《今回のアイキャッチ画像(高解像度版)》
◆ 第26話 ── 科学者たちのセッション
あかりさんの講演が終わり、あかりさんを訪ねて、大学の高原教授、佐野教授、JAXAの白石主任研究員、高校の高木先生、そして佐伯みのりが、図書館に設けられた控え室に集っていた。最も重要だと思われる話は既に交わされたようにも思われるが、どちらかと言えば、これから新たなプロジェクトが始まっていくわけである。話は尽きないはずだが、図書館の一室をあまり長くお借りすることも、館長さんやスタッフさんのお時間を束縛することも申し訳ない。また、講演者だったあかりさんも、少しゆっくりしたいであろう…と、誰もがそう思ったはずである。
高原教授が誘いをかけた。
「…ところで…あまり長時間お邪魔しているわけにもいかないでしょうから… …と言って、このまま解散というのは、私としてはかなり寂しいんですよね(苦笑)。どこかの、音楽でも聞けるお店で、ちょっと休憩してから帰りませんか…? あっ、私のおごりですので…ご心配なく(照れ笑い)」
佐野教授は嬉しそうに頷き
「それいいですね! あ…でも… 水瀬さんや佐伯さんがいらっしゃらないと、かなり空しくなりますね(笑)」
高木が、みのりの顔を見ながら意向を伺った。
「ね、佐伯はどう? まだ、夕方になってないし… 大丈夫そう?」
みのりは笑顔で大きく頷きながら
「ぜんぜん大丈夫です! しかも、今日、土曜日ですし… …あかりさんは?」
「私も、ぜんぜん大丈夫ですよ!」
あかりさんも、みのりの今後を考えると、このメンバーの親睦を深めることの重要性を感じていた。
高原教授が続けた。
「もちろん、白石さんもいなければ話にならない(笑)大丈夫ですよね!?」
「もちろんです!!」
「それはよかった(笑) 館長さんも、せっかくの機会ですから…一緒にいかがですか?」
「えっ? 私ですか… もちろんご一緒したいですけど…(照れ笑い)」
「よし!! 決まった! じゃ、行きましょう!」
かつてない大人数が詰めかけた図書館は、その熱気がゆっくりと平常に戻りつつあった。駐車場のクルマも少なくなり、外を歩く人もまばらになっていたが、そのうちの何人かは、あかりさんの姿を見るなり、深く頭を下げた。あかりさんの講演を聞いていた人が、図書館の閲覧コーナーなどで時間を使っていたのであろう。あかりさんは、丁寧に会釈して対応していた。
「ここから歩いて5分ぐらいのところにあるお店なのですが… ちょっと頑張って歩きましょうか…。…私、最近は行ってないんですけど、楽器もいろいろと置いてあって、お客さんが演奏することもあるんです。たまに、凄くうまい人を見かけることもありましたよ」
高原教授は、そう言いながら、図書館から続く並木道を先導した。
高木がみのりに問いかけた
「ねぇ、佐伯… 君さぁ、1年のとき、軽音楽部に入ってなかった?」
みのりはちょっと驚いた
「え?! 先生… なんでそれ、覚えてるんですか?」
「…いや… 自分も、けっこう音楽好きなんだよ。それで、君たちが放課後に練習している光景… いつだったかなぁ… ちょっと覗いたことがあったんだよ。 …あのメンバーの中に…たしか…佐伯がいたような…」
「じゃ、私、何の楽器やってました?(笑)」
「えっとぉ… ギターだろ!?」
歩きながら、2人の会話を横で聞いていたあかりさんの表情が、なにか誇らしげなものに変わり、独り言のようにつぶやいた。
「うふっ…♪ そのお店に行くの… すごく楽しみっ!」
みのりは思わず…
「あかりさん… 私なんか…ぜんぜん 初心者ですから…」
その会話を聞いていたJAXAの白石主任研究員が呟いた。
「…そういえば… 水瀬さん…、講演会の質疑応答の時間に、生徒のお父さんから頭を良くする方法について聞かれたとき、自分で楽器を演奏することも挙げられていましたから…。…私の想像ですが…ヴァイオリンとか…ピアノとか、めっちゃ上手な気がします…」
佐野教授が頷きながら
「ほんと、そのイメージ、めっちゃ強いですよ(笑) …あり得ないことを平気でやってのける水瀬さんですから… もう、何が起きても驚かないことにしますよ(笑)」
やがて、木製のプレートに、手書きで書かれた文字の看板が見えてきた。そして、扉の向こうから、かすかに音楽の気配が漏れていた。
「ここです」
高原教授が立ち止まり、扉を押した。外より少しだけ温かい空気が、ふわりと頬に触れた。木の匂いと、グラスの澄んだ音。そのときは生演奏ではなく、良質な音源と、金をかけていそうな再生システムによる、少し大きめの音量のBGMが室内を満たしていた。
店内は思ったより広く、壁際にはアコースティックギターが数本、その少し中央寄りにはエレキギターとエレキベースが並び、中央には本格的な大型ドラムセットが構えていた。そして、多機能なキーボード、いくつかのパーカッション、その横にはサックスまで立てかけられていた。
すでに何人かの客が席に着いていて、談笑しながら、ゆったりとしたBGMを楽しんでいた。
高原教授が軽く手を挙げると、店主が気づいて、にこやかに案内してくれた。
「6名様ですね。…お飲み物、承ります。 …あと、前に置いてある楽器、ご自由に使っていただいて結構です。今日はまだ、だれも演奏する人がいなくて… ちょっと淋しいんですよ(苦笑)」
「あっ、そうなんですね…。とりあえず、飲み物いただいて… ゆっくりさせていただきます(笑)」
それぞれ、店の内部を見回し、BGMを聞きながら、喉を潤した。
高原教授は、あかりさんに目線をやりながら
「今日は誰も演奏してないらしいですよ… いかがですか?」
佐野教授が続けた
「…あのぉ キーボードとか… どうですか?(笑)」
すると、あかりさんは
「え? なにか… 私に期待されてます?(笑)」
「いや… 普通… 言われてすぐ楽器の方に行って弾ける人っていないですよ… なにがしかの準備は必要なはずですから… すみません、水瀬さん」
佐野は、あかりさんに期待するあまり、ちょっと強引だったかなと深く反省した。
あかりさんは、もし、少しでも期待されたのなら、その期待を裏切ることは好きではない。
内心で思った。
(……じゃ… 仕方ないか…)
あかりさんは、席からゆっくり立ちあがると、前の方に向かった。
みんな、さすがに驚いた。あかりさんが立ち向かったら最後、いつも何か凄いことが起こるに決まってるからだ。
あかりさんは、キーボードではなくて、大型ドラムセットの前に立った。そして、おもむろに座ると、長めのスカートがふわりと広がった。あかりさんがスティックを手に取ると、店に来ていた客や店員も含め、驚きの視線があかりさん一点に集中した。
みのりは目を大きく見開いた。
(えっ!! あかりさん… ドラム!?!)
佐野教授は後ろに大きくのけぞった。
(ええーーっ! 水瀬さん… キーボードじゃなくて…ドラム??)
今日の、あかりさんの講演を聞いた人たちの何名かも、その店に来ていた。そのうち、仲の良いお母さんたちの3人連れが小声でつぶやいた。
「…ちょっと待って… あれ、水瀬先生じゃない?!
「あっ、そうよ! 水瀬先生だ… …ええーっ… うっそ…」
次の瞬間、あかりさんは、スティックを軽く持ち直した。その仕草だけで、店の空気が一段… 沈黙へと傾いた。
そして、大型ドラムセットの中央に置かれたキックへ、右足をそっと乗せた。
一拍の静寂――その静寂が、店の空気を深い場所へ落とした。次の瞬間──最初の一音が、床を揺らした。
Kick:●──────
低く、深く、店の床板がわずかに震え、グラスの水面がほんの少し揺れた。
その一音は、「準備なんていらない」「打ち合わせなんていらない」「ここからは私が導く」と言っているようだった。
続けて、スネアが空気を跳ねさせる。
Snare:──○────○──
乾いた音ではない。芯のある、空気を押し返すようなスネア。
ハイハットが細かく空気を整える。
Hi-hat:××××××××
その三つの音が重なった瞬間、店の空気は完全にあかりさんの支配下に置かれた。
そして──あかりさんは、一気にギアを上げた。
Kick:●──●──●●──●──
Snare:──○────○──○──○
Hi-hat:××××××××××××××××
Tom1:────□──────□──
Tom2:──────────■────
FloorTom:──────◆──────◆
Crash:★──────────────★
Ride:♢♢♢♢♢♢♢♢
キックが床を押し、スネアが空気を跳ねさせ、ハイハットが店のざわめきを細かく整え、タムが空気の層を切り裂き、フロアタムが低い波を作り、クラッシュが光を散らし、ライドが時間の流れを刻んだ。
そのすべてが、完全に統合されていた。
客のひとりが、グラスを持つ手を止めた。
別の客が、「……え?」と小さく呟く。
店主が、カウンター越しに目を丸くした。
あかりさんは、まるで音の重力場を作るように、店の空気を完全に支配していた。
そして──最後のフィルインが、店の空気を一気に跳ね上げた。
Tom1:□□□□
Tom2:■■■■
FloorTom:◆◆◆◆
Snare:○○○○
Crash:★★★★
その瞬間、店の空気が演奏の空気へと完全に変わった。ただ、あかりさんの音が店を満たしていた。
誰も言葉は発しなかったが…心の中で思った。
(……うわぁ…すっげぇ!! あのおねーさん…)
(…えーーっ!? 誰? あれ…誰?)
(……まさか… 水瀬先生が… ドラムのプロ…超えてるじゃん…)
佐野教授は、全身に鳥肌が立った。
(…う、うそだろ… 水瀬さんに…何が起こっても驚かないって…決めたはずなのに…)
みのりも、その衝撃を隠すことはできなかった。
(……いや… まじ…凄すぎる… …なんで… なんで… あかりさん…)
あかりさんは、圧倒的なフィルインを叩き切ったあと、一転して…静かに…、しかし…揺るぎないタイムキープへと移行した。
Kick:●───●───●───●───
Snare:──○────○────○──
Hi-hat:××××××××××××××××
そのビートは、店の空気を演奏の空気へと完全に変えた。
そして、店内の客は総立ちになり、「かっこいーーっ!」「すげーーっ!」などの大歓声と、何人もの指笛、大拍手の嵐となった。
あかりさんは、高原教授を含めた6人のメンバーの席の方に右手を差し出し「演奏に入って来て」と促した。
高原教授がメンバーのほうを向き
「ね、ちょっと、行きましょうよ。できそうな楽器があれば…それやって!」
佐野教授も後押しした。
「よし! 行こう!」
高原教授は、ここに来る道中で高木とみのりの会話を聞いていて、みのりが軽音楽部でエレキギターができることを知ったため、自分はアコースティックギターが立てかけてある壁の方に向かった。
佐野教授は、迷うことなくキーボードの前に立ち、白石はパーカッションのほうに向かい、高木はベースギターを手に取り、みのりはエレキギターを手に取った。その光景を見た客席からは、再び大歓声が沸き起こった。
電気系の各楽器が種々のツマミで調整をするまで、高原教授がアコースティックギターにてコードを刻み始めた。
(…えっとぉ… 何にしようかな… みんなが入りやすいように…ブルースにするか…)
| E7 | A7 | E7 | E7 |
| A7 | A7 | E7 | E7 |
| B7 | A7 | E7 | B7 |
あかりさんは、すぐにそれに気づき、ブルースドラムのビートへと切り替えた。
Kick:●──●──●──●──
Snare:──○────○──
Hi-hat:××××××××
Ride:♢♢♢♢♢♢♢♢
店の空気が、夜の温度へと変わった。
白石は、ドラムの隙間を埋めるように、シェイカーを細かく振り始めた。
Shaker:・・・・・・・・・・・・・・・
粒子のような音が、ブルースのグルーヴに柔らかい光を散らした。
高木は、深く、揺れるようなブルースベースを入れた。
Bass:E───E───G───A───B───A───E───
床板がわずかに震え、客の胸の奥まで低音が届いた。
佐野教授は、コードに合わせて高音域で短い旋律を刻み始めた。
店の照明の上に、青い光をひとつずつ置いていくような音…。その旋律は、ブルースの“泣き”のニュアンスを含んでいた。
みのりは、エレキギターを抱えたまま、まだ、基本的なフレーズを埋めていた。
E7上の基本フレーズ:E–G–A–B–A–G–E
指は確かに動いている。音も出ている。しかし、まだ本気ではなかった。みのりは、高校1年の軽音楽部で身につけたコード感覚を、ゆっくりと思い出していた。
(……うん…… この感じだ…… …なんか…… 懐かしい……)
佐野教授は、キーボードを弾きながら、ふとみのりの方を見た。そして、目で合図を送った。
「行けるよ 君の番だ」
言葉よりも強く、みのりの胸の奥に届いた。
みのりは、息をひとつ吸った。
次の瞬間──みのりのエレキギターが鳴いた。
E7上のブルースフレーズ:E──G──A──C──B──A──G──E───
その音は、高校生の手から生まれたとは思えないほど、深い温度を持っていた。
客が息を呑む。
「……え?」
「高校生……だよね…彼女…?」
「なんでこんなブルース…弾ける……」
みのりの音は、完全に“大人の世界”の音だった。そして、その音が店の空気を一段深い場所へ導いていった。
客席は完全に魅了され、誰もがみのりの指の動きに釘付けになっていた。
そのとき──みのりの視線が、ふと横に立てかけられたサックス吸い寄せられた。
金色の管体が、店の照明を受けて静かに光っている。
(……あ…… これ…… 吹きたい……)
胸の奥で、中学時代に吹いていたサックスの、呼吸の記憶が静かに目を覚ました。
みのりは、演奏しながら高原教授の方へ歩み寄った。高原教授は、みのりの意図を一瞬で理解した。
みのりは、高原教授にコースティックギターをエレキギターに持ち替えてもらうよう、エレキギターを差し出した。
「……高原先生…… これ……お願いします……」
高原教授は、驚きながらも嬉しそうに頷いた。
「……任せてっ!」
高原教授はアコースティックギターを壁に戻し、みのりから受け取ったエレキギターを肩にかけた。その瞬間、店の空気がまたひとつ変わった。
みのりは、サックスをそっと手に取った。金属の冷たさが、指先に静かに伝わる。
(……懐かしい…… でも…… 今の私なら…… もっと……吹けるかも……)
マウスピースを唇に当て、深く息を吸った。
中学時代の呼吸。軽音部で育った音楽の感覚。今日のブルースで目覚めた“魂”。そのすべてが、一本の線としてつながった。
そして──みのりは吹いた。
サックス・ブルースフレーズ:E───G───A───C───B───A───G───E───
その音は、エレキギターの“鳴き”とはまったく違う質感だった。深く、温かく、そして、人間の声のように泣いていた。
客席が一斉に息を呑む。
「……え……?」
「サックスもできるの……?」
「高校生でこれ……?」
「うそだろ……」
高木は、ベースを弾きながら震えた。
(……佐伯…… 君は…… こんな音も……出せるのか……)
佐野教授は、キーボードを弾きながら目を見開いた。
(……これだ…… これが…… 佐伯さんの本当の音だ……)
高原教授は、エレキにてコードを短く刻みながら、みのりのほうを向いて満面の笑みを見せた。
(……すごい…… この子…ほんとにすごい! 完全にブルースの主役じゃないか……)
あかりさんは、ドラムのビートを刻みながら、みのりの音に合わせてわずかに強弱を変え、サックスの呼吸に合わせた。その瞬間、店の空気は完全に第二段階へ突入した。
みのりのサックスは、店の空気を震わせ、客の胸の奥を直接揺らし、ブルースの魂を店全体に広げていった。誰もが予想していなかったほど深く、美しく、そして、大人の世界の音だった。
そのとき──高原教授が、みのりから受け取ったエレキギターのストラップを肩にかけ直した。そして、みのりのサックスのフレーズに合わせて、エレキの指板の上で指を滑らせた。
高原教授(エレキ):E───G───A───C───B───A───G───E───(応答)
みのりのサックスが “問い” を吹き、高原教授のエレキが “答え” を返す。その掛け合いは、まるで二人が言葉を交わしているようだった。みのりが高音で泣くように吹けば、高原教授は低音で支えるように返す。みのりが短いフレーズで挑めば、高原教授は長いフレーズで包み込む。
客席から歓声が上がる。
「うそだろ……」
「レベル高すぎる……」
白石主任研究員は、シェイカーを振りながら震えた。
(……これ…… 完全にプロの現場じゃん……)
高木は、ベースを弾きながら、とうとう笑ってしまった。
(……佐伯…… 君は…… いったいどこまで行くんだよ……)
佐野教授は、キーボードでブルースの泣きのニュアンスを重ねながら、二人の掛け合いに合わせて音を置いていった。
そして──あかりさんは、ドラムのギアを一段上げた。
Kick:●──●──●●──●──●●──
Snare:──○────○──○──○──○
Hi-hat:××××××××××××××××
Ride:♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
Crash:★──────────────★
Tom:□■◆□■◆
キックが床を押し、スネアが空気を跳ねさせ、ハイハットが店のざわめきを細かく整え、ライドが時間の流れを刻み、クラッシュが光を散らし、タムが空気の層を切り裂く。そのすべてが、みのりと高原教授の掛け合いを支えるために完全に統合されていた。
客席が一斉に叫ぶ。
「かっこいーー!!」
「やばい!!」
「プロじゃん!!」
「水瀬先生、ドラムうますぎ!!」
店主は、カウンター越しに目を丸くしたまま動けなかった。
(……店…… 今日…… とんでもないことになってる……)
みのりのサックスと、高原教授のエレキの掛け合いが続いていた。
あかりさんのドラムは、さらにギアを上げていた。
Kick:●●──●──●●──●──
Snare:──○──○──○──○──
Hi-hat:××××××××××××××××
Crash:★──────★──────★
Ride:♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
Tom:□■◆□■◆□■◆
その音は、店の空間を完全に支配した。そして、お店の一般的な防音設備では、このレベルのドラムのエネルギーは抑えきれなかった。キックの振動が歩道を伝い、スネアの跳ねがガラスを震わせ、サックスの高音が夕方の空気を切り裂いた。通りすがりの人が、その音に足を止めた。
「……え?」
「なにこれ……生演奏?」
「店の中から聞こえてるの?」
一人、また一人と、音に引き寄せられるように店へ向かった。そのため、店内は、あっという間に満員になった。さらに、店の扉は、中へ入ろうとする人、入りきれなくてその場で立ち止まって聴き入る人によって、とうとう閉めることができなくなった。
最初からいた客は、もう完全にステージ側に釘付けだった。
「やばい……」
「なんだこのレベル……」
「プロじゃん……」
「高校生が主役ってどういうこと……」
やがて、店の外にも人が集まり始めた。何十メートルも離れた場所で、散歩していた人が足を止めた。
「……なにこれ…… めちゃくちゃ上手い……」
「店の中でやってるの?」
「……ちょっと… これ……聞いていこ……」
誰もが音に吸い寄せられ、誰もがその場に立ち止まり、誰もがその音に心を奪われた。
店の中と外の境界は、もう意味をなしておらず、あたり一帯が、まるで野外コンサート会場のようになった。
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