メトホルミンは優れた抗がん作用をも示す

メトホルミンは各種のがんに対して優れた抗がん作用を示す。

 メトホルミン(Metformin;メトフォルミン)を主テーマにした記事は、これが2本目になります。因みに1本目は『糖尿病治療薬であるメトホルミンは優れた抗老化薬である』というタイトルにて、抗老化作用(アンチエイジング作用)を示すことを紹介させていただきました。それは即ち健康長寿や若返り、美容の効果を示すことでもあります。また、その文中におきまして、古くから注目されている血糖降下作用(腸管からの糖の吸収抑制、取り込んだ糖の利用促進、肝臓における糖新生抑制、インスリン感受性の向上など)、その結果としてもたらされる代謝改善、循環器疾患や認知症リスクの低減、更には、抗炎症作用や抗がん作用を示すことについても少し触れました。そして今回は、抗がん作用だけに着目し、その内容をごく簡単に紹介したいと思います。

 先ずは、掲載した図(高画質PDFはこちら)の左側に示したデータから見ていただくことにしましょう。図中にも文章にて注釈を入れておきましたが、この実験は、ヒトから採取した大腸がんの細胞株をマウスの皮下に移植し、その5日後に、メトホルミン投与群(MTF(+))には、メトホルミンが150mg/kg体重/日、の投与量にて3週間、腹腔内投与(注射)されました。その後、経日的に腫瘍(がん組織)の体積や体重の測定、その他の生理的なデータが採られました。
 上方の写真は、実験終了後に腫瘍の部分を摘出し、コントロール群(メトホルミンを含まない生理食塩水を投与した群(MTF(-)))と、メトホルミン投与群の双方における代表的な各10個体の分が並べられて写真撮影されたものです。メトホルミン投与群の腫瘍は、成長が抑制されていたことが判ります。
 その右側の小さなグラフは、実際に腫瘍の重量が測定された結果を示したものです。メトホルミン投与群(緑色のプロット)はコントロール群に比べて腫瘍の成長が有意に抑制されていたことが確認できます。
 下段の左側のグラフは、腫瘍の体積の経日変化が示されたものです。メトホルミン投与群では、腫瘍の成長が、メトホルミン投与の初期から大幅に抑制されていることが判ります。
 また、その右側のグラフは、マウスの体重の経日変化が示されたものです。これによると、メトホルミン投与群とコントロール群の間には差が殆ど認められません。これが非常に大切なことなのですが、一般的な抗がん剤を投与すると、その強烈な毒性によって、がん細胞以外の細胞にも多大なるダメージが加わり、体重がどんどん減少していくことになります。しかし、メトホルミンでは、そのような悪影響が出ないということです。

 メトホルミンの抗がん作用を示す研究報告の数は大変多く、様々な実験系にて有効性が確認されています。また、ヒトを用いた臨床実験も世界の各地で行われており、有効性を示す研究データがどんどんと蓄積されつつあります。
 がんだけでなく、例えば大腸ポリープの切除術を行った患者さんに対する予防効果についても、既に2016年に横浜市立大学から報告されています。それは、ポリープの切除術を受けた計151名の患者さんを2群に分け、一方にはメトホルミン250mg/日、を投与し、もう一方にはプラセボ(患者も医師も区別がつかない偽薬)を投与し、1 年後に内視鏡検査が行われた結果、メトホルミン投与群におけるポリープ再発生が有意に抑えられたとするものです。
 ただ、安価かつ全世界で普及しているメトホルミンにてがんを抑えることが出来るとなれば、抗がん剤を開発する企業や、がんビジネスにて収益を得ている医療機関は倒産に陥りかねません。そのため、現在行われている臨床試験は、何らかの抗がん剤と組み合わせて使うという苦肉の策が進行中です。これに関する報道も、検索すれば沢山出てきますが、それを読んで「抗がん剤と組み合わせなければ効果が出ないのか…」などと捉えないでください。抗がん剤と組み合わせてしまうと、抗がん剤によってがん細胞が数年後には反撃に出てきますから、抗がん剤は絶対に使ってはなりません。
 実際に何かと組み合わせて相乗効果を得たいのなら、これまでに幾つか紹介させていただいたファイトケミカルと組み合わせていただきたいと思います。もちろん、少なくとも日本の医療機関では、そのようなカネにならない方法は口が裂けても言わないはずです。

 メトホルミンのみを純粋に使って行われている臨床データは世界中に多くあります。掲載した図の右半分に示しましたのは、子宮頸がんの治療に使われた場合の抗がん機序についてまとめられた論文中の一部の図です。どのがんにおきましても、メトホルミンの最大の特徴は、この図に示されているものが主になります。即ち、今回は詳細を割愛させていただきますが、メトホルミンは主にLKB1というプロテインキナーゼを介してAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)を活性化し、p53を活性化、mTORを阻害、PI3K/AktやMAPKSを阻害する、というものです。
 なお、mTORというのは抗がんの為のターゲットにされることの多いタンパク質キナーゼなのですが、メトホルミンには図中の経路以外に直接的に阻害する経路も確認されています。これが適度に阻害されることによって、がん細胞の増殖や血管新生が抑制されることになります。

 メトホルミンのご利用につきましては、1本目の記事に書いていますので、必要な場合はそれをご覧になってください。服用量につきましては、上述の実験の中にも250mg/日、というのがありましたように、500mg錠の場合は半分に割って250mgにしてから飲むほうが無難だと思われます。また、これはあくまで医薬品ですから、糖尿病でない限り、毎日飲む必要は無く、運動量が少なかった日や、糖質や脂質を多く摂りすぎてしまった日などを主にして、数日に1回程度で様子を見るほうが適切かと思われます。その代わり、他の幾つかの抗がんファイトケミカルは毎日摂取し、補助的にメトホルミンの力を借る、というスタンスが最も良いのではないかと思われます。

 
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