花粉症を抑えるのも酪酸産生菌

花粉症を必要以上に激化させているのは酪酸菌の減少

 花粉症の人にとっては非常に辛い時期になりました。免疫系に一度記憶された〝敵と味方〟の判断基準は、容易には変更されません。該当する花粉が存在しない地域に移り住み、5~10年ほど過ごせば、その免疫記憶はかなり薄れることと思われますが、現実的には引っ越しは無理でしょうから、なんとか症状を緩和する方法を実践していかなければならないことになります。
 スギ花粉の場合、抗原となっているタンパク質はCryj1やCryj2ですので、これらを含有させた製剤をしばらくの間投与して免疫寛容を誘導する方法が考えられます。或いは、これらの抗原に似たアミノ酸配列を持ったタンパク質を含むトマトやトマトジュースを事前に摂取し続ける方法も考えられます。ただし、このような方法は、花粉の季節になってからでは遅いですので、当面、他の方法によって症状を緩和しなければならないことになります。
 特に気になるのは、非常に激しい症状を来している子どもたちが多いことです。学業どころか、鼻詰まりなどで夜に熟睡できないことが、生活の全ての面に悪循環を生み出しています。そのようなお子様のご両親には、特に注意していただきたいことがあります。それは、子どもたちが好きな食べ物の多くは、いわゆるファストフードや菓子類、甘い飲料や乳製品、高度に加工された食品、肉を含めた動物性食品でしょう。それらは即ち、食物繊維がほぼゼロの食品だということです。このようなものを食べることの弊害は、アレルギー反応を促進する方向に働く腸内細菌の割合を増やしてしまうことです。直接的な健康被害もありますが、それ以上に腸内細菌叢に悪影響が出ることになります。
 では、どのよな食餌に変えれば良いのかということですが、それは掲載した図(高画質PDFはこちら)の左端に示したようなもので、種々の植物性オリゴ糖、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維を様々に含む食材を沢山取り入れた食餌です。なかでも、おからやゴボウは特に優れていると考えられますので、沢山与えていただければと思います。
 「子どもたちは、そのようなものを喜んで食べてくれないのです」という声が聞こえてきそうですが、子どもたちの貪欲な本能に任せてしまってはいけません。度々口にしますが、美味しいものを求める食生活が、野生動物には見られない様々な疾患を引き起こしていることを決して忘れてはなりません。まぁ、食事を楽しみたい大人はそれなりに楽しめばよいでしょうが、少なくとも子どもたちを犠牲にすることは避けなければならないでしょう。

 あまり多くを語らずとも、どのような食餌がアレルギーを抑制してくれるのかは、比較的多くの人が理解されていらっしゃることと思いますので、腸内細菌について少し述べておきます。
 掲載した図の下半分は、主な腸内細菌を一覧表にしたものです。これは、私自身も頭の中を整理したくて、このような表を作成することにしました。巷では、「○○菌が○○に良い」などという二次情報ないしは三次情報が氾濫しています。最も酷いのは「善玉菌/悪玉菌/(日和見菌)」です。次に酷いのは「乳酸菌信仰」であったり「ビフィズス菌信仰」であったりします。これらの細菌は酪酸菌と違ってあまり異臭を放ちませんから、食品工業に利用しやすく、多くの商品が開発され、その宣伝によって人々の信仰を得たという構図になっています。そして、何かが信仰されれば、その他のものが軽視されるにようになります。最近でこそ酪酸産生菌(酪酸菌)が採り上げられるようになりましたが、依然としてアレルギー疾患やがんをはじめとした多くの疾患の患者さんでは、酪酸菌の割合が少なくなっています。
 もう一つ述べておきたいと思いますが、Web上にて少し学術的な文章を読めば、細菌の名前が出てきたりします。ビフィドバクテリウムとか、バクテロイデスとか、ラクトバシラスとか…。細菌を分類することは、肉眼で外部形態がわかるライオンやキリンやゾウやサルなどを分類するのと違い、目には見えないものを分類するわけですので、近年では遺伝情報であるDNAやRNAの塩基配列の近似性を調べることによって、どこかで線引きされることになります。そのため、以前はA属、A科、A目、A門に所属させられていた細菌が、その後にB属、B科、B目、B門に移動させられた、ということがしばしば起こります。また、細菌はプラスミドと呼ばれる小さなDNAを交換したり、異種同士が接合してDNAの交換を行うことがありますので、○○属の細菌はこのような特徴を持つ、と言い切ることが非常に難しい状態です。そのため、掲載した表は、その属の細菌の主な特徴として概観していただければと思います。「酪酸産生菌」、「乳酸産生菌」、などというふうに色分けしておきましたので、もし細菌の名前(属名)などを使ってお話しようとされる場合、おおよその目安として使っていただければと思います。
 では、今日の主テーマである花粉症などのアレルギー疾患を出来るだけ抑えるためには、酪酸産生菌の餌となる食べ物を精力的に食べていただければと思うところです。

 
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