月と人間との関係は、太陰暦という暦が存在していることからも、その大きさを伺い知ることが出来ます。1か月という周期にて月の見え方(月の形)が目に見えて変化しますので、カレンダーの無かった時代には重宝したことでしょう。また、潮の満ち引きも月の位置によって大きく変化しますので、海で漁をする場合には頭に入れておくことが必須だったことでしょう。では、ヒトの生理的な面における月の影響についてはどうなのでしょうか…?
昔は、満月の時期に出産が多くなると言われていて、幾つかの学術的なデータはあるのですが、その後に幾多の研究機関がその真偽について検証したところ、因果関係は見出せなかった、という結論に至っています。
或いは、満月の日に犯罪が増えるという話があったわけですが、これも色々な角度から検証された結果、因果関係は見られなかったという結論に至っています。逆に、新月だからと安心していると、その夜の暗さが狙い時になっているのかも知れません。
或いは、ヨガの分野では「満月の日にはエネルギーが降り注ぐので…」などと説明されていたリ、ファスティングを行うグループからは「新月の時には解毒が進むため…」などと、あたかも科学のように語られているのをよく目にします。一体、どこまでが本当なのでしょうか…?
先ずは、データを見て頂くことにしましょう。掲載した図(高画質PDFはこちら)の下方中央のグラフは、アルゼンチンの先住民族を対象に調査された結果なのですが、この人達も今や、都市部に住んでいる人がいたり、田舎に住んでいるのだけれども夜間に電灯を使う生活をしている人がいたり、田舎で昔ながらの夜間が暗い生活をしている人たちもいます。その3種類の生活パターンのそれぞれの人たちをグループとして、月の満ち欠けと、日没から睡眠開始までの時間(分)との関係が調べられた結果です。
最大の見どころとなる点は、満月になる数日前が、日没から睡眠開始までの時間が最も長くなることです。即ち、陽が沈んでからの活動時間が長いため寝る時刻が遅くなる、ということです。なお、実線で描かれているのはサインカーブで近似したものですので、プロットされている一つ一つの点を見て頂いた方が良いかもしれません。
例えば、夜間が暗い田舎に住んでいる人(田舎-光無し(Ru-NL):23人)の場合、日没から睡眠開始までの時間が最も長くなる日は満月の2日前であり、最も短くなる時期に較べると、およそ30分程度長くなっている(遅くなっている)という結果になっています。
同様に、夜間に電灯を使う田舎に住む人(田舎-光少(Ru-LL):20人)の場合、全体的に日没から睡眠開始までの時間が長めになっていますが、日没から睡眠開始までの時間が最も長くなる日は、満月の2日前であることは同じです。
一方、都会に住む人(都会:26人)の場合、全体的な傾向として、日没から睡眠開始までの時間が更に長めになっています。即ち、同時期であれば、暗い田舎に住む人よりも20~30分遅い時間に入眠していることになります。そして、睡眠開始までの時間が最も長くなるのが満月の4~5日前になっています。ただ、近似したサインカーブで比較してみると、暗い田舎の人と大きな違いにはなっていないとも言えます。
なお、同グラフで興味深い他の見どころは、暗い田舎に住んでいる人の場合、新月の4~5日前にもグラフの小さな山が出来ていることです。満月と新月の共通点は、いずれも潮の満ち引きで言えば満潮を迎える時だということでしょう。
人体におきましては、月の重力または地球の自転による遠心力が、人体を軽くする方向に作用している時期となります。そのような微小な外力のかかり方の変化を、昔ながらの自然な暮らし方をしている人たちは、無意識の中でもしっかりと感知していることになります。
次に、掲載した図の右下のグラフを見て頂くことにします。このグラフの縦軸は睡眠時間(分)です。例えば「500分」であれば「8時間20分」のことです。全体的に見ると、睡眠時間が最も長いのは夜間が暗い田舎に住む人たちで、次に長いのは電灯を使う田舎の人たちで、最も短いのは都会に住む人たちです。
月の満ち欠けとの関係を見てみると、先に見たグラフをそのまま繁栄するかの如く、日没から睡眠開始までの時間が長い(さっくりと言えば遅く寝る)時期ほど、睡眠時間が短くなっています。ただし、都会に住む人の場合、睡眠時間が最も短くなるのは満月の7~8日前になっていることです。田舎に住む人と違い、月齢的には前倒しになっているということです。
因みに、別の研究の一環として、ワシントン大学の464人の大学生(平均年齢(分布)= 21.5歳(18〜38歳)が調べられた結果、上述の都会に住む人の場合に極めて近いパターンになったことが確認されています。要するに、民族の問題ではなく、住んでいる所の環境の影響が大きいことになります。都会は、月の満ち欠けの影響に加え、それをずらせる何らかのものが存在しているのだと考えられます。
細かな考察は色々と可能でしょうが、以上の結果において先ず言えることは、現代人の睡眠も月の満ち欠けの影響をしっかりと受ける、ということです。
次に、なぜそのような睡眠パターンになるのかについて想像を膨らませるならば、それは太古の人たちの生活パターンが原因になっていると考えられます。満月の数日前は、日没後の太陽光の減少を、月の光が上手く補ってくれる時期になります。因みに、満月の時期になってしまうと、太陽と地球と月が殆ど一直線上に並びますから、満月が顔を出す時間には辺りが相当暗くなっているため、既に外で活動し難くなってしまっています。だからこそ、満月の数日前がチャンスとなります。
何のチャンスかと言えば、獲物を得るチャンスです。昼行性の草食動物が、辺りが暗くなってきたので塒ら(ねぐら)に帰ろうとしますが、薄明りで外敵を発見する能力が最も低下する時間帯となります。そこを、太古の人たちは狙い撃ちしました。だからこそ、その時期が来ることを、毎月のように待ち望んでいたわけです。そして、その時期になると、精神的にも肉体的にも高揚するわけです。