今回も、実質的にはファイトケミカルの紹介と、それを含む植物の紹介になるのですが、一般的な栄養素、即ち「五大栄養素」との関係について、事前に整理しておきたいと思います。
「五大栄養素」とは、糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルの5種類のことを指します。そして、私が重要だとしているのは「七大栄養素」です。上記のものに、食物繊維とファイトケミカルを足して、合計7種類になります。
「五大栄養素だけで充分足りるのではないですか?」というお話が当然出てきます。学校教育では「五大栄養素」を教えますから、小学生から社会人まで、その五つで足りるのではないかと思っている人が大半だと思います。一言多いのかもしれませんが、世間の多くの人が健康関係のプロだと錯覚している医師も、その多くは「五大栄養素」以外の成分については注意が行き渡っていないのが現状です。そのため、血液検査をして鉄が足りなさそうであれば鉄を補給させ、何らかのビタミンが足りなさそうであれば該当するビタミンを補給させます。或いは、多くの生活習慣病であれば糖質を摂り過ぎていますから糖質制限を行わせ、代わりにタンパク質を補給させます。このような指導を行った場合、五大栄養素のうちの足りなかったものが補充されたり、過剰であったものが減らされますから、問題になっていた不健康は解消に向かうかも知れません。ただ、その場合は病気をせずに、ごく普通に老いていくだけです。特に、筋トレを伴わない高タンパク質食はカルバミル化を促進して老化を加速させるだけになってしまいます。それで良いと言うのならそれで結構なのですが、私の狙いは、やはり平均的な寿命を超えて高いパフォーマンスを維持し続けることです。一言で言えば、抗老化(アンチエイジング)だということになります。
五大栄養素で足りないものの一つが〝食物繊維〟です。これは、人間の体だけを対象にしてきた栄養学や医学では当然のことながら、ほぼ対象外になる物質です。腸内細菌が居るからこそ、免疫機能をはじめとした様々な生理的機能が発達し、大人になるまでに完成していきます。栄養素としても、腸内細菌が供給してくれるものが沢山あるわけで、ビタミンKをはじめとした各種のビタミンや、酪酸などの低級脂肪酸はその代表例です。ビタミンKは口から補給できるかもしれませんが、酪酸は無理です。もっと極端な例を挙げるならば、芋類を主食にしていて、動物性食品やその他のタンパク質を殆ど摂っていない民族(例えばパプアニューギニアの人たち)が居ますが、彼らは筋肉隆々の体をしています。その理由は、アンモニアからアミノ酸を合成してくれる腸内細菌を宿しているからです。従いまして、そのような腸内細菌を多く宿せば、口からタンパク質を放り込まなくても体内で充分量のアミノ酸が得られ、それを使ったタンパク質合成が出来るようになります。即ち、極めて大切なのが腸内細菌なのであって、それを養うために食物線維が必須になります。「私たちが食べる目的は5割が自分のため、5割が腸内細菌のため」です。ここまでで「六大栄養素」になります。
そして、もう一つが〝ファイトケミカル〟で、合計として「7大栄養素」となります。なぜファイトケミカルが必須なのかと言えば、私たちは動物進化の歴史において、直接的または間接的に植物を食べてきたせいで、それに含まれている生理活性成分が欠かすことのできない成分になってしまったからです。例えば、炎症反応を抑制するように働くファイトケミカルを大昔から食べていましたので、それを食べている状態で炎症反応が最適になるように調整されました。その結果として、そのファイトケミカルを食べなくなってしまうと、抑制するものが入って来なくなるわけですから、炎症反応が必要以上に大きくなります。換言するならば、ファイトケミカルは〝サプリメント〟なのではなくて、食べ物に含まれているはずの成分だったのです。「サプリメントには出来るだけ摂りたくない」と思うのならば、大昔と同様に、苦かったり不味かったりする野性種を食べなければなりません。
さて、ファイトケミカルが必須の成分であることを再確認していただけたでしょうから、今回は、今までに未だ紹介していなかったものの一つを紹介させていただくことにします。それは、〝セイヨウイラクサ(学名: Urtica dioica)〟という名前の植物で、別名として〝ネトル(Nettle:英名)〟と呼ばれているものです。「寝とる」ではなくて「Nettle」です。
何はともあれ、掲載した図(高画質PDFはこちら)の右半分を見て頂きたいと思います。これは、ネトル(セイヨウイラクサ)の葉に含まれているフラボノイドやフェノール酸だけが示された図です。もちろん、これが全てではありませんし、他の種類の成分が他にあるわけです。例えば、図の中央あたりに小さく追記しました、<栄養素>α-リノレン酸、豊富なミネラル(鉄、ケイ素、カリウム、など)、豊富なビタミン(ビタミンC、葉酸、βカロテンなど)はもちろんのこと、植物体を構成する一般的な植物成分が含まれています。
話を戻しますが、図の右側に示されている物質の中には、このブログで既に多く登場しているケルセチンやEGCGがありますし、アピゲニン、ルテオリン、ゲニステイン、ナリンゲニン、ルチンなどもあります。他にも、このブログではまだ紹介していない物質が沢山あります。
驚くべきことは、これらの非常に優れたフラボノイドが、1種類の植物体内に詰め込まれていることです。おおよそ、フラボノイドの生合成経路は多くの植物で共通している部分が多いのですが、それにしても、それぞれのフラボノイドが高濃度に含まれている点がネトルの大きな特徴です。
これだけ優れたファイトケミカルが多種類詰め込まれていますから、ネトルは紀元前からヨーロッパ、アフリカ、アジアなどにおいて、ここに書くには文字数が多すぎるほど種々の病気の治療に用いられてきました。なお、主な作用として、掲載した図の左下に示されているようなものがあります。全ての項目に「抗」の文字を付けて表現しましたので、語の使い方としてはあまり適切ではないのですが、抗鼻炎、抗潰瘍、抗糖尿病、抗脳障害、抗細菌感染、抗心血管疾患、抗炎症、抗酸化が挙げられています。
ネトルは、加熱調理して食用にもされていました。また、現代では特に海外においてハーブティとして飲んだり、葉または根を粉にしたものも売られています。私の場合は、葉を粉にしたものをスプーンにとって、単独または他の茶とブレンドして飲んでいます。
昨今はスギ花粉の季節ですが、「ネトルは花粉症に非常に効果がある」と謳われていますように、効果抜群です。ファイトケミカルのうちの何が特に効いているのかという問いにつきましては、前回の花粉症の記事にも挙げましたEGCGが何割か効いているでしょうし、万能であるケルセチンも花粉症に対して大きく効いているとされています。他にも、抗アレルギー作用や抗炎症作用を有するとされているものは、アピゲニン、バイカレイン、イソラムネチン、ケンペロール、カテキン類、ミリセチンなどが主ですが、他のものも含めて、それらの相乗効果が発揮されていると考えられます。
ネトルを手に入れようとする場合、最も手軽なのは市販されているものを購入する方法です。ネトル(セイヨウイラクサ)は日本にも帰化していますので採集可能ですが、イラクサを含めた同属他種との見極めが難しいでしょうから、栽培品を選ぶのが適切でしょう。葉っぱを粉にしたもの以外には、葉っぱを刻んだもの、根を刻んだもの、それらをティーバッグに詰めたもの、サプリメントとして粉をカプセルに入れたものなど、色々とあります。私の場合は、上述のように、粉を買っています。
粉の場合の飲み方は、抹茶を飲むのと同じように、小さめのスプーンで粉を取ってカップに入れ、そこに好みの液体を投入して混ぜれば出来上がりです。注意点としましては、有効成分の含有率が高いため、妊娠中や授乳中の方は飲用を避けるように注意書きがあります。それ以外の場合、最初は少量にしておき、大丈夫であれば1日に3~4gを目途にすれば結構です。