今回の記事は、先にupしました『真の熱中症対策は、発熱し難い体を作ることである』の続きになります。そして、どちらも熱中症対策としての基本中の基本になることです。
「こまめに水分補給をしましょう」というフレーズを流行らせたのは一体誰なのでしょうか…?全国民がこのフレーズを信用すれば、飲料を製造販売する企業の売り上げは増加するはずです。その前の時代では「1日に○リットル以上の水を飲みましょう」というフレーズが流行りましたが、これによって天然水や浄水器を製造販売する企業の売り上げは増加したはずです。人を疑うことを美徳としない日本人を相手にする場合、この手の洗脳作戦が功を奏することが多くなります。
日本列島が、かつて無かったほどの高気温に見舞われる機会が増えましたが、お山に棲むお猿さんは、一体どうしているのでしょうか…?こまめに水分補給をしているのでしょうか? 実際のところ、うちの近所の森に棲むお猿さんは、森の中には川がありませんので、頻繁に水を飲むことは不可能です。或いは、前記事にて触れましたように、砂漠に住む人々は移動するときに小さな水筒のようなものを携帯するかもしれませんが、頻繁に水分補給する必要が無い体ですので、こまめな水分補給はしません。或いは、私たちの親や祖父母の時代はどうだったでしょうか?典型例は、スポーツのシーンで「練習中は水を飲むな。そんなことをしたら体が怠くなって練習できなくなる」という指導が行き渡っており、喉が渇いても我慢したものです。現代よりも気温や室温は低かったとはいえ、そのせいで熱中症に罹ったことは殆どありませんでした。
ところが…です。「こまめに水分補給をしましょう」というフレーズが行き渡った最近では、気温が30℃にも達していないのに熱中症で倒れる子どもたちや大人たちが現れるようになりました。「まだ足りないのだ。もっとこまめに多くの水分を摂らないからいけないのだ」と追い打ちをかけられる始末です。生命の仕組みを一から勉強してもらわないと、このままでは犠牲者が増える一方です。また、マスメディアはスポーンサーの言いなりになって、「こまめな水分補給」を後押ししてはいけません。なにしろ、人の命がかかっているのですから…。
「水分」という語から人は何を連想するのかというと、先ずは、掲載した図(高画質PDFはこちら)の3種類のグラフを見ていただきたいと思います。そのうち、左下のグラフは、平均年齢が50.4歳となる計3千人超の人が調査対象になっているものなのですが、「熱中症対策の水分補給のために飲んでいるもの」を答えてもらった結果です。最も多かったのは「水」で70.0%でした。2位はスポーツドリンクでしたが、3位はほぼ同率で「お茶」で38%でした(複数回答式)。即ち、この人たちは熱中症対策として、塩分が含まれていない「水」や「お茶」を飲むということです。
次に、右上の図を見ていただくことにしましょう。これは、15歳以上の200名が調査対象になっているものですが、「熱中症予防のために飲んでいるものは何ですか?」という質問に対し、最も多かったのは「水」です。2位は「スポーツドリンク」ですが、3位は「お茶」でした。即ち、この調査結果においても、熱中症予防のために「水」や「お茶」を選んでいる人が過半数を占めていることが判ります。
次に、右下の図を見ていただきたいと思います。これは、子どもをもつ親御さん550名を調査対象にしたもので、「水筒(または保冷水筒)に入れてお子様に持参させている、または持参させたい飲み物はなんですか?」という質問に対する回答ですが、最も多かったのは「お茶類」で、2位は「水」でした。
結局、どのような年代においても、熱中症対策として言われている「水分」として、「水」や「お茶」を選んでいる人が圧倒的多数だということになります。
では、昔(例えば50年以上前)はどのような状況であったかというと、図の左上に示しましたように、水分としては「味噌汁」「甘酒」「緑茶」が殆どであって、少なくとも「水」を頻繁に飲む習慣はありませんでした。すると、どのような体になるかと言いますと、体内の水を大切なものだとしてしっかりと保持する能力が高まるわけです。上述の砂漠に住む人たちもそうです。本来、砂漠は水が豊富にある環境ではありませんから、いったん体内に入れた水は大切に保持する能力が必須になるわけです。
一方、現代はどうかと言いますと、多くの人はこまめに水分補給しますから、次々と入ってくる余分な水を排泄しながら体液量や電解質濃度(塩分濃度)を一定に保たなければなりません。この場合、水だけが排泄されれば良いのですが、どうしても塩分も一緒に排泄されてしまうわけです。…ということは、「水」や「お茶」をこまめに飲むと、飲めば飲むほど体内の電解質も多く失われてしまうわけであり、電解質濃度が低下し過ぎないように多めに水を排泄してしまうことになるわけです。
併せて、時代が進むほど、塩分豊富な味噌汁の摂取量は少なくなり、他の原因で高血圧になっている場合にも塩分制限をしているケースもあります。結局、「塩分は入ってこず、出るばかり」という時代になってしまったわけです。
この場合、〝低張性脱水〟による熱中症が生じないほうが不思議だということになります。このタイプの熱中症は、全身の倦怠感、吐き気、眠気、手足の冷えや震え、脈拍が弱くなるなどの兆候が現れます。自分で熱中症だと思い、手持ちの「水」や「お茶」を追加補給すると、容易に重症化して危険な状況に陥ります。
以上のように、マスメディアに流される情報は、スポンサー受けの良いものが選ばれると共に、言葉の流行というものに乗って、新人のアナウンサーも先輩アナウンサーの真似をして「こまめに水分補給をしてください!!」と、得意がってしゃべるものです。この短いフレーズでは、正しいことが伝わらないばかりか、誤解を生んで熱中症を増やすことになってしまっているわけです。
本来補給すべきものは、その人の体質、事前に摂った食事の内容、発汗の仕方や発汗量によって大きく異なってきます。一般的には、急激かつ多量の発汗をする場合には、汗腺の導管部における塩分の再吸収が間に合いませんので、汗による塩分(電解質)喪失量も多量になります。そのような場合、発汗した分だけ、出来るだけ信頼性の高いスポーツドリンクを選んで補給してください。
更に、あまりにも発汗が激しくて脱水気味になっている場合は、素早く電解質と水を補給するために、経口補水液をご利用ください。なお、経口補水液が手元に無い場合は、水1Lに食塩(できれば粗塩)を3グラム、砂糖(できれば黒砂糖)を20~40グラム(砂糖はこの範囲内で好みによって調整してもよい)を投入すれば、適切な浸透圧の経口補水液になります。また、手元に塩化マグネシウムがあれば、それもぜひ少量(食塩の1/10程度)添加してください。繰り返しますが、このタイプの熱中症では、間違っても「水」や「お茶」などの、塩分を含まない水分の補給は絶対に行わないでください。それをすると、症状が悪化して危険な状態になります。