親の特徴や能力が子ども伝わることは、誰もが実感を伴って認めていることでしょう。そして、学校で習ったように、遺伝子というものがあり、その本体はDNAであると教わってきたはずです。勿論それは紛れもない事実なのでしょうが、それだけでは説明できない様々な現象が確認されます。今日は、そのうちの一つをご紹介することにします。
結論的にはタイトルに書きましたように、「あなたの努力は子孫にしっかりと反映される」ということです。
そもそも、親となる人が事前に努力しようが怠けようが、その結果は子どもや孫には影響しないだろうと思わせてしまうのがDNAによる遺伝の理屈です。即ち、親の努力の如何によってDNAそのものが変化することは考えにくいからです。しかし、DNAそのものの変化ではなく、DNAに記された遺伝子のうち、どれをどの程度発現させるのかを決めている、いわばスイッチのようなものの入り具合によって結果が大きく左右するということです。
遺伝子発現のスイッチの種類も非常に沢山あります。大きく分けるならば、一つは、遺伝子であるDNAに何らかの分子を結合させて読まれないようにしたり、DNAからメッセンジャーRNAへと転写するか否かを調節している因子の量を調節したりなど、DNA発現に直接的に関わるスイッチの入れ具合を変化させる方法です。
もう一つは今日ご紹介するものであり、それはRNAによって遺伝子発現を調節する方法です。義務教育で習ってきたRNAと言えば、メッセンジャーRNA(mRNA)とトランスファーRNA(tRNA)ぐらいだと思いますが、それ以外にも様々な種類のRNAが存在しています。掲載した図(高画質PDFはこちら)の右下に分類例を挙げておきましたので、参考として見ていただければと思います。
さて、今日の主題ですが、男性が持久力トレーニングを6週間行った後と、それから3か月経った時の精子中の各種のRNAの発現程度(即ち、存在量)を、トレーニング前と比較した結果についてです。細かいことは割愛しますが、特に赤枠で囲んだRNAに変化が見られたということです。そして、トレーニングしたことによって発現量が変化し、その変化が3ヶ月後まで続いているRNAについては、トレーニング効果が子どもに反映される可能性のあることを示唆しています。或いは、トレーニング直後にはあまり変化は見られなかったが、3ヶ月後になってから大きな変化が見られたものもありますが、このRNAの変化も同様に子どもに反映される可能性があるということになります。
要するに、将来にお父さんになる人が事前に持久力トレーニングを行っておくと、おそらく最初から持久力の高い子どもが生まれる可能性のあることを意味しているわけです。
親が優秀なアスリートである場合、その子どもも同様の競技に対する潜在能力が高いことが多いですが、これはDNAによって受け継がれた遺伝が主に考えられますが、それ以外にも、子どもを授かる前から厳しいトレーニングを行うことによってノンコーディングRNAの発現が変化した結果であると考えられます。
女性の場合も同様であって、トレーニング効果が子どもに反映される可能性が高いと考えられます。このような現象は体を使うトレーニングだけではなく、頭を使うトレーニングであっても同様であると考えられます。或いは、何らかの社会的な脳力であっても、芸術的な脳力であっても同様であると考えらますから、特にこれから子どもを授かる可能性のある若い世代の人たちは、ぜひ頑張って頂ければと思います。