近年において増えてきている疾患の一つとして〝ヘバーデン結節〟や〝ブシャール結節〟を挙げることが出来ます。これは、図(高画質PDFはこちら)の左上の写真に示しましたように、指の関節が腫れて変形していくものです。このうち、第1関節に生じたものはヘバーデン結節、第2関節に生じたものはブシャール結節と呼ばれています。
昔は65歳以降の特に女性に多く見られるものでしたが、近年では若齢化してきており、40歳代から進行が始まる例が増えてきています。また、若齢化の傾向は都市部から始まったことも特徴的です。もう、この二つの事実からだけでも、おおよそ何が原因なのかを予測することが出来ます。
兆候としましては、最初は関節の部分が腫れてきます。その後、何か月か経った頃に痛みを伴ってきます。その後、放っておくと関節を介して指が横方向に曲がっていき、左上の写真のような様相になっていきます。一連の過程におきまして、痛みは日常的な動作に支障を来し、変形は不便さや美容上の悩みとなってきます。誰もが、なんとか防ぎたいと思われるところでしょう。
後で結構ですから、「ヘバーデン結節」というキーワードでネット検索してみてください。様々なクリニックから情報提供されていますし、YouTubeでも複数の整形外科医などが動画をupしています。ただ、それで満足できるのであれば、私がこの記事を書く必要性は全くありません。しかし、記事にするということは、満足できないことが多いからです。
「兆候が現れてから整形外科医に掛かればよいのでは…」という考え方につきましては、兆候が現れる前に関節付近で既に障害が進行していますので、完全回復は非常に難しくなります。
「モヤモヤ血管が出来て、痛覚を担う感覚神経も必要以上に伸びているので、それを術的に解決してもらえば痛くなくなる」という考え方につきましては、失われた軟骨や周囲の構造は、なかなか元通りには戻りません。
「更年期でエストロゲンが減っていくことが原因なのであればどうしようもないですね…」という捉え方につきましては、40歳代の閉経前から始まったり、都市部から若齢化が始まったことの説明がつきません。主原因は他のところにあるわけです。
「エストロゲンの減少をエクオールで補えば良いんじゃないですか?」という考え方につきましては、上述の通り、エストロゲンの減少が主原因ではないということです。
「指の使い過ぎが原因なら、出来るだけ使わないようにしたり、テーピングしておけばよいのでは…」という考え方につきましては、軟骨が擦り減るような大きな力が頻繁に指の第1関節に掛かることは殆どありません。主原因は他のところにあるわけです。
「〝根本的な原因は不明だとされています〟って書いてあるから、どうしようもないですね」という悟りは、医療従事者にとっては患者さんが増えるからこそ、このような言い方をされるわけですから、悟ってはいけません。
では、日本では敢えて言わないようにしているのか知れませんが、その根本原因について述べておくことにします。それは、図の下方左寄りのイラストに挙げられていますように、軟骨細胞が死滅していくことが最大の原因です。これは、物理的に軟骨が擦り減っていくのとは全く機序が異なります。
細胞の死滅には、積極的な自滅であるアポトーシスと、外部要因によって壊死してしまうネクローシスに分けることが出来ますが、軟骨細胞の死滅は両者を含めた種々の死滅の仕方があると捉えれば結構でしょう。概して、各種の炎症性サイトカインや、不健全な腸内細菌から放出される起炎物質になどよって、軟骨細胞が健全に生きていく環境が失われてしまうことが死滅の原因だということになります。
具体的に、どのような生活をすることが軟骨細胞の死滅を誘うのかと言えば、それは右側の図に示されたようなものです。即ち、ファストフードに代表されるような、高カロリーなのに必要な栄養素が不足している食餌を多く摂るような不自然な食生活を送ることです。肥満の場合も該当しますが、肥満に見えなくても筋肉が少なくて体脂肪率が高い場合も該当します。
このような食生活を続けていると、特に脂肪細胞から、炎症を進めるための様々なサイトカイン(細胞が相互連絡のために使う物質)が放出され、デリケートかつ修復機会の多い関節部分に先に弊害が現れてきます。
また、そのような食生活をしていると、本来あるべき健全な腸内細菌叢が失われ、炎症性の強い物質(リポ多糖、トリメチルアミンなど)を撒き散らす種類の腸内細菌が増え、これもデリケートな関節部分の炎症を進めることになります。
もう一つ、紫外線を過度に避けることによるビタミンDが不足し、正常な骨代謝に支障を来すようになるため、関節部分の修復が困難になっていきます。
以上が、ヘバーデン結節やブシャール結節の根本的な原因です。これが解りさえすれば、予防することが可能になります。日常生活において上記のような部分がありましたら、すぐにでも改善していただければと思います。
もっと積極的に防ぎたいとか、既に兆候が現れているとか、既に患ってしまって整形外科に通っている、という場合、次のような方法をお勧めします。図の右下に挙げておきましたが、1つは、軟骨細胞が死滅せずに済むように、オートファジー機能を高めるファイトケミカル(クルクミン、レスベラトロールなど)を補給することです。なお、この機序につきましては『膝の痛みや変形性膝関節症に有効なファイトケミカル』で述べていますので、必要に応じてご覧ください。
2つ目は、大豆製品(特に多くの繊維質を含むオカラ)をしっかりと食べ、大豆イソフラボンをエクオールへと変換できる腸内細菌を増やすことです。骨密度もそうですが、軟骨の健全性もエストロゲンの影響を受けますので、エスロゲン受容体に対して少し刺激を与えることのできるエクオールを自ら得るためです。
3つ目は、紫外線を避け過ぎず、キノコや魚などからビタミンD類を補給するようにすることです。どうしても難しい場合は、サプリメントにてビタミンDを摂れば結構でしょう。
その他、一般的な話になりますが、抗炎症薬を適宜利用することは、既に起きている炎症を抑えるために有効です。また、テーピングによって関節部分を物理的に保護したり、軽い圧迫によって血流を少しだけ抑制してやることも、炎症を抑えるために有効です。もちろん、そのような処置をしなくて済むように、日頃の生活習慣には大いに気を配っていただければと思います。