくなります。
 なお、アルコール飲料に含まれる他の成分が、尿酸値の上昇を抑えるものもあり、その一例が日本酒です。日本酒にはアルコール以外にプリン体もそれなりに入っているのですが、尿酸値があまり上がらないことが確認されています。
 結局、尿酸値の上がりやすい酒類の順は、ビール>蒸留酒>日本酒、となり、旧来の日本人に痛風が比較的少なかった理由の一つに挙げられるでしょう。

 では、痛風発作が起こるメカニズムを簡単に見ておくことにしましょう。掲載した図の左下に、尿酸が体液に溶け切らずに結晶化してしまう場合の、その結晶の写真を載せておきました。尿酸はナトリウムとの化合物として結晶を作るようです。温度が低いほど溶解度が下がりますので、足や手の部分で結晶化しやすくなります。
 結晶化した尿酸ナトリウムは、組織中(関節内にいる)マクロファージなどの抗原提示細胞がそれを見つけて応答し、炎症性のサイトカイン(IL-1βやIL-18)を産生して、基本的にはそれを排除する活動を開始することになります。特に、尿酸ナトリウムの結晶を食べて処分するために好中球が集まってきて、それを食べ始めます。ただ、溶解度の低い針状の結晶を食べるものですから、好中球は死んでしまいます。それが刺激になり、どんどんと他からも好中球が集まってきて、同様の悪循環が繰り返されることになります。そのとき関節は激しい炎症と腫れに見舞われることになります。

 そのような炎症反応の原因になっている各段階や、途中経過の各段階を阻害する薬物が幾つか開発されて医薬品として使われています。ただ、それらは応急的に使うにとどめておくべきであって、予防だと言って日常的に継続投与すると、必要な代謝が阻害されてしまい、やがてそれが副作用として現れてくることになります。従いまして、そのような医薬品を持ちなくても済むように、食品やサプリメントによって平素から予防しておく必要があります。
 そのために役立つ食品やサプリメントが図の右下方に挙げられています。それは即ち、サクランボ、またはサクランボジュース、セロリ、またはセロリの種、ショウガ、ターメリック、クエン酸カリウム(レモンジュース)、アップルサイダービネガー、カリウム高含有食品、多めの水、マグネシウム、ブロメライン、ビタミンC、ω3系脂肪酸です。
 これらは、痛風リスクの高い人だけでなく、そうでない人にとっても健康維持や増進に有効なものが多いですから、特に40歳前後で宴会や付き合いなどで酒場に行く機会がある場合に利用してもらえば結構です。
 なお、体内のプリン体は、食餌由来のものが1~2割程度ですので、食餌中のプリン体の含有量だけを気にするのではなくて、体内における代謝や排泄能力などを適正化することが最優先です。遺伝的な要素も大きいと考えられますが、日本人が和食を食べている場合の痛風リスクはかなり低いのが現実です。そのような食生活から逸脱して、日本人として馴染まない食事をするからこそ痛風リスクが高まるわけです。原点に返って食事内容を見直してみましょう。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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