全国的にインフルエンザが流行してきたようです。そしてニュースでは、相変わらず的外れな対策が発信されています。その情報源の殆どは、取材に応じた医師の発言であると思われます。
それにしても、テレビや新聞の取材に答える医師は、なぜ学習できていないのでしょう…。新型コロナの時もそうでしたが、本業が忙しくて学習している余裕が無いのが実情でしょう。そもそも、臨床現場で働いている医師は治療に当たる人なのであって、予防を促す人でないことを、メディアの人はしっかりと理解しておくべきです。
県の担当者もそうです。治療家である医師に予防法を聞くのではなく、自分たちで学術情報を調べてしっかりと検証し、間違いのないことを確認してから指示を行ってください。行政による情報発信は、子どもから高齢者まで多くの人が影響を受けますから、まさに責任重大です。
掲載しました図(高画質PDFはこちら)の左半分に、マスメディアによる報道の例を3つ示しておきましたが、どこを見てもこういうものばかりです。なかでも、例えば「うがい」につきましては、もう何年も前からWHOや厚生労働省でさえも、インフルエンザの感染予防法としては効果が無いことを認めていますが、県の職員はそれさえも見逃してしまっているわけです。非常に残念です。そして今日は、赤色のアンダーラインを入れた、もう一つの「(こまめな)手洗い」について見てみることにします。
掲載しました図の右半分に結論をまとめておきましたが、後で見て頂ければ結構です。私たちの皮膚には、外来の微生物やウイルスを体内に入れないための、膨大な種類の防御システムが備わっています。そのうちの一つが、インフルエンザなどのRNAウイルスを死滅させる仕組みです。その仕組みにも多くの種類がありますが、今日は〝リボヌクレアーゼ〟について見ていくことにします。
リボヌクレアーゼとは、RNAを分解する酵素です。〝RNase(RNアーゼ、RNエース)〟とも呼ばれています。これの量が増える時というのは、皮膚上に多くの細菌が付着している時です。それらの細菌からは、各種の代謝産物が排出されて、脂溶性の高い物質ほど角質層を容易に透過して、下層に在るケラチノサイト(角化細胞)にまで到達します。そして、ケラチノサイトの細胞膜に在る受容体にて受け取られ、リボヌクレアーゼの産生量が増やされる仕組みになっています。また、そのような代謝産物によって皮下の免疫系細胞も刺激を受けて各種のサイトカインを放出しますが、そのサイトカインによってもリボヌクレアーゼの産生量が増やされる仕組みになっています。
ケラチノサイトによって産生されたリボヌクレアーゼは、皮脂や汗の分泌と共に皮膚表面にも送られ、皮膚表面に付着した外来RNAを分解することになります。インフルエンザウイルスの遺伝子はRNAですので、その遺伝子は瞬時に分解されてしまうことになります。コロナウイルスなど、他のRNAウイルスも同様です。
平均的には、手に付いたインフルエンザウイルスは、最長でも5分間しか生きられないことが確認されています。これは平均ですから、リボヌクレアーゼが豊富な手の平でしたら、付着したらすぐに分解されることになります。なお、金属やプラスチックの表面であれば、冬場の低温と乾燥条件でしたら1~2日間は生き残るようです。
では、手洗いをするとどうなるでしょうか…? 手の平にも送られて待機しているリボヌクレアーゼが洗い流されてしまいます。また、洗剤を使ったり、アルコールで消毒すれば、その瞬間にリボヌクレアーゼは失活してしまいます。従いまして、その後に手の平に付着したインフルエンザウイルスは、リボヌクレアーゼによる分解から逃れてしまいます。
「でも、消毒によってインフルエンザウイルスは死ぬから、それでいいんじゃないですか?」
という質問に対しましては、「では、あなたは手を洗った後は、その手を無菌手袋(無ウイルス手袋)で覆っておきますか? それとも、無ウイルス室で過ごしますか?」となり、結局、「いや、それは無理です」となるわけです。
手を洗うことの弊害は他にもあります。リボヌクレアーゼの産生を促してくれている細菌が減ることです。念入りにアルコールで消毒すれば、手の平に居る細菌が激減して、リボヌクレアーゼの産生量は更に減ります。逆に言えば、手を洗わないため手の平に多くの細菌を宿している人ほど、手の平に多量のリボヌクレアーゼが保持されているのです。
手を洗うことの弊害は更にあります。手を洗うと手の温度が低下しますが、その低温はインフルエンザウイルスの生存率を高めることになります。また、皮脂が洗い流されて手が乾燥気味になりますが、その乾燥もインフルエンザウイルスの生存率を高めることになります。あなたは、それでも、こまめに手を洗いますか?
周囲を見渡すと、手を洗わない人の方がインフルエンザを含めた風邪を引き難い、という法則が当てはまることが多いと思われます。私たちの体は、余程の凶悪なウイルスや細菌が登場しない限り、負けることの無いように進化してきました。もちろん、RNAウイルスは非常に変異しやすいのですが、そのようなレベルの変異であれば、良かれと思って余計なことをしなければ、普通に防げるレベルのウイルスです。
なお、日頃におけるインフルエンザ予防法としましては、以前にupしました『海外で注目を浴びる緑茶の圧倒的な抗ウイルス作用』、『気道から感染するのに血中にワクチン入れてどうするつもり?』『〝免疫力〟って何? 高めればよい?』などをご覧ください。