抗酒薬のジスルフィラムは、がん幹細胞に対して抗がん作用を示す

抗酒薬のジスルフィラムは、がん幹細胞に対して抗がん作用を示す。

 今回のお話は、前回にupしました『がん幹細胞は生き残るためにALDHを高発現する』の続きになります。
 因みに、前回のお話のポイントは、私たちの種々の組織中に点在している幹細胞が、種々のストレスによって非常に苦しい状況に陥(おとしい)れられてしまった場合、その大問題を克服するために幹細胞はALDH(アルデヒド脱水素酵素)を限界を超えて量産する(高発現させる)ようになる、ということです。そして、そのようになった幹細胞を、人は〝がん幹細胞〟と呼んでいる、ということです。
 具体的には、ストレスのうち最も大きいと言えるのが活性アルデヒドの増加によるものであり、それを無難な物質(カルボン酸)へと代謝するために、その代謝を担っている酵素であるALDHを高発現させているわけです。また、この酸化ストレスは抗がん剤治療によっても跳ね上がりますので、標準治療として抗がん剤を投与された経験のある人は、組織中にがん幹細胞が残っており、様子を窺(うかが)っている可能性があります。もちろん、私がこれまでに述べてきた各種の方法を実践している方々におきましては既に問題は解決されていることと考えられますが、念のために追加対策をしておきたいと考えられる場合には、今回紹介するものが功を奏するであろうと思われます。
 
 本来、自分の細胞を苦しめるやり方は望ましくはないのですが、限界を超えてALDHを高発現しているがん幹細胞のALDHを阻害してやったらどうなるでしょうか…? 結果としましては、酸化ストレスが相変わらず大きい状態なのであれば生き残ることが出来なくなります。即ち、がん幹細胞は死滅することになります。
 そして、ALDHを阻害する物質は…ということになると、筆頭に挙げられるのが抗酒薬として最もポピュラーであるジスルフィラムです。因みに、ジスルフィラムの抗がん作用については非常に多くの論文が出されており、掲載した図(高画質PDFはこちら)の右側の図は過去の知見がまとめられたものの一例です。これには、ジスルフィラムのALDH阻害以外の機序も挙げられていますので、ごく簡単に見てみることにしましょう。
 図中にも箇条書きにしましたが、それを下に書いておきます。
 ①DSFは、がん幹細胞にて高発現しているALDH(アルデヒド脱水素酵素)を阻害することによって、細胞内の活性アルデヒド濃度を高めたり、エネルギー代謝を抑制したりなどで、がん幹細胞としての存続を抑制することです。
 ②DFSがDSF/Cuに変化するときにもROS(活性酸素種)が発生するため、それによって、がん幹細胞やがん細胞のアポトーシスが誘導されることです。
 ③DSFは、がん幹細胞が、抗がん剤や放射線などによる治療抵抗性を示す複数の機序を阻害することによって、治療を容易にすることです。
 ④DSFは、腫瘍随伴マクロファージ(TAM;がん組織を攻撃から守っているマクロファージ)が細胞内に持っているFROUNTというタンパク質を阻害することでTAMの活動が抑制され、攻撃されやすくなることです。
 ⑤DSFは、がん幹細胞が増殖のため、および血管新生のために用いている各種のシグナル伝達経路を阻害して、がん細胞の増殖を抑えることです。
 ⑥DSFは、NPL4タンパク質の凝固と結合を促進することによって、プロテアソーム系を抑制する、即ち、細胞内に生じた不要なタンパク質を分解することが出来なくなることです。
 <その他>DSFは、がん組織に増えている銅(Cu)を回収することになったり、DSFの代謝物であるCuETが、がん幹細胞内のグルタチオンを阻害してがん幹細胞内の毒物の濃度を高めたり、T細胞を刺激して腫瘍細胞への攻撃を強化すること、などです。

 上記の個々についての解説は割愛しますが、ジスルフィラムは、ALDH阻害以外の機序によっても抗がん作用を示すということです。そのため、世界的には臨床試験も進められている状況です。ただし、特に日本におきましては、薬価の非常に安いジスルフィラムでがん治療が出来るとなると、製薬企業も医療機関も利益が上がらなくなりますから、用途拡大の承認は非常に難しいと思いますし、承認されたとしても従来の抗がん剤との併用になるはずです。これは、メトホルミンの場合と同様の結末だということになります。

 ジスルフィラムの使用上の注意は、250mgまたは500mgを1度服用すると、ALDHの阻害効果が完璧ですので、ALDHが回復するまではアルコールの摂取を避けることです。個人差やアルコール摂取量にもよりますが、4~5日間は飲酒を避けておくべきでしょう。もしアルコールを飲んでしまうと、アルコールの分解によって生じたアセトアルデヒドが酢酸にまで分解されませんので、非常に苦しい思いをすることになります。もちろん、抗がん剤を投与されたような方が多く飲酒されることは無いと思いますが…。なお、それ以外の副作用は無いに等しいと言えるぐらい、安全で安くて歴史の長い優れた医薬品です。
 商品名としましては、図の左上に挙げておきましたように、アンタビュース、ノックビン、それらのジェネリックなど、複数の製品が存在しています。必要があれば、web検索してみてください。

 
執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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