リンの過剰摂取も生活習慣病の大きな原因である

リンの過剰摂取も生活習慣病の大きな原因である

 何気なく食べているものが生活習慣病の大きな原因になっています。今回、テーマとして採り上げるのはリンの過剰摂取です。「普通にスーパーで買い物をして、出来るだけ健康に良さそうなものを選んでいるつもりなのですが…」ということなのですが、これは現代の食品産業がもたらしている大きな問題です。
 例えば、食べやすいサイズに切断してパッケージに詰められている野菜は、切断したために切り口から酸化を含めた劣化が始まり、出荷から店舗、店舗から家庭に届くまでに茶色く変質してしまいます。これでは消費者の皆様からクレームが来るでしょうから、加工する工場にて洗浄時または切断後に、野菜の切り口付近のpH調整、変色防止、鮮度維持のためにリン酸塩系の食品添加物を配合した溶液にて処理されることがあります。法的には食品添加物ですから使用すること自体に問題があるわけではありませんし、リンそのものは人体にとって必須元素でもありますから、これだけで大きな問題になることは無いと言えるでしょう。
 しかし、新鮮に見える野菜でさえリンが余分に含まれている状態です。他の食品はどうでしょうか…? 掲載しました図(高画質PDFはこちら)の中央付近に、「リンが主体の食品添加物」の表を挙げておきました。そして、左の欄にはリン酸塩の種類、右の欄には添加されている食品の例が示されています。ざっと目を通して頂きたいと思います。上から見ていくと、パン生地、酵母発酵パン、シリアル、コムギ粉、離乳食、乳飲料、ヨーグルト、というように並んでいます。その下の欄もご覧になってください。肉類、魚類、卵、なども目に入ると思います。要するに、産地直送の無加工品でない限り、お客様の手に届くまでに劣化しないように各種のリン酸塩が使われているということです。そして、丁寧に加工されたものほど、美味しそうな色になるようにとか、弾力性を良くするためであるとか、お客様に喜んでもらうための食品添加物の種類が増える、ということになります。
 少しずつであっても、スーパーの食品売り場にて買ってきた種々の食材を使って料理を作ると、そのものに元から含まれているリンに、食品添加物からのリンが加算されることになりますので、リンの摂取量は何倍にも跳ね上がることになります。このことが、大問題を引き起こすことになるわけです。
 もう一つ重要な視点は、リンとカルシウムの比率です。私たちのような地球上の脊椎動物は、リン酸カルシウム(構造的にはヒドロキシアパタイト)を骨の主成分として使っていますので、リンとカルシウムの濃度調節が連動していることです。腸管から吸収するときも、骨に保存するときも、骨から溶出させる時も、腎臓から排泄するときも、共通のホルモンにて調節されています。また、食べる食材についても、天然の植物や動物や菌類などの生き物を頂くわけですから、その個体全体に含まれているリンとカルシウムの比率はほぼ一定です。では、鶏や牛の肉だけを選んで頂くとすると、どのような比率になるでしょうか…?結論を言いますと、それらの肉には、リンの含有量に較べるとカルシウムの含有量は無いに等しい量だということになります。掲載した図の右上に、両者の比率(リン/カルシウム)の計算値を掲載しておきましたが、例えば鶏のささ身では、カルシウムに対してリンが73.33倍多い(質量換算)ということです。
 更に、高級そうなお店に行って美味しい肉類を戴くと、その肉には多くのリン酸塩が施されていますから、すごく美味しいわけです。それを、大抵の人は喜んで食べることになります。

 その結果、どのようなことが起こるのかと言いますと、図の左側にまとめておいたのですが、ここにも書いておきます。先ずは、血中に増加したリンを腎臓から排泄するために、副甲状腺ホルモン(パラトルモン、PTH)の分泌が亢進します。しかし、PTHが担っている最大の役割は、カルシウムの血中濃度を高めることですので、骨の主成分であるリン酸カルシウムを骨から溶出させてカルシウムの血中濃度を高めようとします。その結果、骨密度の低下が起こります。そして、骨から溶出してきたカルシウムとリンは、その時点では不必要な増加となりますから、両者が結合してリン酸カルシウムを形成することになり、いわゆる異所石灰化、動脈硬化のうちの中膜硬化が進むことになります。また、PTHは腸管からのカルシウムの吸収だけでなく、リンの吸収も促進しますので、高リン状態が継続することになります。このリンの過剰摂取に加えてカルシウム摂取不足が重なると、PTHの分泌が更に亢進し、上記の現象が強く起こることになって、骨粗しょう症や、心血管疾患へと進行することになります。また、腎臓におけるリンの排泄能力は老化によって低下する傾向にありますし、既に腎不全を患っている場合は、リンの排泄能力が更に低下することになります。リンは、体内ではリン酸イオンとして存在していて、高濃度になると活性酸素種の発生を増やしますので、炎症や早期の細胞死が引き起こされ、それらを処理するマクロファージの過剰な侵入、及び、内皮細胞の機能が障害され、アテローム性動脈硬化をも引き起こすことになります。また、過剰のリン酸イオンは、血管内皮細胞による一酸化窒素(NO)の産生量を低下させますので、血管拡張反応が抑制されて、血流が低下し、特に腎虚血によって腎不全を患うことになります。その場合、活性型ビタミンDへの変換が出来なくなりますから、低カルシウム血症となり、PTHの分泌量も最高潮となり、血中リン濃度は限界をはるかに超えていくことになり、悪循環の極みとなります。この段階まで来れば、医療現場では、もうどうすることもできません。非常に怖いことになります。

 以上のように、リン自体は必須元素ですから無くてはならないものです。しかし、現代において普通に供給されている食品はリン過剰ですので、これを継続摂取していると、命が幾つあっても足りない状態に陥ってしまいます。くれぐれも、ご注意ください。

 
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