「わかった!」の度に正しい理解ができる新しい脳内ネットワークが形成される=脳が成長している

「わかった!」の度に正しい理解ができる新しい脳内ネットワークが形成される=脳が成長している

 私たちは日々、さまざまな情報に触れながら生きています。人の話を聞いたり、動画を見たり、本書類を読んだり、仕事で新しい知識を扱ったり。しかし、そのすべてが「理解」につながるわけではありません。ただ情報を眺めているだけでは、脳はほとんど変化しません。ところが、ある瞬間だけは違います。それが、「わかった!」という感覚が訪れたときです。
 「わかった!」という一瞬に、脳の中では驚くほど大きな変化が起こっています。そしてその変化こそが、脳の成長そのものなのです。今日は、「わかった!」という時に、脳の中で何が起きているのかを図表(高画質PDFはこちら)で示すと共に、この本文では難しい専門用語を使わずに紹介することにします。

 結論的に言いますと、「わかった!」とは、脳内でバラバラに存在していた情報が一気につながった瞬間を意味しています。少し詳しく見ていくならば、次のようになります。脳は普段、膨大な情報を断片として保存しています。それは、過去の経験、知識、感情、見たもの、聞いたこと、などです。そして、それらは普段は別々の場所に保管されていて、必要なときだけ取り出される仕組みになっています。しかし、ある問題に向き合っているとき、脳はその断片を同時に呼び出し、「この情報とこの情報は関係があるのでは?」と、静かに組み合わせを試し始めます。この段階では、まだ答えは見えていません。ただ、脳の中で“材料”が集まり始めている状態です。

 そして、「わかった!」という状況が訪れる前には、脳の中ではある特徴的な現象が起こります。それは、脳の複数の領域が同じリズムで活動し始める、ということです。たとえば、前頭前野(考える領域)、側頭葉(意味を扱う領域)、頭頂葉(構造や関係性を扱う領域)、海馬(記憶を扱う領域)、帯状皮質(注意を制御する領域)、などです。そして、これらが一斉に〝同期〟し、まるでオーケストラが同じテンポで演奏を始めるように、脳全体がひとつの目的に向かって動き出します。
 この同期がピークに達した瞬間、それまでバラバラであった情報が一気につながり、「わかった!」という感覚が生まれることになります。

 次のようなことも言えます。それは、「わかった!」は、脳のネットワークが〝書き換わる瞬間〟だということです。即ち、「わかった!」という瞬間は、脳はただ理解しただけではなくて、脳のネットワークそのものが再編成されたということになります。
 つまり、新しい情報の〝つながり方〟が生まれる、以前の理解が更新される、より効率的な回路が形成される、という変化が、ほんの数百ミリ秒〜数秒の間に起こるということです。
 これは、脳科学でいう〝機能的再編成(functional reconfiguration)〟と呼ばれる現象で、脳が〝新しい理解の形〟に合わせて回路の使い方を変えた状態だということになります。
 もちろん、この短時間の間には、脳のネットワークの物理的な構造は、まだ変わっていません。しかし、「わかった」後には脳の〝使い方〟が変わるわけですから、新しい〝理解〟に最適化された新しいネットワークが生まれることになります。

 「わかった!(理解)」の瞬間に起こるのはニューロンのネットワークの(シナプスの)機能的な変化ですが、その後、脳はゆっくりと構造的な変化を始めます。例えば、数分〜数時間後にはシナプスの効力が強化されます。数時間〜数日後には神経細胞のスパイン(棘状構造)が増えます。数日〜数週間後には、ネットワークの構造が再編成されます。
 言い換えるならば、「わかった!」は脳のネットワーク変化のスイッチ、「忘れない」という現象は脳のネットワークの構造変化だと言うことができ、脳はこの二段階で成長していくことになるわけです。

 ここまでの話から次のことが言えるわけです。それは、頭が良い人というのは、知識が多い人をいうのではないということです。即ち、頭が良い人というのは、疑問を持つ、問いかける、思考を繰り返す、「わかった!」を経験する、そして、このサイクルをより多く回している人だということです。そのような人こそ、脳が最も効率よく成長している人だということになるわけです。
 知識を詰め込むだけでは、脳はほとんど変わりません。しかし、疑問を持ち、問いかけ、理解に到達した瞬間、脳は確実に新しいネットワークを作り始めるわけです。

 だからこそ、疑問を持つことが、人生を変えるのです。どんな小さな疑問でも構いません。なぜこうなるのか、どうしてそう感じるのか、本当にそうなのか、もっと良い方法はないのか、…こうした問いが、あなたの脳を更に上のステージへと押し上げることになります。そして、その先にある「わかった!」の瞬間が、あなたの脳を確実に成長させていくのです。

 今日の結論をもっと短く表現するならば、知識を詰め込むのではなく、より多く疑問を持つ、より多く問いかける、「わかった!」を増やす、ということです。そして、それだけで、あなたの脳はどんどん成長していくということになるわけです。

 
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執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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