亜鉛を摂取したつもりでも現場まで届いていない

亜鉛を細胞内にまで届けるためにはファイトケミカルが必要

 「亜鉛が重要だと聞いて、それなりに多く摂るようにしています。でも、何故か体調が優れない…」とか、「赤ちゃんが欲しくて、お医者さんに亜鉛を勧められて飲んでいるけれど、なかなか解決しない」とか、「口内を噛んでしまった跡がなかなか治らない、口内炎になりやすい、皮膚のトラブルが起こりやすい、鉄分を摂ってるのに貧血が治らない、更年期障害のような症状がずっと続いている」とか、男性の場合では「前立腺が肥大している感じがする」、「前立腺がんだと診断されてしまった」などなど、そのような兆候を感じている人の割合は非常に多いことと思われます。巷でネット上にupされている栄養関連や医療関連の情報には、見逃されている大きなポイントがあります。今回は、それについて紹介しようと思います。

 先ずは、掲載した図(高画質PDFはこちら)の左端に挙げました研究結果から見ていきましょう。なお、同時に図を見なくても解るように、頑張って文章にしていきますので、後から図を見ていただければ結構です。これは健康な人と、前立腺肥大の人と、前立腺がんの人の各場合について、各部分の亜鉛濃度を調べた結果です。
 一つ目は、血漿中の亜鉛濃度を調べた結果ですが、健康な人に比べて前立腺肥大の人では、若干低めの値になっています。そして、前立腺がんの人では有意差をもって低めの値になっています。ただ、この3者でそれほど大きな差にはなっていません。このことは、前立腺に問題を抱える人の亜鉛摂取量は少し足りていない場合が多いけれど、極端に少ないとまでは言えないことを意味しています。
 二つ目は、図では中段のグラフになりますが、尿中への亜鉛の排泄量を調べた結果です。特に前立腺がんの人は、尿中に多くの亜鉛を排泄してしまっていることが判ります。上記のことと併せると、亜鉛摂取量が満足ではない上に、せっかく摂取した亜鉛を多く排泄してしまっていることが解ります。なお、これは尿中の値であって、腸管から血中へと吸収された後に排泄されているわけですから、亜鉛の吸収率が悪いわけではありません。巷では、亜鉛の吸収率を高めるための方法について述べている人が多いですが、問題は別のところにある、ということになります。
 三つめは、図では下段のグラフになりますが、これは前立腺内の亜鉛濃度を調べた結果です。前立腺肥大の人では有意差をもって亜鉛濃度が低値になっています。更に、前立腺がんの人の場合は一段と低い値になっています。これで何が言えるのかというと、例えば前立腺肥大の人の場合、尿中排泄量は健康な人に比べて、それほど大きくはないにも拘らず、前立腺内には亜鉛が少ないわけですから、体内にはそれなりの量が在るのだけれども、それが前立腺内にまで届いていない、ということになります。そして前立腺がんの人の場合、前立腺内の亜鉛濃度は更なる低値になっていて、これは排泄量が多い上に、目的の場所に届く量も少ないことを意味しています。目的の場所とは、前立腺がんが生じる部位は前立腺の外層とも言える〝外腺(辺縁域)〟に生じることが多いですので、亜鉛が前立腺の辺縁域にまで届いていないことを意味しています。

 では、なぜ目的の場所にまで亜鉛が届かないのか…?という問題についてですが、食餌に含まれていた亜鉛が腸管から吸収されて血中に入り、毛細血管から間質液中へと漏れ出すわけですが、間質液中から細胞内に入るときには何種類もの〝亜鉛トランスポーター〟と呼ばれる輸送タンパク質を通して細胞内へと運ばれます。この亜鉛トランスポーターについてですが、ヒトの祖先が様々な植物を多く食べて体の仕組みを作り上げてきましたから、植物に含まれる成分が亜鉛トランスポーターの周囲に存在しているときに、亜鉛の輸送が活発になるようにセッティングされました。即ち、主食であった植物を食べれば、それに含まれている植物成分(ファイトケミカル)が細胞周囲にまで届き、そのようなときには植物に含まれていた亜鉛も同時に到達しているであろうから、亜鉛トランスポーターを活動させましょう、という仕組みになってしまったわけです。これは理屈ではなく、生物進化の過程においてそのようになってしまった、ということです。
 このことが解れば、亜鉛濃度の高い肉食が主であった一昔前の欧米人に、多数の前立腺肥大や前立腺がんが発生したのかを理解することができます。即ち、亜鉛含有量が多い肉類を沢山食べていて、亜鉛の摂取量はかなり多かったはずなのに、ファイトケミカルが少なかったために前立腺の細胞内にまで運ばれなかったということです。現代日本において、以前の欧米型のような食餌を続けていると同様のことが起こるわけです。逆に、穀物や野菜中の亜鉛濃度は決して多いとは言えませんが、その野菜中のファイトケミカルが亜鉛トランスポーターに働き、亜鉛を細胞内にまでしっかりと届けてくれていたからこそ、昔は前立腺肥大も前立腺がんも少なかったわけです。

 結局、「亜鉛不足」は亜鉛の摂取不足よりも、或いは、亜鉛の吸収率が低いことよりも、亜鉛トランスポーターの活動を正常化するためのファイトケミカルが不足している、ということが最大の原因だということになります。
 なお、亜鉛が細胞内にまで届かないときに起こる症状は、前立腺の問題以外にも、図の右上に引用させていただいたような様々なものがあります。亜鉛は、体内における莫大な種類の酵素において、生化学反応を進めるときの活性中心として機能していることが多いですので、全身にわたる不調を来すことになります。
 亜鉛不足を解消するための対策ですが、日本人の平均的な摂取量は推奨量の7~8割だと見積もられていますから、出来ればサプリメントによって補うのが手堅いでしょう。それに合わせて、図中の表中に挙げられているようなファイトケミカルをしっかりと摂取し、体の隅々の細胞内にまでしっかりと届けるようにしていただければと思います。なお、表中の緑茶と、それに含有しているEGCGや、たびたび採り上げているケルセチン、それとウコンに含まれているクルクミンなどを意識的に多く摂れば結構だと思います。間違っても、大病院で行われるような対症療法には、お世話にならないようにしていただければと思います。

 
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