ヘビはなぜ細長いのか

ヘビはなぜ細長いのか
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 ヘビ(蛇;snake ) が好きな人の割合は、男性で1割弱、女性で2割弱だそうです。好きな人が、想像以上に多くいらっしゃるんですね。そして、女性のほうに好きな人が多い、というのが調査結果です。
 逆に言えば、ヘビが嫌い、または苦手な人は、男性で9割強、女性で8割強だということになります。とにかく、細長いものがくねくねと動く、にょろにょろと這い回る姿が気持ち悪いという人が多いでしょうし、毒蛇などがいて咬まれたり襲われたりするから怖い、と思う人もいらっしゃることでしょう。
 ヘビは、なぜあんな姿になったのでしょうか…。もっと可愛い姿をしてくれていれば良かったのに…と思ってしまいます。

◆ ヘビは胸が長くなった生き物
 では、少し詳し目に、ヘビを見てみましょう。少なくとも今の時代のヘビを見ますと、頭部から尾の先まで、ほぼ全身が細長い一本の身体で構成されています。四肢(一対の手足)は無く、胴体の内部には多数の椎骨(背骨を構成している骨)が入っています。その数は、ヒトならば32~34個なのに、ヘビでは約200~500個という、膨大な数になっています。しかも、その増加分は、殆どが胸の部分を構成している“胸骨”であって、肋骨(あばら骨)が付いています。要するに、胸に相当する部分が極端に延長された体になっているわけです。では、いつ頃からそんなふうになったのでしょうか…
 「ヘビ」と呼べる生き物が、いつ誕生したのかにつきましては、分子系統解析と呼ばれる手法などが用いられて、その結果から、中生代のジュラ紀にまでさかのぼる可能性が考えられています。ジュラ紀と言いますのは、恐竜の時代とも言われている時代で(実際には恐竜は後の白亜紀のほうが個体数が圧倒的に多い)、今から約2億130万年前から約1億4550万年前までの時代です。この頃に、四肢(手足)を持ったトカゲのような生き物から、ヘビのような形に向けての進化があったのだろうと考えられています(証拠となる化石が非常に少ない)。なお、この頃には小型の哺乳類も既に誕生していたのですが、もちろん人間様の姿はありません。

◆ 足だけが残る太短いヘビの誕生
 トカゲのような生き物からヘビへの途中経過を示す化石は非常に少ないのですが、その中で、アルゼンチンの白亜紀後期の地層から見つかった、ナジャシュ(Najash rionegrina)と名付けられた原始的なヘビの化石があります。ナジャシュは、約9,000万年前の陸生ヘビだったのですが、現在のヘビとは異なっていて、椎骨の合計が122個(進化における増加途中)で、体長は約1.2~1.5mほどの大きめのヘビです。胴体の直径は推定しかねるということで、どれほど太短かったのかは分かりませんが、まぁまぁ太短そうな大きなヘビだと考えて結構でしょう。そして、特徴的なのは、骨盤と、よく発達した後肢を備えていたことです。しかも、その後肢は単なる痕跡器官ではなくて、実際に身体を支えたり、移動に使ったりできる構造を保っていたことです。併せて着目すべきことは、先に前肢が失われていたことや、肩帯がすで縮小していたことでしょう。
 なお、その後の研究で、後肢と骨盤を持っている初期のヘビの系統は、約1億7,000万年前から約1億年前まで存在していた可能性のあることが確認されました。

◆ 進化の途中にいたヘビは何を思っていたのか
 では、その頃のヘビは、日ごろ、何を感じていたのでしょうか?これは、あくまで想像なのですが…。
 前肢が無くなり、胴体(胸の部分)が、かなり長くなりました。それによって、狭い場所、奥まった場所への侵入がしやすくなり、そのような場所にある餌を得やすくなったのは大きなメリットでした。ただ、後肢は残っているとはいえ、長くて重い胴体全体を押し進められるほどの大きな推進力は得られませんでした。そのため、地面を移動するときには、かつて四肢で歩いていた先輩たちとは違う身体の使い方をしなければ、上手く歩けませんでした。例えば、胴体を地面にべったりと接触させ、少し長くなった身体を左右にくねらせることと、それに合わせて後肢で地面を捉えて蹴ることで、移動しなければならなくなったのです。けっしてトカゲのように速くは進めませんでした。
 因みに、現代のヘビの多くは、“直進移動(腹進運動)”も、することができます。例えば、体を左右にくねらせることができない狭いところに入り込んだ場合や、木の枝などに上っている場合がそうです。そのような場合、現代のヘビは、お腹側に発達した横長の鱗(腹板:ふくばん)と、それに繋がる特殊な筋肉を細かく波打たせることで、直進移動ができます。しかし、ナジャシュを含めた当時のヘビには、腹板も、それに繋がる筋肉も、まだ装備されていなかったのです。
 「あぁ~、もう速く歩くことはできなくなっちまった…。悲しいなぁ。こうなったら、あまり表に出ないようにして、地中の穴に入り込んだり、せいぜい草むらに出て、獲物が目の前に来ることを待ち望む生活をしようか…。幸い、前肢が無くなったことや、胴体が細長くなったことで、狭い穴に入り込みやすくなったし…。この生活も、まんざらじゃないかも。。」
 当時のヘビは、そんなことを思いながら、したたかに暮らしていたと考えられます。

◆ やがて後肢も失うことになった
 前肢が失われた後も、後肢を備えたヘビは長い期間にわたって存在していました。ところが、その後の進化の過程で、後肢は次第に縮小していくことになります。例えば、白亜紀に生息していた海生ヘビのハーシオフィスやパキラキスなどでは、後肢は残っていたものの、ナジャシュのように身体を支えるための発達した構造ではなくなっていました。後肢の骨格は小さくなり、骨盤との結合状態も変化し、胴体の肋骨に囲まれた領域に入り込むような配置になっていたのです。
 そして、やがては外見上、後肢まで失うことになってしまったのです。それには、どのような理由があったのでしょうか…。これは、後肢が単純に邪魔になったからだとは言い切れません。胴体が更に長くなり、身体そのものを使って移動する能力が高まっていくにつれて、後肢による推進力や身体の支持に頼る必要性が低下していった可能性があります。特に、狭い隙間や地中を移動する生活では、身体の後方に突き出した後肢を持たないほうが、移動しやすかったのかもしれません。
 そして、現代のヘビを見ますと、後肢が完全に消失している種類が多い一方で、ニシキヘビやボアの仲間には、総排泄腔の左右に小さな爪のような突起が残っています。これは、かつての後肢の名残であり、内部には大腿骨に相当する骨の痕跡もあります。しかも、この小さな突起は、雄が交尾や求愛行動をする際に利用することがあり、単なる無用の残骸ではありません。
 つまり、後肢は、身体の移動に使われる器官としての役割を失っていった一方で、その一部が別の用途に利用され続けている場合もあるのです。

◆ 胴体を使って歩く細長いヘビの誕生
 こうして、ヘビの祖先に当たる生物は、前肢を次第に縮小させる一方で、胴体の椎骨と肋骨の数を増やし、身体を前後方向に長くしていったと考えられます。四肢を使って身体を支え、地面を蹴って進む従来の移動様式から、胴体そのものを左右にくねらせ、その運動を地面に伝えることで前進する方式へと、次第に比重を移していったのでしょう。
 このような身体構造では、長い胴体に沿って多数の筋肉を配置できるため、身体の各部分を連動させながら推進力を生み出すことができます。即ち、四肢による歩行能力を補うために胴体を長くしたというよりも、胴体そのものを移動器官として発達させた結果、四肢への依存度が低下していったと考えることもできます。そして、その先に、私たちが現在目にしている、細長い身体を持つヘビの姿が現れてきたのでしょう。

◆ 体が細長くなったことで得られるメリット
 冒頭に書きましたように、細長いものがくねくねと動く、にょろにょろと這い回る姿が気持ち悪いという人が多いでしょうが、細長くなったことで、思いのほか多くのメリットが生まれました。それを整理しておきたいと思います。

【1】移動に関するメリット
① 狭い隙間に入り込める:岩の隙間、倒木の下、地面の割れ目など、四肢のある動物では入りにくい場所を移動できます。
② 地中や地下の通路を移動しやすい:身体の幅を小さく保てるため、土中の穴や既存のトンネルを利用しやすくなります。
③ 植生の密集した場所を通り抜けやすい:草むら、落ち葉、低木の間などで、身体をくねらせながら進めます。
④ 身体の一部を固定して、別の部分を前進させられる:身体の複数箇所を地面や周囲の物体に接触させ、順番に力を伝えることができます。
⑤ 地面の凹凸に身体を適応させやすい:胴体の各部分が独立して曲がるため、不規則な地形にも追従できます。
⑥ 木の枝や幹に巻き付けることができる:長い身体を複数箇所で支点にできるため、樹上での移動や姿勢保持に役立ちます。
⑦ 水中で身体を左右に波打たせて推進できる:長い胴体を使って水を後方へ押し出すことができます。
⑧ 身体の一部を隠したまま、頭部だけを先に進められる:隠れ場所から周囲を探ったり、獲物に接近したりする際に有利です。

【2】捕食に関するメリット
⑨ 獲物に気付かれず接近しやすい:細い身体を草むらや地面の凹凸に沿わせ、目立たずに近づくことができます。
⑩ 待ち伏せに適している:身体の大部分を隠しながら、頭部だけを獲物の通り道に向けておくことができます。
⑪ 獲物を捕らえる際に身体を巻き付けられる:長い胴体を利用して獲物を拘束できます。
⑫ 獲物を締め付ける力を広い範囲に作用させられる:身体の複数の部分を巻き付けることで、獲物の動きを制限できます。
⑬ 自分の体より太い獲物を飲み込める:細長い身体と、左右の下顎が柔軟に動く特殊な頭蓋構造との組み合わせによって、大きな獲物を丸ごと飲み込めます。
⑭ 獲物を飲み込んだ後も移動できる:四肢を使って歩く動物とは異なり、胴体を使う移動方式は、腹部が大きく膨らんだ状態でも移動を可能にします。ただし、消化中は活動が制限されることがあります。
⑮ 獲物の種類や大きさに応じて捕食方法を変えられる:待ち伏せ、追跡、巻き付き、咬み付きなどを組み合わせられます。

【3】隠蔽・防御に関するメリット
⑯ 身体全体を隠しやすい:岩の下や落ち葉の中などに、長い身体を折り畳むように収められます。
⑰ 周囲の環境に身体を沿わせられる:地面、枝、岩、草などの形状に合わせて姿勢を変えられます。
⑱ 捕食者から発見されにくくなる:身体を低く保ち、周囲の物体に沿わせることで、輪郭を目立たなくできます。
⑲ 危険を感じたときに素早く退避できる:頭部から狭い隙間に入り込み、身体全体を引き込むことができます。
⑳ 身体の一部を犠牲にせず、全身を使って防御できる:巻き付く、身体を膨らませる、威嚇姿勢を取るなど、柔軟な防御行動が可能です。

【4】感覚・行動に関するメリット
㉑ 頭部を大きく動かさずに周囲を探れる:長い首に相当する部分を利用し、身体を隠したまま頭部の位置を変えられます。
㉒ 身体の複数箇所で周囲の振動を感知できる:地面との接触面が長いため、身体を通じて振動情報を受け取る機会が増えます。
㉓ 身体の一部を固定したまま、頭部を自由に動かせる:周囲を観察したり、獲物の位置を探ったりする際に役立ちます。
㉔ 身体を巻き付けて姿勢を安定させられる:樹上や岩場などで、複数の接触点を確保できます。

【5】繁殖・生存に関するメリット
㉕ 狭い場所を産卵場所や休息場所として利用しやすい:身体を細長く収められるため、外敵や環境変化から身を守りやすい場所を利用できます。
㉖ 卵を身体で囲むことができる種類もいる:ニシキヘビ類などでは、母親が卵に巻き付いて保護する行動が見られます。
㉗ 身体を巻き付けることで、休息時の姿勢を安定させられる:枝や岩などを利用し、限られた空間で身体を保持できます。

【6】身体構造・生理機能に関するメリット
㉘ 身体の柔軟性を高められる:多数の椎骨と、それぞれに対応する筋肉を持つことで、身体の各部分を細かく動かせます。
㉙ 身体の一部だけを曲げたり、ねじったりできる:頭部を獲物に向けたまま胴体を別方向へ曲げるなど、複雑な姿勢を取れます。
㉚ 長い身体を利用して体温調節ができる:日光に当てる部分と日陰に置く部分を変えるなど、身体の配置を調節できます。
㉛ 身体の一部を地面から浮かせられる:熱い地面や冷たい地面との接触面積を調節する行動が可能です。
㉜ 大きな獲物を消化する際に腹部を拡張できる:皮膚や体壁が柔軟で、食後には胴体の一部を大きく膨らませることができます。

【7】生活空間の利用に関するメリット
㉝ 樹上・地上・地中・水中という異なる環境に適応しやすい:身体の形を大きく変えずに、環境に応じた移動方法を使い分けられます。
㉞ 複雑な三次元空間を利用できる:枝の間や岩の隙間など、上下左右に入り組んだ空間を身体全体で移動できます。
㉟ 限られた空間でも身体を収めやすい:とぐろを巻くことで、長い身体を比較的小さな場所に収納できます。

◆ 体が細長くなったことで生じるデメリット
 何事も、メリットが増えれば、デメリットも増える傾向にあります。今度は、デメリットのほうを整理しておきたいと思います。

【1】移動・運動に関するデメリット
① 身体を支えるための四肢を失った:地面から胴体を持ち上げたり、身体を安定させたりする能力が制限されます。
② 平坦で滑りやすい場所では推進力を得にくい:身体を押し付ける凹凸や摩擦が少ない場所では、移動効率が低下します。
③ 身体全体を動かす必要がある:四肢で身体を運ぶ方式と異なり、移動時には長い胴体の筋肉を連動させる必要があります。
④ 直線的な高速移動が得意とは限らない:身体をくねらせる方式は、地面の状態や移動様式によって速度が制約されます。
⑤ 身体の一部が障害物に引っ掛かりやすい:長い身体を狭い場所で動かす際、複数箇所が同時に接触して動きにくくなることがあります。
⑥ 高い場所から落下した場合に姿勢制御が難しいことがある:四肢を使って姿勢を調節する動物とは異なる制御が必要です。
⑦ 身体を持ち上げた姿勢を長時間維持するには筋力が必要:頭部や前半身を持ち上げる行動には、胴体の筋肉を使います。

【2】身体の構造・生理に関するデメリット
⑧ 内臓を縦方向に配置する必要がある:細長い体腔の中に臓器を収めるため、器官の配置や支持構造に制約が生じます。
⑨ 左右一対の臓器が前後にずれて配置されることがある:例えば、ヘビでは左右の肺の発達程度が異なる種類が多く、片側の肺が縮小または消失しています。
⑩ 身体の一部が損傷すると広い範囲の運動に影響する可能性がある:胴体が移動器官として重要であるため、筋肉や脊椎の損傷は移動能力を大きく損ないます。
⑪ 長い身体全体にわたって神経や血管を配置する必要がある:身体構造が複雑になり、長い胴体に対応した神経・循環系の構成が必要です。
⑫ 体表面積が体積に対して大きくなる:体温を外部環境に左右されやすく、寒冷環境では熱を失いやすい方向に働きます。

【3】捕食・防御に関するデメリット
⑬ 身体の一部が捕食者に発見されると、全身の位置が推測されやすい:長い身体の一部が露出しているだけでも、隠れている場所を見つけられる場合があります。
⑭ 長い身体を完全に隠すには、それなりの空間が必要:狭い隙間に入り込めても、身体全体を収められるとは限りません。
⑮ 身体の後方が逃げ遅れることがある:頭部が隙間に入っても、長い胴体や尾が外に残る場合があります。
⑯ 四肢を使って捕食者を蹴り離すことができない:防御には、咬み付き、威嚇、巻き付き、逃走など別の方法が必要です。
⑰ 身体を締め付ける捕食方法は、相手を拘束するまで時間がかかる:獲物の反撃を受ける危険もあります。
⑱ 大きな獲物を飲み込んだ直後は動きが制限される:腹部が大きく膨らみ、逃走や次の捕食が難しくなる場合があります。

【4】繁殖・生活に関するデメリット
⑲ 交尾時に身体を適切な位置に保持する必要がある:四肢で身体を支える動物とは異なる姿勢制御が必要です。
⑳ 卵を産む場所の選択に制約が生じる場合がある:身体全体を収められ、卵を保護できる環境が必要になります。
㉑ 寒冷な環境では活動可能な時間が制限されやすい:体温が外部環境に依存するため、気温の低下は筋肉の活動や消化にも影響します。
㉒ 身体の長さに応じた移動経路が必要になる:頭部だけでなく胴体全体が通過できる空間を確保しなければなりません。

【その他】
㉓ 霊長類に嫌われやすい:ヒトだけでなく、多くの霊長類は、樹上生活をしていた時代から、ヘビによる捕食の危険にさらされてきました。樹上に潜むヘビは、哺乳類を捕食する動物の中でも発見しにくく、接近されてからでは逃げる時間がありませんので、恐れられてきました。人間がヘビを気味悪く感じるのは、文化や教育によって後天的に形成されたものだけではなく、霊長類の進化史に由来する生物学的な基盤を持っている可能性があるということです。

◆ まとめ
 以上のように、身体が細長くなったことによって、得られたメリットもデメリットも、それなりに多数挙げることができます。あなたのような人間も、今の形では空を飛ぶことはできませんし、水中に長時間留まることもできません。思考力が高まった……だからこそ、戦争を起こしたり、卑劣なサイバー攻撃を仕掛ける輩も出てきます。どんな生き物の形が一番良いのか…、その結論は人によって考え方は様々でしょうし、科学的には結論はありません。全てのものが、かけがえのない尊い存在なのです。

 
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執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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