攻撃性が高まる仕組み

攻撃性が高まる仕組み

 人間の世の中では、各地で戦争を起こしていたリ、遠隔でのサイバー攻撃が行われたり、テロリストが居たり、街頭では無差別に人を傷つける者が居たり、職場でも無暗に攻撃的な人が居たり…。
 普通、動物の世界では不必要に他の動物を攻撃することはありません。肉食動物は、自分が食べるために仕方なく他の動物の命を奪うことになりますが、それ以外のことで命を奪うことは滅多にありません。縄張り争いも、相手が引けばそれ以上の深追いはしません。だからこそ、地球上には莫大な種類の動物が共存できるようになったわけです。しかし人間だけは違います。必要以上の攻撃性を示し、他の生物だけにとどまらず、同種であるヒトの命をも奪う行為に走ってしまいます。それは一体なぜなのでしょうか…。

 攻撃性がどのように生じるかについて論じた報告は多くありますが、ここでは生物学的・生理心理学的な方向から見てみたいと思います。なお、古くから言われていた事が、実はそうではなかった…と、その後に否定されたものも決して少なくないのですが、Web検索してみると、依然と古い情報を元にして何らかの商売に繋げようとしているWebサイトが多く見つかります。
 今回は、現時点での最新かつ最も影響力の大きい機序を少数採り上げてみました。もちろん、攻撃性が高まる機序は単純ではないのですが、特にこの機序の影響力が大きいのか…、というふうに捉えていただければ結構かと思います。

 攻撃性が高まる状況として図(高画質PDFはこちら)の左側に挙げたのは〝挑発を受けたとき〟です。これは、普段は温厚な人柄であっても、誰かに理不尽な文句をつけられたならば、大抵の人は(お釈迦様でない限り)怒り出すのではないかと思います。その場で相手を攻撃するとヤバいと思ったならば、第三者に救助を求めることになると思いますが、内心は攻撃態勢になっています。そして、その瞬間よりも、何分か経過してから攻撃性が高まってきます。このタイムラグは、然るべきホルモンの濃度が高まるまでの時間を意味しています。
 そのホルモンとは、脳内の視床下部や扁桃体の中のニューロンで扱われるエストラジオール(略号:E2(以降E2と表記))です。このホルモンは、いわゆる女性ホルモンの一つで、主要な男性ホルモンであるテストステロンから変換されたり、または女性ホルモンの一つであるエストロンから変換されたりして生じます。
 因みに、テストステロンが攻撃性の原因であると言われた時代もありましたが、テストステロンは攻撃性よりも社会性を生み出すことのほうが主であるため、その後の研究において、これは本体ではないと結論付けられました。その代わり、テストステロンから変換されたE2が本体であることが確認されました。
 全身におけるE2と、視床下部や扁桃体におけるE2はもちろん同じ物質ですが、それぞれの部位における作用は別のものとして捉える必要があります。そもそもホルモンは、何らかの情報を伝える役割を果たしている物質ですから、それが届いたときに起こす反応は細胞の種類によって異なります。例えば、子どもを身籠ってから育てる段階ではE2の濃度が桁違いに高まりますが、それは子育てのためです。
 ただ、図の右側に挙げました、子持ちの母親の攻撃性の高さの一因は、全身的なE2濃度の高まりが、脳内のニューロンにも影響することによって、攻撃性が高まるのだと解釈されています。

 次に移りますが、母親の攻撃性を高めている、もう一つのホルモンとして、オキシトシンを挙げることが出来ます。オキシトシンは〝愛情ホルモン〟や〝信頼ホルモン〟と呼ばれて久しいですが、これは一方では〝その他のものを排除する〟という性向(性格傾向)を生み出すことが確認されました。要するに、何か特定のものへの愛情や信頼が深まれば深まるほど、その他のものへの愛情や信頼性が薄まることになります。これは、我が子を攻撃してくるものがあれば、我が子を守るために手段を択ばない、という母親の強靭さを生み出す原因になっています。
 このオキシトシンの作用を悪用したのが、戦争を起こしたいときに国民に植え付けられた〝愛国心〟です。本当なら、どこの国をも平等に愛することが大切です。それは、どこの国の人であっても平等に愛することと同義になります。ところが、日本国を愛せよということで、日本への愛を深めるほど、それを守るために他国を攻撃することを厭(いと)わなくなるわけです。
 併せて、敵を突き刺すために竹槍などの武器を手にするだけで、それが若い女の子であってもテストステロン濃度が高まり、それが脳内のアロマターゼによってE2へと変換され、攻撃性を更に高めることになります。

 攻撃性を抑える対策としましては、ホルモン類の分泌を意識的に抑えることは難しいですから、テストステロンをE2へと変換する酵素であるアロマターゼの活性を抑えることは比較的容易です。それは、図の右下に書き込みました物質を摂取することであり、それは即ち、アピゲニン、カテキン類、ニコチン、レスベラトロール、ビタミンE、亜鉛などを補給することです。ニコチンは取りにくい状況ですが、アピゲニンやカテキン類は一連の話に度々登場するように、これは必須の機能性成分だと解釈すべきだと思います。そして、このようなものを摂取していない人間ほど攻撃性が高いと捉えて結構でしょう。

 
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