「フルボ酸」って何? ~その1:原材料になるリグニンの誕生~

フルボ酸」って何? ~その1:原材料になるリグニンの誕生~

 タイトルに示しましたように、「フルボ酸」について言及していく予定なのですが、この物は単一の物質ではなくて、特定の条件にて人為的に処理していくことによって得られる、非常に沢山の物質が混合した状態のものです。従いまして、「フルボ酸ってどのような効果があるのですか? 化粧品にも配合されていますよね。飲むものもありますし…、将来的には医療分野でも期待されている…とか。あれは一体何なのですか?」などという質問に答えるためには、一番最初から順を追って見ていかなければ、それこそ雲をつかむような話になると思われるのです。また、原材料はどこから採ってきたものなのか、人為的な処理をどのように行ったのかによって、含まれている成分が大きく異なってきますので、同じように「フルボ酸」という名称で売られているものでも、中身が全然違っていたリ、それによって体に対する作用も全く異なってしまうことになります。そのようなものに対して「一概には言えません」などと返答を濁してしまっては、何の情報にもならないわけですから、原点からしっかり見ていくという選択をさせていただきました。

 「フルボ酸」という混合物の中身として、最も多い比率で含まれているのが、「リグニン」という物質の分解産物が元になったものです(回りくどい言い方ですが、あとからも色々な変化が起こっていくことが多いのです)。そこで、先ずは、リグニンという物質について見ていくことにします。
 身近な例を挙げるならば、木造建築の柱や板が頑丈である原因を作っているのがリグニンです。今日のところは、化学構造的な話はしないようにしようと思っているのですが、掲載した図(高画質PDFはこちら)の上段のやや右寄りの位置に、なにやら6角形のものが沢山つながった物が見えると思うのですが、これがリグニンという物質の化学構造を示したものです。「こういうの、見ただけで頭が痛くなるんです…」という人もいらっしゃるかも知れませんから深追いはしませんが、この物質が、柱や板を強固なものにしてくれています。
 リグニンが木材中にどれぐらい含まれているのかというと、樹種にもよりますが、乾燥重量として針葉樹で25~35%、広葉樹で20~25%程度であるとされています。それ以外に含まれている物質は、セルロースが50~58%、ヘミセルロースが15~25%で、残りの数%は灰分などになります。
 セルロースやヘミセルロースは野菜の繊維質として一般的なものですから、乾燥させた場合の性状はご存じのとおり、フニャフニャになるものです。ロープにすれば、引っ張り強度だけはそこそこ強くなりますが、曲げ強度は無いに等しいものです。しかし、セルロースやヘミセルロースの繊維をリグニンで取り巻くと、強固な柱や板になるということです。鉄筋コンクリートに例えれば、セルロースやヘミセルロースは鉄筋に相当し、リグニンはコンクリートに相当します。
 法隆寺など、しっかり作られた木造建築は、千何百年という長期間にわたって健常性を維持していますし、屋久杉などの生きた木も千年以上にわたって健常性を維持していますから、併せれば2千年以上にわたって健常性が維持されることになります。そして、そのような長期間にわたって健常性を維持する優れた特徴を生み出しているのがリグニンという物質だということになります。それに較べると、鉄筋コンクリートなどという一見強そうなものは、木の十分の一程度の耐用年数しかありません。「でも、木はシロアリにやられるのでは…」「なるほど、しかし、シロアリを防ぐことができれば…」

 植物が作り出した、当時では史上最強であったリグニンも、後に強敵が現れた…というお話をしましょう。「え?墓穴を掘りそう…」「だからこそ、フルボ酸が出来るようになったのです」
 掲載した図の左上から右に向かって、植物の歴史を採り上げてみました。今から4億4380万年前までにおける直近の時代はオルドビス紀と呼ばれています。植物は、その一部が海の中から陸上へと進出を始めました。その植物は、今で言う苔(コケ)のような植物であり、地面から大きく上に向かって伸びることは出来ませんでした。その理由は、リグニンを合成することが出来なかったからです。即ち、彼らはリグニンの合成方法を知らなかったわけです。

 次の時代は、シルル紀(~4億1920万年前)です。この時代に、植物にとって画期的なことが起こったのですが、それはリグニンを作り始めたことです。もちろん、当時のリグニンと、現在の植物が作っているリグニンとの構造的な違いは大きいかも知れませんが、セルロースやヘミセルロースの繊維の隙間を埋めることによって、それまでヘナヘナであった植物体が頑丈なものになりました。「これなら、風にも耐えて上に伸びていける!!」と、当時の植物は思ったことでしょう。

 次の時代はデボン紀(~3億5890万年前)です。リグニンの作り方や使い方が上手になって、今で言う「木」(木部)を持つ植物が誕生しました。分類的にはシダ類なのですが、何メートルという高さまで背を伸ばすことが可能になりました。

 次の時代は石炭紀(~2億9890万年前)です。木性シダ植物は、どんどんと高さを増し、大木として森を作るまでになりました。「石炭紀」という名称は、この当時の大木が石炭になったことから付けられました。「しかし、なぜ腐らなかったのでしょうか…?」
 そこなんです!!当時は、リグニンを分解できる生き物が居なかったのです。シロアリは居たかも知れませんが、シロアリはセルロースを分解してブドウ糖を得るだけです。リグニンには見向きもしませんでしたし、分解もできませんでした。そして、その他にも、リグニンを分解する生物は皆無だったのです。だからこそ、枯死した木が分解されず、やがて地中の高圧によって石炭になっていった、ということです。
 先にリグニンの化学構造をちょっと見てもらいましたが、二重結合を持った6員環が主要な構成要素になっています。石炭と石油の大きな違いは、この6員環(芳香族)を多く含むか否かです。石炭は、原材料として木材のリグニンが多く混じっていますから、芳香族の分子の割合が多いことが特徴になります。このことは、石炭の元は木であったという証拠にもなります。

 次の時代はペルム紀(~2億5190万年前)です。この時代に、またまた革命的なことが起きたのですが、それは、リグニンを分解できる生物が地球上に現れたことです。その生物とは、今で言う〝リグニン分解菌〟であり、具体的には〝白色腐朽菌〟です。
 白色腐朽菌は、現代のシイタケ、ヒラタケ、エノキタケ、ナメコ、カワラタケなどが該当します。因みに、褐色腐朽菌というのもあるのですが、これはサルノコシカケ、マツオウジなどが該当し、リグニンは分解できない菌(木材腐朽菌)になります。

 白色腐朽菌が登場したため、枯死した木はそれらによってリグニンが分解されるため、内部まで分解されることになってしまいました。この菌は、リグニンを分解すると共に、セルロースやヘミセルロースをも分解する能力を持っています。そして、目的はどちらかといえば、分解することによってブドウ糖を得ることができるセルロースやヘミセルロースを分解することです。そして、リグニンをも分解する理由は、邪魔になるから分解するだけです。「では、リグニンは分解しても栄養素にはならないんだ…」「そのとおりです!」
 私たちが食べる野菜、例えばダイコンの中にも、乾燥重量として1~2%程度のリグニンが含まれています。そしてそれは、ヒトの直接的な栄養素になるのではなく、食物繊維として大腸がんを防いだりなどの掛け替えのない役割を果たしてくれます。
 なお、リグニンを直接的に食べた場合の話も長くなりますので、それは機会を改めます。今日のポイントは「フルボ酸」ですから、リグニンがフルボ酸の主要な原料になっている、ということです。そして、リグニンがフルボ酸へと様子を変える場合に必要になるのが、ペルム紀に誕生した白色腐朽菌だということです。
 もう一つ、白色腐朽菌はリグニンを栄養素の元にすることはありませんから、完璧には分解してしまわないことが多いことです。完璧にとは、例えば二酸化炭素と水に変えてしまうことなどを指します。完璧に分解してしまわないからこそ、6員環を含んだ小分子が残り、それがフルボ酸の形成に大きく関わるということになります。
 既に文字数が多くなりましたので、この続きは別原稿とさせていただきます。木、白色腐朽菌、他の多くのバクテリア、環境条件などが、フルボ酸の産生を進めて行くことになります。ではまた…。

 
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