AI脳で集中し、人間脳で意味をつくる ― 脳の切り替えという技術

AI脳で集中し、人間脳で意味をつくる ― 脳の切り替えという技術

◆ はじめに
 これまでに私が書いてきました、“AIを主テーマにした記事”の内容を、ごく短い言葉で表すならば、「AIの情報処理方法」「AI時代の教育」「AI的思考と認知機能」「AIが入試問題に強い理由」ということになります。なお、それぞれの記事の骨子は、この後、ごく簡単に復習しておこうと思います。
 そして今回の第5弾では、いよいよ「AI脳と人間脳の切り替え」という、より実践的なテーマに踏み込みます。“切り替える”目的は、AI脳が優れると考えられる場面ではAI脳に切り替え、人間脳が優れると考えられる場面では人間脳に切り替えれば、あなたの能力が更に高まるからです。決して二重人格になるというものではありません。そして、優秀な成績を残す人の場合、この切り替えがうまくできている場合が多いと考えられるのです。
 因みに、私が先にupしております「パフォーマンスを高める」シリーズには、次の4記事があります。それは、『マインドフルネス瞑想は心身のパフォーマンスを高める』『最高のパフォーマンスを発揮する12の秘訣』『赤・緑・青を使い分けて運動パフォーマンスを調節する』『呼吸を使い分けて運動パフォーマンスを高める』です。これらに、今回紹介します方法を加えることによって、パフォーマンスを一段と高めることが可能になります。

◆ AIシリーズにおける既存の4記事の骨子
 今回の記事が第5弾になりますので、第4弾までの内容の骨子を順に箇条書きにて復習しておくことにします。
◇ 第1弾:『AIの情報処理方法から学べる、あなたの能力を劇的に伸ばす5つの力
・AIの強みは「記憶」ではなく「構造化」
・情報を“点”ではなく“つながり”として扱うことが本当の能力。
・人間が伸ばすべきは、分解力・選択力・ネットワーク化力・再構築力・目的最適化力の5つ。
・これらは学校では評価されなかったが、社会では最重要スキルになる。

◇ 第2弾:『AI時代に子どもたちは何を学ぶべきか ― AIが得意なこと、人間にしかできないこと
・AIが得意な「検索・記憶・要約・高速処理」は、すでに人間を超えている。
・だからこそ、人間が学ぶべきは「問いを立てる力」「好奇心」「創造力」「共感」「価値判断」
・AIと同じことを学ぶ必要はなく、人間にしかできない能力を育てる教育が必要。
・これからの時代は「答えを覚える人」より「問いを作れる人」が価値を持つ。

◇ 第3弾:『認知症予防のヒントは意外なところにありました ― AIの思考から学ぶ「脳の使い方」
・AIも人間も、情報を“点”ではなく“つながり”として学ぶ。
・アウトプット(説明・文章化)が脳のネットワークを強化し、認知機能を高める。
・高齢者は経験が豊富なため、AI的思考(関連づけ)ではむしろ有利。
・忘れることにも意味があり、人間は“本質”だけを残すという強みを持つ。

◇ 第4弾:『理解していなくても正解できる ― AIが入試問題で圧倒的に強い理由
・AIは共通テストで平均97%、15科目中9科目満点という圧倒的成績を出した。
・しかしAIは“理解”しているのではなく、膨大なデータから“パターンを見抜いている”だけ。
・現在の入試は「理解」より「パターン認識」を問う構造になっている。
・だからこそ、教育は「問いを立てる力」「意味をつくる力」を評価する方向へ進むべき。

◆ 人間脳の弱点を把握しておく
 では最初に、“人間脳”の弱点を把握しておくことにしましょう。人間の脳には、次のような特徴があります。それは、緊張する、不安になる、自意識が働く、過去や未来を考えすぎる、様々な雑念が湧く、DMN(デフォルトモードネットワーク)が暴走する、などです。ちょっと、具体例を挙げてみることにしましょう。
 例えば仕事の場面では、「こんな大きな仕事を頼まれた…。これは本当に自分がしなければならない仕事なのか、下手なことをして足を引っ張るのではないか、失敗したらその後に自分はどのような処遇になるのか、部下は自分のことをどのような目で見るようになるか…」などなど、色々なことが脳裏を横切るかもしれません。
 或いは、スポーツの場面では、「こんな大舞台に出てきたが、何としても勝ちたい、しかし相手は強そうなので太刀打ちできないかもしれない、負けたら自分の評価は大いに下がるだろう、メンバーや家族に合わせる顔がなくなる…」などなど、色々なことが脳裏を横切るかもしれません。
 このような精神活動は、多くの場合はパフォーマンスの低下、即ち、実力が発揮できない状態に陥ることになるわけです。だからこそ「無心になる」「ゾーンに入る」ことが出来るよう、マインドコントロールが重視される所以でもあります。

◆ 人間脳の弱点とパフォーマンス低下の理由
 上述しましたように、緊張する、不安になる、自意識が働く、過去や未来を考えすぎる、様々な雑念が湧く、DMNが暴走する、などの現象は、AIには起こらないため、これは人間の脳だけの特徴ですので、これを「人間脳の暴走」と呼ぶことにします。そして、この人間脳の暴走によって次の理由でパフォーマンスが低下するわけです。 
 人間脳が暴走すると、次のような現象が起こります。それは、DMNが過剰に働いて雑念が止まらない、扁桃体が反応して不安や緊張が更に高まる、ワーキングメモリが雑念で占領されて本来の作業に集中できなくなる、本来の能力が“脳内の邪魔”によって封じられる、などです。もちろんこれは能力不足を意味しているのではなくて、脳のモードがその時の目的に合っていないだけなのです。だからこそ、暴走しないAI脳に切り替える技術が必要になるわけです。

◆ AI脳が圧倒的に有利である理由
 一方、AI脳には上述のような人間脳のような精神活動が一切起こりません。例えば、どこかの国のトップから極めて難しい問題の回答を迫られた場合でも「あのような大人物から、こんな難しい問題の回答を頼まれた。これは本当に自分が答えなければならない問題なのか、下手な回答をして全国民に迷惑をかけるのではないか、失敗したらその後には自分が使われなくなるのではないか、AI開発者は自分のことを消去してしまうかもしれない…」などとは、一切考えないのです。要するに、人間脳のように“雑音”が生じることが無いのです。
 AI脳の特徴を短い語で表現するならば、感情無し、雑念ゼロ、迷いゼロ、目的に最適化、高速処理、となるわけです。その結果、持ちうる能力が常に最大限に発揮されるわけです。
 もちろん、人間として生まれたからには、頭蓋骨の中には人間脳が装備されているわけですから、それを捨て去ることはできません。また、人間脳の良さは先にupした記事でも紹介しましたように、かけがえのないものです。従いまして、考え方としましては、どちらが良い悪いではなく、状況に応じて切り替えることが理想だということになります。しかし現実には、多くの人が「人間脳の暴走」によって本来の力を発揮できていないわけです。

◆ AI脳に切り替える方法
 AI脳の特徴は上でも触れましたが、感情無し、雑念ゼロ、迷いゼロ、目的に最適化、
高速処理、その他にも、一点集中、余計な情報を切り捨てる、などを挙げることができます。これを人間が再現するには、AIの「情報処理の原理」を人間の脳に模倣させる必要があります。それが実現できれば、“AI脳スイッチ”が導かれることになります。では、現実的に最も理にかなった順番にて紹介していきます。

① 目的を一つに絞る(AIの最重要原理)
 AIは常に「目的関数(Objective Function)」というものに基づいて動きます。これは、“何を最優先で達成すべきか”を数式で表したものです。AIは感情も価値観もありませんので「何をすべきか」を自分で決められないのです。そこで開発者が、何を最大化するか、何を最小化するか、何を正解とするか、を数式で定義するのですが、これが「目的関数」です。もし、同程度の強さの目的が複数あったとした場合、それによって処理能力が低下することになりますので、それが防がれているわけです。
 人間も同じであって、“何を最優先で達成すべきか”を考える習慣をつけることです。即ち、今日の目的は「これだけ」、今のタスクは「これだけ」と決めることです。その結果として、脳がAIモードに入るわけです。

② 迷いをゼロにする(AIは迷わない)
 AIは、与えられた目的関数に対して「最適解」を選ぶだけですので、そもそも“迷う”という概念がありません。一方、人間は選択肢が増えるほど、脳の処理資源(ワーキングメモリ)が奪われ、判断が遅くなり、集中力も落ちてしまいます。つまり、迷いは“脳の帯域を大量に消費するノイズ”なのです。
 人間が AI のように迷いを減らすには、「どっちでもいいことは即決する」「多くても選択肢は2つに絞る」「決めたら振り返らない」ことです。
 また、決断後に「あれで良かったのか」と考えることも、脳のエネルギーの無駄遣いです。AIは一度選んだら、次のステップに即座に移ります。人間も、決めた後は“前に進むこと”に集中することで、脳の処理効率が高まります。

③ 不要な情報を切り捨てる(Attention機構の模倣)
 AIの上記①の動作は“優先順位をつける”ものでしたが、その上で更に“不要な情報を切り捨てる”のです。要するに、AIは徹底して「重要な部分だけに注意を向ける」仕組みを持っているということです。
 人間がこれを再現するには、他からの情報流入や通知を断ち切る、目に入る情報や耳に入る情報を可能な限り減らす、机の上の物を減らす、PCならば余計なタブを閉じる、などです。自分に対して色々と言ってくる人に「ごちゃごちゃ余計なこと言わないで!!」と伝えるのも効果があるかもしれませんが、AIは何一つ文句を言わず、サラッと聞き流す、見て見ぬふりをする、という感じでしょうか…。こうすることによって余計なトラブルを避けることができるでしょう。

④ 外部記憶を使う(AIは常に外部データを参照する)
 AIは「覚えない」のです。必要なときに必要な情報を取りに行くだけです。もっと詳しく言うと、AIは「記憶しているように見える」だけで、本当は覚えていないのです。例えば、さっきの質問、昨日の会話、過去のやり取り、以前の情報など、そのようなものを“記憶”しているわけではありません。AIがやっているのは、“必要なときに必要な情報を外部へ見に行く”という動作です。AIとのチャットで会話が続く理由は、スレッドに“さっきの質問や回答”が残っていますので、それを見に行っているだけです。会話内容をいちいち覚えているわけではありません。
 ところが人間は、つい“覚えよう”としてしまうのです。だからこそ、覚えられないという不安が生まれる、忘れないように気を張る、頭の中がいっぱいになる、DMNが暴走しやすくなる、集中力が落ちる、などというデメリットが表面化してしまうのです。従いまして、対策は、メモ、付箋、ノート、ホワイトボード、チェックリストなど(もちろん、スマホ版、PC版でも良い)を活用したり、自分の頭を使わない方法でタスク管理したりすることです。そうすることによって脳の負荷が減り、AI脳に近づくのです。

⑤ タスクを分解する(AIの基本動作)
 AIは、どんなに複雑な問題でも、いきなり全体を処理しようとはしません。必ず 「小さな意味単位(トークン)」に分解してから処理を始めます。これは、AIの思考の“最も基本的な動作”です。
 人間の脳の場合、大きなタスクをそのまま扱うと、ワーキングメモリが圧迫され、働けなくなります。そこで、AIが行うようにタスクを細かく分けると、脳の負荷が一気に下がり、働くようになります。そのためには、次のような工夫が効果的です。
 1つ目は、「3ステップに分ける」ことです。どんな作業でも「最初・中間・最後」の3つに分けるだけで、脳が扱えるサイズになります。AIが長い文章を「意味のかたまり」に分けるのと同じ原理です。
 2つ目は、「5分でできる単位にする」ことです。5分でできるかどうかは、タスク分解の黄金基準です。5分でできる単位にすると、脳は“負担”ではなく“行動”として認識し、働きやすくなります。
 3つ目は、「最初の1手だけ決める」ことです。AIは、全体を一気に計算するのではなく、“次に最適な1手” を選び続けることで結果に到達します。人間も同じように、まず何をするかだけ決めれば、脳が自動的に前に進み始めます。
 以上のように、タスクを分解するというのは、脳の処理を“AIと同じ形式”に変換する作業です。これだけで、脳の負荷が軽くなり、集中力が上がり、行動がスムーズになります。

⑥ ルーティン化する(AIは毎回同じ手順で動く)
 AIは、同じ種類の処理をするとき、毎回「同じ手順」で動きます。その都度やり方を変えたり、「今日はこうしようかな」と迷ったりしません。この「手順がブレない」という性質が、そのまま高速処理と安定したパフォーマンスにつながっています。
 人間の脳は、本来とても優秀ですが、その都度やり方を考えたり、始め方で迷ったりすると、そこでエネルギーを消耗してしまうという弱点があります。そこで有効なのが、「ルーティン化=手順をあらかじめ決めておく」ことです。具体的には、次のような形です。
 • 朝の開始ルーティン
 起きてから仕事や勉強に入るまでの流れを、毎日ほぼ同じにしておきます。例:コーヒーを淹れる → 机を整える → 今日やることを3つ書き出す。これにより、「今日は何から始めようか」と迷う時間とエネルギーがゼロになります。
 • 作業前の準備ルーティン
 あるタスクに入る前にやる“お決まりの準備”を決めておきます。例:不要なタブを閉じる → スマホを裏返す → 必要な資料だけを机に残す。これだけで、脳が「これから集中モードに入るんだな」と理解しやすくなります。
 • 集中前の儀式
 AIでいう「処理開始のトリガー」にあたる部分です。例:深呼吸を3回する/タイマーを25分にセットする/赤いペンを手に持つ、などです。毎回同じ“合図”を使うことで、脳が条件反射的にAIモードに入りやすくなります。

⑦ 感情を一時的にオフにする(AIは感情を持たない)
 AIは感情を持ちませんので、当然のことながら、どんな状況でも感情に左右されず、
“今の目的に最適な行動”だけを選び続けます。そのため、感情によるブレは常にゼロになります。
 一方、人間はとても豊かな感情を持つため、評価されている意識、失敗への不安、自意識、過去の記憶、他人の視線など、そのような“感情のノイズ”が集中や判断を妨げてしまいます。そこで、AI脳に切り替えるためには、この感情のノイズを「消す」のではなく、“一時的に横に置く” という方法が実践しやすいでしょう。そのために有効なのが、次の3つです。
 •「評価されている」という意識を消す
 人間は「見られている」「評価されている」と感じるだけで、脳のリソースが“自己防衛”に割かれてしまいます。AI脳に入るには、「今は誰の評価も関係ない」と意識的に切り離すことが効果的です。
 • 「失敗したらどうしよう」を棚上げする
 失敗への不安は、未来の想像に脳のエネルギーを奪います。AIは未来の不安を考えず、“今の最適解”だけに集中します。人間も、「失敗のことは後で考える」と一旦棚上げするだけで、脳の負荷が大きく下がります。
 •「今は感情の時間ではない」と決める
 マインドフルネス瞑想の場合もそうなのですが、感情を否定する必要はありません。ただ、「今は作業の時間」「感情は後で扱う」と明確に区切ることです。これは、AIが処理の前に「目的関数」を明確にするのと同じ原理です。このような “感情の一時停止” を行うことで、脳の雑音が減り、注意の焦点が一点に集まり、AIのようにブレのないパフォーマンスが発揮できるようになるわけです。

◆ 人間脳に戻す方法
 AI脳は、情報処理・判断・集中といった「タスク遂行」に圧倒的な強さを発揮します。
しかし、人間が生きていくうえで本当に大切なものである、意味・価値・物語・つながり・感情などを扱うのは、AI脳ではなく人間脳の役割です。そのため、AI脳で走り続けると、効率は上がる一方で、「自分は何のためにこれをやっているのか」という“意味の感覚”が薄れてしまうことがあります。そこで必要なのが、人間脳に戻る時間を意識的に作ること です。そのために効果的なのが、次の行動です。
 • 散歩
 歩くリズムが脳のDMN(デフォルトモードネットワーク)を整え、思考が自然に「意味」や「価値」の方向へ流れ始めます。アイデアが生まれやすいのもこの状態です。
 • ぼーっとする
 何もしない時間は、脳が“内側の世界”を整理するための大切なプロセスです。AI脳では扱えない「感情」「記憶」「物語」が静かに統合されていきます。
 • 読書
 物語や知識に触れることで、自分の価値観や人生観がゆっくりと育っていきます。これは完全に“人間脳の仕事”です。
 • 人と話す
 会話は、AI脳では扱えない「共感」「関係性」「感情の交換」を生み出します。人間脳が最も活性化する行為のひとつです。
 • 過去を振り返る
 自分の経験に意味づけを行うのは、人間脳だけが持つ能力です。人生の物語を再構築することで、心が整い、次の行動に向かう力が生まれます。
 以上に挙げました行動は、人間脳を回復させ、人生の“意味”を取り戻す時間となります。
結局、「AI脳で走り、人間脳で立ち止まる」という、その往復が、心とパフォーマンスの両方を支えてくれるということです。

◆ まとめ ― 切り替えができる人は強い
 AI脳と人間脳は、どちらが優れているという話ではありません。それぞれに役割があり、両方を使いこなすことによって、人は本来の力を最大限に発揮できるのです。即ち、AI脳で集中し、人間脳で意味をつくり、必要に応じて行き来する。
 この“切り替え”ができる人は、次のすべての領域でパフォーマンスが上がります。それは即ち、勉強(AI脳で理解し、人間脳で深める。記憶と洞察の両方が強くなる)、仕事(AI脳でタスクを処理し、人間脳で価値を生み出す。効率と創造性が両立する)、スポーツ(AI脳で集中し、人間脳で“流れ”や“感覚”をつかむ。パフォーマンスが安定する)、人間関係(AI脳で冷静に判断し、人間脳で共感する。衝突が減り、信頼が深まる)、創造性(AI脳で情報を整理し、人間脳で新しい意味をつくる。アイデアが自然に湧き出る)などの各領域です。
 AI時代の今、最も重要な能力は、これまで学力試験で重視されてきた「知識量」でも「処理速度」でもありません。状況に応じた“AI脳と人間脳の切り替え”です。これからの時代を生き抜くための、新しい知性であると言えます。

 
スポンサーリンク
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
世間一般では得られない、真に正しい健康/基礎医学情報を提供します。

stnv基礎医学研究室をフォローする
脳-能力
この記事をシェアする([コピー]はタイトルとURLのコピーになります)
stnv基礎医学研究室
タイトルとURLをコピーしました