花粉症は皮膚の病気でもある ─ スギ花粉の Cry j1 は皮膚からも侵入する

スギ花粉の Cry j1 は皮膚からも侵入する

 花粉症に関する記事は、これが3件目になり、これまでに『花粉症を抑えるのも酪酸産生菌』、および『花粉症対策にはメチル化カテキンを含む茶が良い』をupしています。そこで、今回は花粉症と“皮膚”との関係について紹介していくことにします。

 花粉症というと、鼻や目の粘膜で起こるアレルギー反応を思い浮かべる方が多いと思います。しかし近年、皮膚科学と免疫学の両面から、「花粉症は皮膚の病気でもある」という認識が強まりつつあります。
 特にスギ花粉の主要アレルゲンである Cry j1 は、特に皮膚のバリア機能が弱っている場合、角質層を通過して表皮内へ侵入し、樹状細胞に取り込まれることが分かってきました。これは、鼻や目に到達する前に、皮膚でアレルギー反応が“始まってしまう” ことを意味します。

◆Cry j1 はどのように皮膚へ侵入するのか
 先ず、Cry j1 がどのようにして皮膚内へ侵入するのかについて見ていくことにします。スギ花粉の直径は約30µmで、角質層の細胞間隙(数十 nm)に比べると桁違いに大きいですので、侵入することは物理的に不可能です。しかし、花粉が汗や皮脂で湿ると花粉粒が破裂し、内部に含まれていた Cry j1 や Cry j2 といった、アレルゲン(アレルギーの原因となる)タンパク質が皮膚の表面に拡散します。これらのタンパク質は数nmという、いわば分子レベルの大きさですので、不健全になった角質層の隙間であれば、そこを通過することが可能になります。さらに厄介なのは、スギ花粉にはプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が含まれていて、これが角質層の脂質(セラミド)を破壊し、バリア機能を低下させてしまうことです。

◆皮膚バリアの3本柱が破綻すると、Cry j1 が侵入しやすくなる
 では、角質層がどのような状態になるとCry j1 の侵入を許してしまうのか…ということについてですが、角質層においてバリア機能を担っている要素として次のような3つを挙げることができます。
 1つ目は、セラミド(脂質バリア)です。これは、角質層の細胞同士をつなぐ“セメント”のような役割を果たしている脂質で、バリア機能の中心的な存在です。そのため、セラミドが不足すると角質細胞の間に隙間が生じ、Cry j1 のような微小なタンパク質が侵入しやすくなるということです。
 2つ目は、角質層(物理バリア)そのものです。角質層は、例えるならば「レンガ(角質細胞)+セメント(セラミド)」の構造をしています。そして、洗いすぎ、乾燥、加齢などによってセラミドが減少すると、この構造が崩れて間隙が広がります。すると、さらに、花粉由来のプロテアーゼによる破壊も受けやすくなるわけです。
 3つ目は、タイトジャンクション(細胞間の密閉構造)です。その構造のイメージは、添付しました画像の中央下部をご覧ください(高画質PDFはこちら)。これは、角質層の直ぐ下にある顆粒層(かりゅうそう)の細胞同士を密着させ、物質の透過を制限する構造のことです。言い換えるならば、角質層の下に位置する“第二のバリア”だと言うことができます。ここが破壊されると、Cry j1 は表皮深部へ到達し、免疫細胞に触れるようになるわけです。

◆皮膚に存在する3種類の樹状細胞と Cry j1 の関係
 次に、皮膚に存在する3種類の樹状細胞と Cry j1 の関係を整理しておくことにしましょう。添付しました画像の右端の図に、何本もの手を伸ばしたような大きな細胞が描かれていますが、これらが「樹状細胞」と呼ばれているものです。そして、Cry j1 が皮膚から侵入した場合、これらの細胞が“最初の受け皿”となるわけです。
 1種類目は、ランゲルハンス細胞です。これは、表皮に常在する樹状細胞で、Cry j1 を最も早く取り込む細胞です。そして、取り込んだ Cry j1 をリンパ節へ運び、Th2 細胞を活性化し、IgE 産生を促す役割を担います。
 2種類目は、炎症性樹状表皮細胞で、炎症時に表皮へ流入するものです。アトピー性皮膚炎や炎症状態では、単球由来の樹状細胞が表皮へ流入し、Cry j1 を積極的に取り込みます。炎症があると花粉症が悪化しやすい理由の一つです。
 3種類目は、真皮樹状細胞です。表皮より深い層に存在し、Cry j1 が深部へ到達した際に捕捉します。近年では cDC1、cDC2 など複数のサブセットに細分化されていますが、本記事では分かりやすさのため「真皮樹状細胞」としてまとめています。

◆Cry j1 が IgE を増やすまでの流れ
 それでは、Cry j1 が IgE を増やすまでの流れを見てみることにしましょう。Cry j1 が皮膚から侵入すると、次のような流れでアレルギー反応が進みます。即ち、Cry j1 が角質層を通過 → 樹状細胞(LC、炎症性DC、真皮DC)が Cry j1 を取り込む → 樹状細胞がリンパ節へ移動 → Th2 細胞が活性化 → B細胞が IgE を大量産生 → 全身の花粉症症状が悪化、という流れになります。
 このことは、鼻や目に到達する前に、皮膚でアレルギーのスイッチが入っている、ということになるわけです。言い換えるならば、花粉症の季節が始まると、他の人よりも早く、強く症状が出る人というのは、皮膚のバリア機能が弱っている可能性が高い、ということになるわけです。

◆なぜ現代人は皮膚バリアが弱くなったのか
 昔に比べ、花粉症の人の割合が非常に多く

なった理由は複数存在するわけですが、皮膚のバリア機能に限って言うならば次のような理由を挙げることができます。それは、洗浄剤の使いすぎ、熱いシャワー、乾燥や加齢によるセラミド減少、慢性的ストレス(コルチゾールによるバリア回復遅延)、加工食品中心の食生活(酪酸産生菌の減少)などです。これらが複合的に作用し、Cry j1 の侵入を許しやすい皮膚環境が作られているのだと考えられます。

◆Cry j1 の侵入を防ぐためにできること
 花粉症の症状が特に酷い人は、皮膚からのCry j1 の侵入の影響を疑う必要があると考えられます。そのためには、次のような対策が有効となりますので、取り入れてみてください。
 1つ目は、セラミドを補うことです。これは、ヒト型セラミド配合の保湿剤を、鼻の周りや目の周りを含め、バリア機能を損なっていそうな部位の皮膚に塗ることです。なお、ヒト型セラミド(セラミドEOP、NP、APなど)を配合した製品は市販でも多く販売されています。なお、例として、松山油脂の「肌をうるおす保湿浸透水」、セザンヌの「スキンコンディショナー高保湿」、無印良品の「敏感肌用化粧水・高保湿」などがあります(特定の商品を推奨する意図ではなく、成分表記を確認する際の参考として挙げています)。
 2つ目は、角質層を壊さない生活をすることです。即ち、洗いすぎを避け、摩擦を減らし、熱いシャワーを控えることです。
 3つ目は、タイトジャンクションを守る栄養素を補給することです。それは即ち、ビタミンD、オメガ3脂肪酸、酪酸酸性菌を増やすための食物繊維です。

◆まとめ
 花粉症は“鼻の病気”というだけでなく、“皮膚の病気でもある” という視点は、まだ一般には広く知られていません。しかし、Cry j1 が皮膚から侵入し、樹状細胞が IgE を増やすというメカニズムを理解すると、皮膚バリアを整えることが花粉症対策として極めて重要であることが分かります。皮膚を守ることは、花粉症の根本的な悪化を防ぐための第一歩でもあります。そしてこれは、薬に頼りきりになる前に、誰でも今日から始められる対策でもあります。

 
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執筆者
清水隆文

( stnv基礎医学研究室,当サイトの keymaster )
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