マイクロプラスチックやナノプラスチックの脅威

マイクロプラスチックやナノプラスチックは胃腸の問題、内分泌かく乱、呼吸器系の問題 、心血管系の問題、皮膚刺激、アレルギー反応などを助長する。

 かつて、私たちが食べたり、吸ったり、塗ったりする物には含まれていなかったものが、今後は更に増えていくことになります。それは、化学的に安定であるプラスチックの微粒子です。安定であるからこそ、体内に入った時に溶けず、分解されず、組織中に入って残存するため、様々なトラブルを巻き起こすことになります。
 「砂埃とか岩石の粉はどうなんでしょうか…?」という疑問については、これは大抵の場合はゆっくりではありますが水に溶けますので、体液に触れれば体液によって溶かされることになります。例えば、飲み込んだ場合は胃酸によって比較的容易に溶けてしまいますし、腸管内を移動中に溶け切らなかった場合そのまま排泄されることになります。或いは、吸い込んだ場合は、線毛のある気道中ならば痰として排泄されますし、肺胞まで入った場合は肺胞マクロファージによって取り込まれ、ゆっくりと溶かされたり、溶けきらなかったとしても肺胞マクロファージごと、咳によって痰にくるまれた状態で排泄されることになります。砂埃は生物の歴史と共に共存してきたものですから、私たちも対処の方法を獲得しています。しかしプラスチックは随分と状況が異なるというわけです。

 マイクロプラスチックと呼ばれるのは、非常に小さな粒子になったプラスチックのことで、その大きさについては複数の定義があって、5mm以下であるとか、1mm以下である、などとなっています。更に小さくて1μm(1mmの1,000分の1)であるプラスチック粒子については、ナノプラスチックと呼ばれています。
 このような微粒子が身の周りに溢れるようになった原因は複数あります。一つは、プラスチック製品が環境中に放棄され、それに紫外線が当たったり物理的に削られたりして微粒子になるものです。砂浜に打ち上げられる膨大な量のプラスチック製品や破片をご覧になった方は多いと思いますが、もっと細かい粒子になったプラスチックは海洋中にてプランクトンや魚に食べられ、魚の体内に蓄積していますし、その魚を食べるイルカなどの体内には更に大量のプラスチック粒子が検出されます。もちろん、その魚を人が食べる場合、肉眼では確認できない小さなサイズのプラスチック粒子、即ちマイクロプラスチックやナノプラスチックを一緒に食べることになるため、健康被害が生じることになります。
 二つ目は、各種のプラスチック製の容器やレジ袋、プラスチックの繊維で作られた敷物や衣類などから、意図せずして超微粒子のプラスチックが遊離してきているものです。特に、ナノプラスチックと呼ばれる超微粒子は、ペットボトル入りの水にも含まれていることが確認されていますし、食品売り場で何かを買った時には大抵はプラスチック製の容器に入れられていますから、その食品にはナノプラスチックが付着していることが確認されています。或いは、化学繊維で作られたカーペットの上を歩けば摩耗によって埃が舞い上がりますし、化学繊維の服を着ているだけで埃が周囲に漂い、その埃の中には粒子になったマイクロプラスチックやナノプラスチックが含まれています。
 三つ目は、プラスチックでできた建築資材やプラスチック成分を含む塗料などが劣化と風雨によって環境中に遊離してきているものです。昔の日本家屋のように、木材、土壁、障子や襖(ふすま)、瓦、石などで出来ていれば問題は無かったのですが、現代の街では建築資材や塗料などにプラスチック成分が配合されていることが多いので、それが原因となっています。
 四つ目は、工業上において、プラスチック類の加工時や、プラスチック製品の摩耗によって粉塵が遊離してくるものです。また、自動車タイヤのゴムの中にもプラスチック成分が配合されていることが多く、それも問題視されています。

 マイクロプラスチックやナノプラスチックの人体に対する影響の研究は、まだ始まったばかりという段階ですので、今後においてもっと詳しい報告が色々と出てくると思われます。少なくとも現段階で言えることは、掲載した図(高画質PDFはこちら)の左側に示されているような侵入経路や、図の右側にまとめられている悪影響、即ち、胃腸の問題、内分泌かく乱、呼吸器系の問題、心血管系の問題、皮膚刺激、アレルギー反応などを悪化させることが確実視されています。
 病気の予防や健康増進の方法について、一連の記事で採り上げています各々のことを全て解決したとしても、このマイクロプラスチックやナノプラスチックの問題を解決しない限り、完璧はあり得ないでしょう。従いまして、現代の生活環境と生活習慣に避け込んでしまっている状況から抜け出すことは非常に大変ですが、出来るところから実行に移していきましょう。

 
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