今日は、ちょっとパターンを変えた記事にしてみたいと思います(^^)
ゆっくりと…、ゆっくりと、あなたのペースで読み進めてみてください。
急ぐ必要はありません。
どこかで立ち止まっても構いません。
ただ、言葉が流れていくのを眺めるように、この文章を静かにゆっくりと目で追っていくだけで大丈夫です。
まず、ほんの少しだけ息を吸って、そのまま、ゆっくりと吐き出してみてください。
深呼吸をしようとしなくても構いません。
自然な呼吸のままで、ただ、吐く息が少し長くなる程度に…。
それだけで十分です。
吐く息が長くなると、体の奥にある緊張が、ほんの少しだけほどけていきます。
(←※1)
肩の力が、気づかないうちに抜けていくかもしれません。
背中の筋肉が、ゆるやかに沈んでいくように感じるかもしれません。
もし、何も感じないということがあっても、それは大丈夫です。
ただ、言葉が静かに流れていくのを、そのまま受け取ってください。
あなたの視線は、今、この文章のどこかにそっと触れています。
その視線が、文字の上をゆっくりと移動するたびに、あなたの呼吸は、自然と深く、静かになっていきます。
何かを理解しようとしなくていい。
意味をつかもうとしなくてもいい。
ただ、言葉のリズムが、あなたの内側に広がっていくのを感じてみてください。
今、あなたの周りにある音は、少し遠くに感じられるかもしれません。
部屋の空気は、いつもより柔らかく感じられるかもしれません。
あなたの意識は、外の世界から少し離れて、内側の静けさに近づいていきます。
ゆっくりと…、静かに…、あなたの注意が一点に集まっていきます。
その一点は、この文章のどこかかもしれませんし、あなたの呼吸の感覚かもしれません。
あるいは、胸のあたりの温かさかもしれません。
どこでも構いません。
あなたが自然に感じる場所で大丈夫です。
ゆっくりと、静かに、あなたの注意が一点に集まっていきます。
今、あなたの脳は、少しずつ、ゆっくりと、落ち着いたリズムに整い始めています。
(←※2)
考えごとは、雲のように浮かんでは消えていきます。
つかまえる必要はありません。
追いかける必要もありません。
ただ、浮かんで、流れて、消えていく…。
その様子を、少し離れた場所から眺めているような感覚です。
あなたの内側には、静かな湖のような場所があります。
風が止まり、水面がゆっくりと落ち着いていくように、あなたの心も静かになっていきます。
呼吸は、あなたが意識しなくても、自然に整っていきます。
体は、あなたが命令しなくても、勝手に緩んでいきます。
脳は、あなたが努力しなくても、静かなリズムに同調していきます。
(←※3)
あなたは、ただ読んでいるだけでいい。
ただ、言葉の流れに身を委ねているだけでいい。
今、あなたの内側には、深い静けさが広がりつつあります。
その静けさは、あなたを守り、あなたを落ち着かせ、あなたを整えてくれます。
そして、その静けさは、あなたが望めばいつでも行きつくことのできる場所です。
あなたの呼吸と、あなたの注意と、あなたの内側の静けさが、ひとつに重なっていく…。
その重なりの中で、あなたは、ただ「ここにいる」ことをだけを感じています。
ゆっくりと、深く、静かに。
あなたは今、とても穏やかな場所にいます。
<ここまでで、あなたの脳は、催眠に入りやすい状態に近づきました。脳のリズムが整い、穏やかな精神状態に変化しています。ただ、これ以上の心理的変化は、文字を読んでいる限りは深めることができませんので、あなたは目を閉じて外界からの刺激を減らし、第3者に音声にて上記のような言葉を語りかけてもらう必要があります。そうすれば、催眠が実現することになります。>
では、上記の※の部分の注釈を書いておきます。
※1)この部分では、呼吸によって自律神経のバランスが変わり、吐く息が長くなると、副交感神経が優位になり、心拍がゆっくりになり、筋肉の緊張が自然とゆるんでいきます。
※2)脳は、リラックスすると、アルファ波やシータ波と呼ばれる“ゆっくりしたリズム”を生み出します。これは、前頭前野の活動が静まり、思考のざわめきが弱まっているサインです。
※3)これは、脳が本来持っている“外部のリズムに同調しやすい性質”によるものです。一定のテンポの言葉や呼吸は、脳のネットワークをゆっくりと整えていきます。
なお、第3者に語りかけてもらう場合、催眠術を操るプロフェッショナルが使う下記の3つの技法を取り入れると効果が高まります。
① 単調な声・一定のリズム
催眠術師の声は、ゆっくり、単調で、一定のテンポを保っています。これは、脳が外部のリズムに同調しやすいという性質を利用しています。脳は、一定のテンポの刺激を受けると、そのリズムに合わせて活動し始めます。これによって、注意が一点に集中し、思考の幅が狭まります。狭まるということは、雑念が減るということでもあります。雑念が減ると、主として働くニューロン集団の同期がしやすくなるわけです。因みに、このようなパターンで話をする学校の先生の授業では、居眠りする学生が頻発することになります。
② 視線誘導・呼吸誘導
催眠術師は、相手の視線を固定させたり、呼吸をゆっくりさせたりします。それによって、次のような現象が起こります。
〝視線が一点に固定される〟 → 視覚野と前頭前野の活動が単調化する → 注意が狭まる
〝呼吸がゆっくりになる〟 → 自律神経が安定する → 前頭前野の活動が低下する
これらによって、脳は“暗示を受け入れやすい状態”になります。
③ 言語パターン(暗示)
催眠術師は、特有の言葉の使い方をします。それは、「あなたは〜している」、「だんだん〜になっていく」、「ゆっくりと〜」などです。これらは、脳の“予測システム”に働きかける言葉です。脳は、言葉で描かれたイメージを“現実として扱おうとする”性質があります。事前に注意している範囲が狭まっており、批判的思考が弱まっている状態であるため、効果が強く出ることになります。
医療の分野でも、「催眠療法(ヒプノセラピー;hypnotherapy)」というものが使われています。これは、脳の自然な働きを利用して、不安や痛みをやわらげるための心理的な技法です。
そもそも、脳は、普段は多くの情報を同時に処理しようとしています。しかし、不安が強いときや、痛みが気になるときには、脳はその一点に注意を奪われ、ますます不安になったり、痛みを強く感じたりします。そこで、催眠療法は、呼吸や声のリズムを使って脳の状態を落ち着かせ、注意の向きを変えることによって、心身の負担を軽くしていく療法だということになります。
上述の催眠術とほぼ同様ではありますが、医療分野では催眠療法の技法を次のようにパターン化しています。
① 誘導(Induction)──脳のリズムをゆっくりにする
セラピストは、落ち着いた声でゆっくり話し、呼吸を整えるように促します。即ち、深くゆっくりした呼吸、体の力を抜くイメージ、目を閉じる、または一点を見つめる、ゆっくりしたカウントダウンなどを行います。これらは全て、脳の活動を「考えるモード」から「落ち着いたモード」へ移行させるためのものです。
② 深化(Deepening)──注意の幅を狭め、心を静かにする
誘導によってクライアントがリラックスしたら、次はその状態を深めていきます。即ち、階段をゆっくり降りるイメージ、波に揺られるイメージ、体が重くなる、軽くなる感覚などを与えるようにします。これらは、脳の「批判的に考える部分(前頭前野)」の働きを弱め、内側のイメージが感じやすくなる状態をつくることになります。
③ 暗示(Suggestion)──脳の“予測”に働きかける
催眠療法の中心となる部分です。セラピストは、クライアントの目的に合わせて、次のような言葉を使います。即ち、「あなたは安心している」、「痛みは波のように遠ざかっていく」、「呼吸のたびに体が軽くなる」などです。脳は、言葉で描かれたイメージを“現実として扱おうとする”性質があります。催眠状態ではこの性質が強く働くため、不安や痛みの感じ方が変わることになります。
④ 覚醒(Emerging)──ゆっくりと通常の意識に戻る
最後に、セラピストは次のように誘導します。「体に力が戻ってきます」、「1から5まで数えると目が覚めます」などです。これによって、脳のリズムが通常の状態に戻り、セッションが終わることになります。
以上が、一般的な手法になるわけですが、催眠療法が“不安や痛み”に効く理由は、脳科学的には次のように説明できます。
1. 注意の向きが変わる
不安や痛みは「そこに注意が向いている」ほど強く感じます。従いまして、催眠状態では、注意が他の事柄の一点に集中することによって、注意の点が苦痛の点から外れるため、苦痛が軽減されるということです。
2. 前頭前野の過剰な働きが静まる
不安は「考えすぎ」ることで増幅されます。従いまして、催眠状態では前頭前野が静かな状態になり、不安のループが弱まることになるわけです。
3. 内的イメージが強まり、痛みの知覚が変わる
痛みは“脳の解釈”で大きく変わります。従いまして、催眠状態では、「痛みが遠ざかる」、「体が軽くなる」といったイメージが強く働き、知覚が変化してしまうことによります。
4. 自律神経が整う
深い呼吸とリラックスは、交感神経の過活動が抑えられ、心拍・筋緊張・不安が和らぐことになります。
なお、同じように働きかけても、催眠にかかり易い人と、かかり難い人がいます。かかり易い人は、集中力が高い人、想像力が豊かな人、相手を信頼している人などがかかり易い傾向にあります。一方、かかり難い人というのは、自ら「絶対にかかりたくない!」と強く抵抗している人や、疑い深い状態にある人で、そのような場合は暗示を受け入れ難いですので、全くかからない場合も出てきます。ただ、せっかくのセラピーを無駄にしてしまうことになりますから、抵抗するのはやめにしましょう(^^)
