ガンマ波を自分で出せないときは外部から与えるのも有効

40Hzを与えると情報処理能力が高まり脳内浄化も進む

 近年「ガンマ波」と呼ばれるものを応用したサービスが着実に広がりつつあります。この記事を書く1年前(2023年4月)には、シオノギヘルスケア社とピクシーダストテクノロジーズ社の共同によって「ガンマ波変調技術」と呼ばれるものが開発され、その後に、テレビの音などに40Hzの変調を加えて出力するスピーカーシステムも発売されました。その後、他のメーカーからも、40Hzに変調した音楽を鳴らす小型の音響装置も販売されるようになりました。そして、街中では、このような装置を用いたBGMを流してお客さんを癒す(認知機能を高める)サービスを提供するお店も現れています。これは非常に良いことだと思います。

 そもそも、このガンマ波の応用研究は、マサチューセッツ工科大学(MIT)によって10年近く前から活発に行われてきているものです。そして2016年のNature誌には、40Hzの周期にて点滅する光刺激を、アルツハイマー型認知症の病態モデルマウスに1日につき1時間当てることによって、脳内に蓄積したアミロイドβが著しく減少した、と報告されたことが世界中の注目を集めることになりました。
 そのような知見が得られたからには、世界中の企業が放っておくはずがありません。40Hz周期で点滅するLEDのランプが何種類も発売され、今でも、そこそこのシェアを得ているようです。そしてまた、IT業界やIT関連技術者も放っておくわけが無く、40Hzで点滅するスマホの画面、およびパソコンの画面を提供するアプリケーションも出回りました。その後、上述のような変調技術をソフトウェアによって実現させた動画が、YouTubeにも多数upされるようになって今に至るわけです。「ガンマ波」、「gamma waves」、或いは「40Hz」などというキーワードにて検索していただければ、色々と出てくるはずです。

 さて、MITを筆頭に、ガンマ波(特に40Hz)と脳の研究は今も進行中です。図(高画質PDFはこちら)の左下にはNature誌に掲載されたMIT研究グループによる最新(2024年2月)の論文中の、ごく一部分を引用させていただきました。これは、アルツハイマーモデルマウスを実験材料とし、刺激無し、8Hz、40Hz、80Hzの刺激(光と音による)を1時間与えた場合の、脳内のアストロサイトに備わっているアクアポリン4の活動状態(分極状態)を捉えた画像、および数値化したグラフです。因みに、アクアポリンは細胞膜に備わっている水の通路の役割を果たしている管状のタンパク質です。これが開くことによって、細胞内外の水分および物質が入れ替わり、例えば脳脊髄液が流入すると共に間質液が流出する、などのような作業が進行することになります。概して言うと、アストロサイトのアクアポリン4は、脳において老廃物を排出する導管の役割を果たしているもので、脳のリンパ系ともいえますから〝glymphatic system〟と呼ばれることがあります。これが活発化することによって、脳内に生じた各種の老廃物が排泄されやすくなります。話を戻しますが、種々の周波数の中でも40Hzの刺激を与えた場合にアクアポリン4が開き、アミロイドβなどの老廃物が一掃されることが確認されました。ひいては、この機序によってアルツハイマー病が改善へと向かうことも期待されるようになりました。
 その他、掲載した図の右下に引用した図に描かれていますように、アミロイドやタウの減少だけでなく、シナプスのリモデリングやDNA損傷の軽減を、もたらすことがヒトのレベルでも確認されるようになりました。

 脳波およびガンマ波について概説しておきますと、図の右上にまとめておいたように、脳波として計測される電位変化のうち、その周波数が最も大きいのがガンマ波です。
 そもそも、1個のニューロンの発火(電気的信号の送信)によって生じる電位変化は極めて微小であるため、個々のニューロンがバラバラに発火していた場合は全体としてまとまった電位変化にならず、脳波としても計測されません。ところが、多くのニューロンの発火が同期すると全体として大きな電位変化となって、頭皮の外側からでも計測することが可能になります。
 そして、ガンマ波が現れるときの脳は、何かに集中して、最も高度な情報処理を活発に行っている時であり、洞察力が最も高まっている時でもあります。脳は本来、自分で作り出したガンマ波によってアクアポリン4を活性化させたり、ニューロンの活動をバックアップしているアストロサイトや、脳内の免疫細胞と言われているミクログリアなどを活性化させることによって、自ら脳内の健全性を保ってくれています。しかし、例えばアルツハイマーを含めた認知症の場合は、ガンマ波が出現する頻度が非常に少ないことが観察されていて、それは個々のニューロンの発火が同期していないからであって、その結果として情報処理能力が低下すると共に、脳内の掃除が出来ていない状況が続くことになります。それが、ひいてはニューロンの死滅につながっていくわけです。
 そのような場合の対策として、体外から40Hzの刺激を光や音や振動によって与えると、それが脳内に伝わり、40Hzによるニューロン発火の同期が促進されて情報理能力が高まり、併せてアストロサイトの活動が活発になって脳内の掃除が進み、ミクログリアの活動も活発になって異物の処理も進む、という具合になります。

 音に限定するならば、40Hzの音は大変低く、例えば一般的なチューニングにおけるベースギターの第4弦を開放して出る音が41.2Hzです。音楽に乗っていればよいのですが、この音だけを聞き続けることは気持ち悪いと言う人も多いことでしょうから、先に述べましたように、一般的な音声を40Hzの周期にて強弱などの変化をつければ、ある程度違和感なく聞けるのではないかと考えられて開発されたのが〝ガンマ波変調し直した音〟です。もし、よろしければ、脳の処理能力向上や認知症予防のためにも試してみられては如何でしょうか。
 なお、アルツハイマー型認知症の根本原因は、以前に投稿しました『認知機能低下は脳の糖尿病…、では対策は?』で述べましたように、血糖値スパイクや高血糖の持続による脳内各種細胞のインスリン抵抗性が発端になっていますので、食事には充分にお気を付けください。それと共に、今回ご紹介しましたガンマ波を有効活用していただければと思います。

 
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