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◆ 第38話 ── 新型LSG-miniが威力を発揮する
新しいLSG-miniを手にしたみのりは、胸の奥が何かそわそわしていた。
(……これ、私だけじゃなくて……他の生き物にも凄く効果ありそう……)
そう思っていたとき、玄関の方から元気な声が聞こえた。
「ただいまーっ!」
部活から帰ってきた妹(佐伯ひより)が、汗をぬぐいながらリビングに入ってきた。
「おねーちゃん、それ何? なんか、光ってる……」
みのりは少し嬉しくなって、LSG-miniを妹に見せた。
「これね、すごいんだよ。前に、飛べなくなってたスズメに近づけたら、数分後に飛んで行っちゃったの」
妹の目が一気に輝いた。
「えっ、ほんとー!? 私もやってみたーい!!」
中学2年生なのに、小学生みたいにぴょんぴょん跳ねる妹に、みのりは思わず笑ってしまった。
「じゃあ……弱ってる動物とか探しに行って、それで試してみよっか…」
「うん!行く行く!!」
みのりはLSG-miniを胸元のポケットに入れると、二人は直ぐに玄関に行って靴を履き、家の近くの林に向かった。
夏の夕方の空気はまだ少し熱を残していて、林道に入るとアブラゼミやクマゼミが大合唱を続けていた。
「セミの抜け殻が凄く沢山ある… ほら! ここにも… あそこにも… あの上にも…」
二人で散歩することは、かなり久しぶりで、妹はすごく楽しそうであった。
やがて林道は、人だけが通れる道幅になり、辺りにはツリフネソウやゲンノショウコの花が咲いていた。
妹は、草むらを覗き込みながら歩いた。
「…どこかに弱ってる動物いないかな……」
みのりは、胸元のポケットに入れたLSG-miniを落とさないように、ポケットの上から押さえながら歩いた。
(……これ… 改良されてるから… もっと凄い効果があるはず……)
みのりの胸は、期待と少しの緊張で高鳴っていた。
二人は林の中をしばらく歩き回った。木漏れ日が、少し赤みを帯びて弱くなってきていた。
「弱ってる動物、いないね……」
妹が少し残念そうに言った。
「そうだね……今日は… たまたま元気な子ばかりなのかも…」
みのりも、少し残念そうに答えた。
二人が、そろそろ帰ろうか… ──そう思ったときだった。
「おねーちゃん、あれ……!」
妹が小川の方を指さした。
二人が近づくと、浅いよどみに大きなカワムツが水面付近に浮き上がり、横向きになりながら口だけをパクパクさせていた。
「……まだ生きてるね!」
妹は目を輝かせた。
「これ… 助けられるかもしれないね…!? おねーちゃんの…それで…!」
「うん。やってみようか…」
みのりは、胸元のポケットからLSG-miniを取り出して、小川の縁にしゃがみ込み、カワムツに近づけた。
(……魚さん… 元気になって……)
妹は、まるで魔法を見守るように、目を大きく開いていた。
(……どうなるんだろう……)
──30秒
──1分
──2分
カワムツは、まだ横向きのままだったが、その体が少しずつ、ゆっくりと動き始めた。
「……ちょっと動くようになってきたんじゃない?」
「…うん… そんな感じする…」
──3分
──4分
カワムツは、体を少し斜めに起こしながら、体を左右に動かし始めた。
──5分
カワムツは、ふっと…体を真っすぐに立てることができた。
「……戻った!」
妹が小さく叫んだ。
カワムツは、体を真っすぐに立てたまま、ゆっくりと泳ぎ始めた。最初はよろよろしていたが、その数秒後には、まるで何事もなかったかのように、小川の流れのほうに向かって泳ぎ出した。
「ほら!! 元気になったよ!! すごーーーい!!!」
妹は、嬉しさのあまり、みのりの腕にしがみついた。
みのりは、そのカワムツの姿が見えなくなるまで、しっかりと目で追った。
(……すごい…… …このLSG-mini…)
「すっごいね…これ… おねーちゃん、魔法使いできるよ(笑)」
「…ほんとに… すごい…これ…。 …じゃ、あまり遅くなってもいけないから、もう帰ろうか…」
「うん。帰ろ」
「ママに連絡入れておくね…」
みのりは、スマホを取り出して、ママにメッセージを入れた。
[ママ、ひよりと散歩に出てるので、もう少ししたら帰るね]
二人は、LSG-miniの威力に驚きながらも、達成感のようなものを感じていた。帰りの林道の周囲では、今度はヒグラシが大合唱をしていた。
林道を出ると、夕方の光が少し赤みを帯びて、道路わきの影が長く伸びていた。
そのとき──妹が、ふと立ち止まった。
「ね、おねーちゃん…… あのお爺ちゃん、しんどそうだね……」
◆ 帰り道のベンチでお爺さんに出会う
道路わきの古いベンチに、杖を横に置き、上半身を前に預けるようにして座っているお爺さんがいた。肩がゆっくり上下していて、少し苦しそうに見えた。
みのりはすぐに状況を理解した。
「うん……そうだね。 ……大丈夫かどうか、話しかけてみようか…」
二人はそっと近づいた。
「こんにちは……大丈夫ですか?」
お爺さんは顔を上げ、少し申し訳なさそうに笑った。
「いやね……ちょっと目まいがしてね…… 歩けなくなったから、ここで休むことにしたんだよ」
妹が、みのりの袖を引っ張った。
「おねーちゃん! あれ!」
みのりは頷いた。そして、ポケットからLSG-miniを取り出し、お爺さんの前にそっと差し出した。
「これ……ちょっと持ってみてもらえますか?」
お爺さんは不思議そうに首を傾げた。
「…これは何かな?」
みのりは優しく答えた。
「えっと……体の調子を整える装置なんです。少しだけ…試してみてもらえますか?」
お爺さんはゆっくりと手を伸ばし、LSG-miniを受け取った。
妹は横で小さくうなずきながら、まるで魔法を見守るように、じっとお爺さんの様子を見つめていた。
──30秒
──1分
──2分
お爺さんの肩の上下が、少しずつ落ち着いてきた。
お爺さんは、おもむろに呟いた。
「……おや…… なんだか…… 頭がすーっとして、目まいはしなくなった……」
妹が小さく声を上げた。
「おねーちゃん……! 効いてるよ…!」
みのりは静かに頷いた。
(……魚のときと同じだ…… 生命信号が効いてる……)
──3分
──4分
お爺さんは、上体を起こし、ゆっくりと背筋を伸ばした。
「……さっきまで…前に倒れそうだったんだが…… 元気が戻ってきたような気がする……」
みのりはそっと言った。
「少しだけ……立ってみますか?」
「うむ……やってみようか……」
お爺さんは杖を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。
妹が思わず声をあげた。
「立てた!」
お爺さんは驚いたように自分の足を見下ろし、その場で小さく足踏みをした。
「…さっきまで、立っているだけでもしんどかったんだが…… ふらつかなくなったし… …足も軽く感じる…」
みのりは、祈るように念じた。
(……お爺ちゃん… …もう少しだよ… …頑張って…)
お爺さんは、数歩だけ前に進んでみた。
「……あっ …歩けた……」
みのりと妹は両手を取り合って喜んだ。
「やったーーーっ!!」
お爺さんは、みのりと妹の方を向き、深く頭を下げた。
「ありがとう……本当に……助かったよ……」
みのりは思わず答えた。
「よかったです!!」
お爺さんは、杖をつきながらも、元気そうな足取りで10メートルほど歩き、みのりたちのほうに振り向いた。
「お嬢さんたち… 本当にありがとう…」
丁寧に頭を下げ、お爺さんは再び歩き出した。
みのりたちは、顔を見合わせて、満面の笑みを浮かべた。
◆ お爺さんの帰宅と会話
夕方の光はさらに弱くなり、家々の影が長く伸びていた。
お爺さんは、自宅の玄関の前で一度立ち止まり、太腿の辺りをさすった。
(……本当に……軽い… …夢のようだ……)
玄関の扉を開けると、台所からお婆さんの声がした。
「おじいさん? あら……帰ってくるの、ちょっと早かったね。どうしたの? 外で何かあったの?」
お爺さんは靴を脱ぎながら、少し照れたように笑った。
「いやね…… 散歩中に、ちょっと不思議なことがあったんだ」
「不思議なこと?」
お婆さんは心配そうに近づいた。
「歩いているときに、ちょっと目まいがしてね…… まともに歩けなくなったから、道路わきに置いてあったベンチに腰を下ろしていたんだよ」
「あっ、そうだったの… 都合よくベンチがあって、よかったねぇ」
「そしたら間もなく、若いお嬢さん二人が近寄ってきてね… 大丈夫ですかって声かけてくれて…。 そして、“これを持ってみてください”って… 小さな機械のようなものを渡してくれたんだよ」
「機械? 何それ…?」
「よく分からんのだけど…… それを持っていると、頭がすーっとしてきて、目まいもしなくなって…… そのうちに…楽に立てるようになって… そして、普通に歩けるようになったんだよ」
おばあさんは目を丸くした。
「ええーーっ?? そんなこと……あるの…?? 夢のような話だねぇ…」
お爺さんは、お婆さんの目の前で、試しに膝を高く上げて足踏みした。
「わぁ、すごい… こんなに足が上がるよ…」
「ほんとだねぇ!!」
お婆さんは、たいそう驚いた。
お爺さんは、今度は、片足を上げたまま、一本足で立ってみた。
「ほら!! ふらつかないぞ… いったい… 急にどうしたんだ!??」
自分でも信じられない急変に、お爺さんは更に驚き、お婆さんも更に驚いた。
お爺さんは、独り言のように言った。
「……あの… 優しいお嬢さんたち… わしに、あのような不思議な機械を渡してくれて… やがて、わしが歩けるようになったのを見て… “よかったです!!” って、満面の笑みで喜んでくれた…」
お婆さんは頷きながら、しみじみと言った。
「あんた… 天使に会えたんだよ…きっと…。そんな不思議な機械… 本当にあるとは思えないからさ…。 …だから、あんたは、人間の娘に姿を変えた2人の天使に会えたんだ。そして、救ってもらった…」
お爺さんも、その言葉に頷きながら
「そうだな…。…わしは、本当に幸せもんだ。 …ありがたい…ありがたい…」
お爺さんは、考えれば考えるほど不思議な体験と、本当に若返った体を自分で確認しながら、ゆっくりと椅子に座って窓の外を見た。
(……世の中には… こんな良いこともあるんだ… あの子たちと、また夢の中で会えるといいな…)
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