水瀬あかりの講演内容~パート3

水瀬あかりの講演内容~パート3
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水瀬あかり
◆ 第24話 ── 講演内容~パート3

◆ あかりさんのお話 <11> 火星環境も良好な地球環境も再現できるM-HIM
M-HIMといいますのは、最初の方で少し紹介しましたように、Mars Habitat Immersive Moduleの頭文字をとったもので、日本語では“火星環境没入モジュール”ということになります。この装置は、火星用のTSSを地球用に改変して、地球において火星での居住区を体験できるようにしたものです。

ちょっと、ややこしそうな横文字が並んでしまいましたので、できる限り…分かりやすく紹介させていただきますね…。
この装置の中で、最も多くの技術を投入しましたのが、火星の重力を再現することでした。火星の重力は、地球の重力のおよそ38%しかありませんので、体が凄く軽く感じます。「それは嬉しいなぁ」って思う人は、きっと多いはずですね…。でも…、既にお話ししましたように、長期間になればなるほど、私たちの体は深刻なダメージを受けることになります。そこで、火星用のTSSでは、複数の技術や装置を組み合わせて、脳や細胞が地球の重力である1Gだと感じるようにしたものです。そして、地球用に改変したこのM-HIMでは、スイッチを入れることによって、本当は1Gなのに、脳や細胞が0.38Gだと感じるようにしたものなのです。

仮に、この装置を用いないで、地球にて低重力を体験しようと思いますと、たとえば飛行機に乗り込んで、上空に行ってから地上に向かって落下するように急降下させる方法しかありませんでした。もちろん、連続して長い時間は体験できませんし、各種の重い測定器を沢山積むことはできません。でも、M-HIMは地上に設置するものですから、時間制限もありませんし、重い各種測定器を持ち込むことも可能です。

実際にM-HIMの中に入っていただいて、火星の重力体験をするためのスイッチを入れますと、体が急に軽く感じられて、上に飛び上がれば、ふわぁ~っと高く飛び上がれたような感覚になります。脳も、筋や腱に備わっている各種の受容器も、全身の細胞の全ても、0.38Gだと錯覚してしまうんです。錯覚させるというのは、ちょっと申し訳ないことをしているような気もしますが、そこは…許していただきたいと思っています…。ちなみに、この技術は、火星における0.38Gを、地球における1Gだと錯覚させる技術の裏返しですので、TSSを開発する副産物としてM-HIMが出来た…ということでもあるんです。

では、また別の仕掛けについてご紹介しますね。火星の居住区で暮らす場合に、当初は窓から火星の景色を見ながらお風呂に入る…。…なんか、すごくロマンチックな感じがしますよね。でも…、そう思うのは、最初の数日間だけです。もう、その後は、来る日も来る日も赤茶けた火星の地面だけを見ることに飽きてきて、やがて精神的なストレスを受けていくことになります。
そこで、火星の居住区に設置するTSSの壁には、地球の豊かな森…、鳥が鳴いている…虫が鳴いている…川のせせらぎの音が聞こえる…風で揺れた草や木がさわさわと音を立てている…、そんな景色と音を再現するシステムを組み込んでいます。

さらに詳しく言いますと、たとえば壁の斜め右上に小鳥が居て、その鳥が鳴いているとしますね。その場合、鳥の声が真上から聞こえたり、左側から聞こえたりすると、脳が混乱してしまうのです。…ですので、壁面の4か所と天井と床に超高性能のスピーカーを搭載して、それぞれから出る音声信号の位相を精密に計算してずらせて流し、鳴いている小鳥から確実に声が出ているようにします。
そして、この技術を、地球用のM-HIMにも搭載しています。そのため、M-HIMで火星を再現することも、地球の森を再現することも、その他の景色を再現することも、ソフトウエアを変えるだけで可能になります。その気になってソフトウェアを開発すれば、TSSの中でもM-HIMの中でも、音楽のコンサートを再現することも可能です。

これらの技術のうち、音声につきましては、すでに紹介しましたLifeSignal Generator(LSG)を音響システムに組み込んでいますので、超高周波音から成る生命信号が、TSSおよびM-HIMの内部に放射されます。…ですので、M-HIMの中に入っていただいて、LSGのスイッチを入れますと、その瞬間から、頭の中がスーッと澄みわたって冴える感覚を味わっていただけると思います。

また、TSSやM-HIM内で頭が冴え渡る理由の2つ目としましては、これも既に紹介しましたPhytoCore を搭載していることです。これは、地球上の植物や微生物がコミュニケーションに使っている物質を放散するシステムです。これのスイッチを入れ、拡散した物質を人が吸い込むと、これも同様に、頭の中がスーッと澄みわたって冴える感覚を味わっていただけると思います。

その他にも色々な仕掛けがあるのですが、もう一つだけ紹介しておきますね。TSSやM-HIM内部の照明には、ランダムな揺らぎを与えていることです。これは、森を再現したときに、木の葉が風で揺らめいて、木漏れ日も、葉からの反射光も、ゆらゆらと揺らめいて目の網膜に届きます。その揺らめきは、ニューロン活動における活動電位のバックグラウンドを底上げしてくれますので、それによって人の情報処理速度が高まるのです。私たちは、動かない壁に囲まれた部屋にいるよりも、いろいろ揺れ動くものがある屋外で学習したほうが効果が上がるのは、そのせいなのですね。

…さて、M-HIMの主な機能や特徴について紹介させていただきましたが、これの実物は、共同研究させていただいてます大学の研究棟の奥に1台設置しています。言い換えるならば、これは火星に設置するためのTSSのプロトタイプ、すなわち試作品でもあります。今後、装備している各装置の性能試験や耐久試験などを行っていきます。併せて、火星環境を再現して、その中でヒトの生理的な影響についてもデータを取っていく予定をしています。やがて皆さまにも、体験していただける日が来ることと思いますので、楽しみにしていただければと思います。

◆ あかりさんのお話 <12> 質疑応答コーナー
…では… 残りの時間… ご来場いただいています皆さまのほうから…、何かご質問などがございましたら…お受けしたいと思うのですが… いかがでしょうか…。そして、スタッフの方…、客席へのマイクをよろしくお願いいたします。

「はいっ!」

あっ… どうぞ!

「高校2年生の子どもを持つ父親です。水瀬先生…、今日は本当に貴重なお話をありがとうございました。かなり専門的なお話もありましたが、今日に限ってなぜか…すっと頭に入ってきたように思いました。それとともに、先生のその…他にたとえようのない凄さに、驚いてばかりでした…。そこで…教えていただきたいのですが… どうすれば、先生のように頭が良くなるのでしょうか… 私はもう遅いとして…自分の子どもに聞かせてやりたいのです。 ……突然、不躾な質問をしてしまいましたが、どうぞよろしくお願いいたします」

…お父様、ありがとうございます。そして、今日のお話が “すっと頭に入ってきた” とおっしゃっていただけたこと、とても嬉しく思います。
さて……「どうすれば頭が良くなるのか」というご質問ですね。これは、実は……私が高校生の皆さんに、いちばん伝えたいと思っていた内容でもあります。

まず……“頭が良い” という言葉には、いろいろな意味がありますよね。記憶力が良い、計算が速い、理解が深い、発想が豊か……どれも “頭の良さ” の一部です。でも……私が思う “本当の頭の良さ” は、脳が本来の働きを取り戻している状態なんです。そして、それを決めるのは……実は、勉強量ではなくて、“環境”なんです。

たとえば… 今日お話ししましたように、植物が放散する揮発性物質、昆虫や鳥が発する超高周波音、水や風の微細な振動、地球磁場の揺らぎ、光のゆらめき……こういった “環境場” が整っているときに、脳幹が正しく働き、大脳皮質の複数領域が同調し、情報処理速度が自然に高まります。言い換えれば、脳は、良い環境に置かれると勝手に賢くなる、ということなんです。

これは、お父様がご自身のお子さんにしてあげられる、とても大切なポイントだと思います。たとえば、休日には森や公園を散歩する、川のせせらぎや風の音を聞く、木漏れ日の揺らぎを眺める、植物の多い場所で勉強する、自然の音を少し流してあげる…。このようにして作られる “自然の環境場” は、脳の働きを整えるための、とても強力な “学習ブースター” になります。そして、これは大人でも子どもでも同じです。

次に…、脳が本来の働きを取り戻すためには、栄養の質と量がとても重要です。具体的には、DHAをはじめとした ω3系脂肪酸 は、神経細胞の膜を柔らかくし、情報伝達を高速化します。ミネラルも必要なものは全て摂らなければなりませんが、中でもマグネシウム(Mg)はシナプスの調整や神経興奮の安定化に必須です。ビタミンも同様に不足なく摂ることが必須ですが、 特にB群は脳の代謝を支えます。食物繊維やオリゴ糖は有用な腸内細菌の餌になり、腸内細菌が全身の健康と脳の健全性を支えてくれます。植物性の食材に含まれている数々の機能性成分も重要で、抗酸化、血流改善、認知機能の向上に寄与します。お話だけではあまり詳しくお伝えできないのですが、現代の子どもや若い世代の多くは、脳機能を維持したり高めたりする複数の栄養成分が足りていませんので、ご家庭のほうで充分に注意する必要があります。…逆に、必要な栄養成分が満たされると、脳は驚くほど冴えるものなのです。

次に、脳の働きを高めるために、とても効果的なものが二つあります。その一つは、運動
です。軽い運動でも、脳の血流が増え、記憶をつかさどる海馬や、思考の場である前頭前野が活性化します。高校生の方でしたら、運動部に入っていれば一般的には過剰なほどの運動量になりますが、そうでない生徒さんでしたら、通学時のウォーキング、軽いランニング、自転車、ダンスなどが有効で、このような “リズム運動”が、脳の発達と同期を強く促します。
もう一つは、音楽です。できれば自分で演奏することが効果的です。自分で楽器を演奏することは、脳の広い領域を同時に使うことになりますので、認知機能を大きく高める刺激になります。

次に… もちろん、勉強をすることも大切です。でも……脳が整っていない状態で勉強をしても、なかなか頭に入りません。逆に……脳が整っている状態で勉強をすると、短い時間でも深く理解できるようになります。
ですので……お父様がお子さんにしてあげられることは、「勉強しなさい」と言うことよりも、脳が整う環境と、脳が整う生活習慣を用意してあげることなのですね。

……お父様、ご質問ありがとうございました。お子さまの未来が、とても楽しみですね。

◇ 2人目
「はい!」「はいっ!」

あ… では… こちらの後ろのほうの方… どうぞ…

「先生、今日は…貴重なお話…本当にありがとうございました。私は、高校1年生の女の子を持つ母親です。娘が、理系に進みたいと言っているのですが、何か、勉強のコツみたいなものはあるのでしょうか…」

…ありがとうございます。お母様からのご質問、とても大切な内容ですね。「理系に進みたい娘さんのために、勉強のコツはあるのか」──これは、実は多くの高校生が抱えている悩みでもあります。

まず… 理系に進むために必要なものは、“才能” ではありません。“センス” でもありません。必要なのは、正しい環境と、正しい学び方なんです。そして… これは、今日お話ししました火星の環境場の話とも深くつながっています。

少し…具体的にお話しますと… 理系の勉強は、脳の状態で決まります。数学、物理、化学、生物……これらは、「集中力」「論理性」「抽象化」「情報処理速度」といった脳の働きが大きく関わります。そして、これらは、脳が整っているときに最大化されます。つまり、“勉強のコツ” の半分は、脳を整えることなんです。

たとえば……、先ほどのご質問にも答えましたように、木漏れ日の揺らぎ、風の音、水や川のせせらぎ、鳥や虫の超高周波音、植物の揮発性物質など、このような自然の環境場は、脳幹のリズムを整えて、大脳皮質の複数領域の同調を促進させます。その結果、理解力が高まり、集中力が続き、記憶の定着が良くなります。
…ですので… 娘さんが理系に進みたいのであれば、まずは、脳が整う環境を用意してあげてほしいと思います。

次に、勉強のコツとしましては、量ではなく質が大切です。長時間やれば良いというものではないということです。むしろ…脳が整っていない状態で長時間勉強すると、逆に理解が浅くなってしまいます。おすすめは、30〜45分間の集中、5〜10分の休憩、これを数回繰り返すことです。この方法が、脳の情報処理速度に最も合っています。そして休憩のときに、窓の外の木を見る、風の音を聞く、少し歩く…… そうやって、 “自然の刺激” を入れてあげると、脳がすぐに回復します。

もう一つ重要なことは、理系の学びは「興味」がすべての原動力だということです。娘さんが理系に進みたいと言っている──これ自体が、とても大きな才能なんです。理系は、
「興味があるかどうか」で伸び方が決まります。興味がある子は、難しい問題でも自然に挑戦しますし、理解できるまで粘ります。…ですので、お母様がしてあげられる最も大切なことは、興味を守ってあげること…なんです。「難しいからやめなさい」「理系は大変よ」「あなたには向いていないかも」などのような言葉は、興味の芽を摘んでしまいます。逆に…「面白いね」「もっと知りたいね」「あなたならできるよ」などの言葉は、興味を育て、脳の成長を促します。

……お母様、娘さんが理系を選ぼうとしていること、本当に素晴らしいことだと思います。理系は、世界の仕組みを理解し、未来を作る学問です。そして…娘さんがその道を歩むとき、今日お話ししました “環境場” の考え方は、必ず大きな力になります。どうか…娘さんの興味を大切にしてあげてください。それが、理系の勉強のいちばんのコツなのです。

……ご質問、ありがとうございました。

◇ 3人目
「はいっ!」

はい…どうぞ!

「…私は、大学院の博士課程で脳科学を専攻している者です。水瀬先生のお話…、非常に興味深く、そして…驚きの連続でした。ご講演の内容そのものに対する質問ではなくて… …実は…先生ご自身に関することなのですが…。…この会場にいらっしゃる多くの方が、感じられていることと思うのですが… …はっきり言いまして… 先生の頭の中… いったいどうなっているのかな…と思いまして…。先生は、今日は市民向けのセミナーですので、持っておられる知識の、ほんの表面だけをサラッと紹介された感覚だと思うのですが… …それにしましても、宇宙や火星の状況…、そこで起きている各種の物理現象、それによる人体の医学的な解説、脳科学的な解説…、そうかと思えば…細胞レベルから生物圏全体のお話、火星に適応できる微生物の話、そして、先ほどおっしゃれました栄養のお話… ……もう、医学を含めた自然科学全体を深く理解している人でなければ…絶対に話せないはずのお話をされました。しかも、先生は、TSSの紹介の時にだけスクリーンに映像を映されましたが、それ以外は、何の原稿も、何の資料も見ないまま…ずっと私たちの方を向いて話しかけられていました。…その…まるで異次元の知的レベルが理解できないのです。私も… 研究者の端くれとして思うのですが… 一人の研究者が、そんなに広範囲の分野を統合化して理解されている事実が…どうしても理解できないのです…。……すみません… …全然質問になってないのですが… …あの… 先生ご自身、その能力について、どのように思ってらっしゃるのでしょうか…… 何か… そのあたりを教えていただければ嬉しいです」

…ご質問、ありがとうございます。そして、研究者としての視点から、今日のお話を深く受け止めてくださったことに、心より感謝いたします。
今いただきましたご質問は、短く言いますならば、私自身の認知の仕組みについて…、ということですよね。
今日のお話の内容が、宇宙科学・環境科学・物理学・生物学・医学・脳科学といった複数領域にまたがっていたことを考えますと、そのような疑問を持たれるのは、とても自然なことだと思います。…ですので、できる限り、誠実にお答えしたいと思います。

まず最初に申し上げますと、私は、自分自身を特別な存在だとは考えていませんが、認知の仕組みが、一般的な学習者とは少し異なるという自覚はあります。私の脳は、知識を分野ごとに蓄積するというよりも、複数の分野を同時に統合しながら理解するという傾向を持っていると思うのです。たとえば… 物理現象を理解するときに、その影響を生理学的に考え、生理学を理解するときに、その背景にある細胞生物学を参照し、細胞の働きを説明するときに、その進化的起源を考え、脳科学を説明するときに、その環境場との相互作用を同時に扱う…などです。
このように、複数の学問領域が、常に一つの“場”として結びついている…という感覚はあります。そのため、今日のような講演では、どの話題を取り上げても、自然に複数の領域と接続されるのです。

もう一つの特徴としまして、私は知識を“暗記”しているわけではありません。むしろ、
自然科学全体を一つの巨大な構造として捉えている…というほうが近いと思います。宇宙の物理法則、火星の環境、細胞の代謝、脳の情報処理、微生物の適応、栄養学、環境場の影響……これらは、別々の学問ではなくて、一つの連続した体系です。その体系の中で、どこか一つの領域を説明すると、他の領域が自動的に連動して動き出します。
ですので、講演中に原稿を見なくても、体系そのものが脳内で立体的に展開されますので、
自然に話が流れていきます。

ご質問者様は、「どうしてこれほど広範囲の分野を統合して理解できるのか」とお尋ねになりました。でも、私の感覚では、それらは広範囲ではなく、すべて同じ場所にある…という認識です。火星の環境を理解するには、物理学だけでは不十分ですし、生物学も必要ですし、医学も必要ですし、脳科学も必要です。逆に、脳科学を理解するには、環境場の物理学が不可欠です。言い換えるなら、自然科学は本来、一つの巨大な連続体だと思うのです。私は、その連続体を“分野ごとに学ぶ”のではなく、最初から全体として捉える癖がある…、というだけなのだと思います。

最後に、「その能力をどう思っているのか」というご質問にお答えします。私は、自分の認知の特徴を、才能だとは思っていません。むしろ、自然科学そのものが持つ美しさに導かれているだけだと感じています。自然界は、分断されていません。すべてが連続し、すべてが影響し合い、すべてが一つの体系として存在しています。私はただ、その連続性をそのまま受け取っているだけなのです。もしそれが、今日の講演で「異次元の知的レベル」と感じられたのであれば、それは私の能力ではなく、自然科学そのものの構造が美しすぎるからだと思っています。

……ご質問、ありがとうございました。

――進行係のスタッフから
「ご質問等は尽きないことと思いますが、予定の時間を迎えました。皆さまの、お帰りの予定もございますでしょうから、ここでセミナーを閉じたいと思います。本日は、充分なお席をご用意できず、会場設定を行った図書館側としまして、深くお詫び申し上げます。併せて、こんなにも沢山のご来館を頂きましたこと、心より感謝申し上げます。……そして…本日…たいへん貴重なお話を頂きました水瀬あかり先生に、拍手でもって感謝の意を表したいと思います。水瀬先生…、ありがとうございました」

ホール内、ホールの外、図書館の周囲からも、割れんばかりの拍手が沸き起こった。あかりさんは深く頭を下げた後、ステージ裏の通路から控え室に向かった。控え室はステージ裏から最も近い場所に設けられてあり、その通路も確実に確保してあったため、あかりさんはスタッフの先導によってスムーズに控え室に向かうことができた。

控え室のドアの前には館長が立っていて、あかりさんの姿を確認すると、すぐに深く頭を下げた。
「先生…、ありがとうございました。すぐに、お飲み物を用意させますので…」

「いいえ。こちらこそ、ありがとうございました。館長さまこそ、ゆっくりなさってください。お客様の誘導など、すごく大変でしたでしょうから…」
あかりさんは、ずっとしゃべり続けていたのに、疲労の色もなく、館長さんやスタッフへの気遣いを怠らなかった。

あかりさんは、控え室の窓からちょっと外を眺めた。
(……あんなに… …たくさんの人が…聞きに来てくださったんだ…)

少し陽が傾いた土曜の午後の図書館の外では、あかりさんの写真入りの看板の周囲で撮影会が始まっていた。また、余韻を楽しむように…あかりさんの看板を見つめて動かない人たちもいた。

そのとき、一人のスタッフが控え室のドアをノックした。まだ中に居た館長が「はい」と返事をすると、そのスタッフがドアを半分だけ開け…
「館長…。…あの… 何名かの大学の先生や、高校の先生や、JAXAの研究者の方々が、水瀬先生に会わせていただけないでしょうか…と言ってこられたのですが…どのように対応させていただきましょうか…」

(第25話へと続く)

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