ビタミンDを皮膚で作らせるには波長の短いUVが必須である

紫外線暴露時間とビタミンD

 紫外線が完璧に悪者にされ、今や世間は、紫外線をカットする商品群に満ち溢れています。なかには、紫外線を少し浴びることも大切ですよ、と呼びかける人もいらっしゃいますが、浴びるべき時間や方法については様々な説が飛び交っています。そこで、比較的信頼性の高そうなデータを基にして、おおよその目安を示したいと思います。

 そもそも、ビタミンDの供給源は、皮膚において生合成される分が8割、食事から摂取される分が2割というのが平均値だとされています。後者の場合、食事摂取基準が設けられていて、目安量は220IU/日(IU:国際単位)、耐容上限量は4,000IU/日とされています。これが全体の2割ですから、皮膚で合成されるべきビタミンDは残りの8割、即ち、880IU/日だということになります。
 掲載した図(高画質PDFはこちら)の右半分に表がありますが、880IU/日ではなくて、もう少し増やした〝充分量〟ということで1,000IU/日という目標値が挙げられています。そして、この1,000IU/日を得るためには日光を何分間浴びればよいのか、という数値が示されています。

 予め知っておくべきことの一つに、次のようなことがあります。ビタミンDを作るときに有効となる紫外線の波長は270~290nmなのですが、これはUV-Cに分類されている200~280nmと、UV-Bに分類されている280~320nmの両方の帯域にまたがっていることになります。紫外線は地球の大気中を通過するときに、波長の短いものほど強く吸収されますので、UV-Cは地表に殆ど届かず、UV-Bであっても波長が短いほど届き難いことになります。従って、ビタミンD生合成のために有効な紫外線は、通過してくる大気の層の厚さによって大幅に変化することになります。

 そこで気にしなければならないのは、太陽の高度です。地上に居る人から見て、太陽が真上にあるときには通過する大気の層が最も薄いことになり、陽が傾くにつれて、通過する大気の層は大幅に厚くなっていくことになります。そして、UV-Aのような波長の長い紫外線は大気の層による減衰を受け難く、陽が傾いても地表に届く量は大きくは減少しません。「春先でも紫外線は決して少なくないですから注意してください」というアナウンスは、UV-Aならばそれで合っていることになります。しかし、ビタミンDの生合成に関わっている紫外線は波長が短いですから、太陽高度の影響を強く受けるわけです。また、正午(12:00)から時間が前後に離れているほど、波長の短い紫外線は大幅に減少していくことになります。

 以上の予備知識をもって再び表を見ていただければよいのですが、例えば東京の夏至の正午における太陽の位置は、地表から伸ばした垂線から約13度傾いた位置にあります。この時、1,000IUのビタミンDを皮膚にて生合成させるめには、顔と手だけを露出している状態でも7~8分あれば充分だということです。
 一方、東京の冬至の正午における太陽の位置は、地表から伸ばした垂線から約60度傾いた位置にあります。この時、1,000IUのビタミンDを皮膚にて生合成させるめには、顔と手だけを露出している状態では45~50分ほど必要だということです。
 両者で何故こんなに違ってくるのかという理由は、上述しましたように、ビタミンDの生合成に関わっている紫外線の波長が非常に短い(UV-CとUV-Bにまたがる領域である)からです。

 特に冬場では、正午の太陽天頂角度が約60度であれば、午後の2時には約70度になります。表に示されていますように、太陽天頂角度が70度の場合、1,000IUのビタミンDを皮膚にて生合成させるめには、顔と手だけを露出している状態では200分(3時間20分)必要だということです。ところが、午後の2時で太陽の動きが止まるわけではありませんから、どんどんと傾いていきます。2時から3時間20分後は午後の5時20分ですが、もう夕暮れです。「その日は午後の2時からずっと外に居て日光を浴びていましたよ(^^)」といっても、到底1,000IU/日には及ばないはずです。

 ビタミンDは〝ビタミン〟という名前が付けられていますが、どちらかと言えば〝ホルモン〟です。これが不足すると、体内カルシウム動態や骨代謝に支障を来すだけでなく、感染症、うつ病、高血圧、血栓症、心筋梗塞、脳梗塞、発がんリスク、自己免疫疾患発症リスクなどが増加することになります。冬から春にかけて上記のようなトラブルが増えますが、その大きな原因の一つが、紫外線を浴び足りないことだと言えるわけです。
 なお、紫外線を浴びるときは、目の水晶体タンパク質を保護するためにUVカット機能のしっかりとした眼鏡をかけたり、出来るだけ太陽光が目に入らないように注意することと、皮膚の老化を気にしなくてもよい部位に紫外線を当ててあげましょう。また、どうしても足りない分は、サプリメントで補うようにすれば、紫外線の他の効果は期待できませんが、ビタミンDの充足には役立つと思われます。

 
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