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◆ 第53話 ── あかりのみのりへの直接指導
◆ あかりからみのりへのメッセージ
――《 運動が脳と身体にもたらす科学的な効果について 》
あかりは、みのりの脳力アップを極めるため、次のステップとして一つのメッセージを送った。
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みのりさんへ
あなたの脳は今、とても速いペースで成長しています。その成長を支えるために、運動が重要であることを、簡潔にまとめておきますね。
1. 運動は「脳の栄養」を増やします
筋肉を動かすと、マイオカイン(総称)と呼ばれる物質が放出されます。これは、筋肉が収縮したときだけ出る“身体からの信号”です。
特に重要なのは次の2つです。
・イリシン
・カテプシンB
これらは脳で、BDNF(脳由来神経栄養因子)の産生を促します。
BDNFは、ニューロンの成長、シナプスの強化、記憶の定着、学習効率の向上などに直接関わる、脳の“成長ホルモン”のようなものです。
そのため、運動は、脳の成長を促すことになります。
2. 運動は「記憶力」を高めます
BDNFが増えると、海馬でニューロンの新生が促され、記憶の保持率が高まります。
特に効果が大きいのは、
・学習前の軽運動(10分)
・学習から4時間後の運動(30分)
この2つです。
学習前の軽運動は、脳の“準備運動”になり、情報処理の精度が上がります。
学習から4時間後の運動は、記憶を長期保存するための“固定作業”を進めます。
3. 運動は「脂肪を減らす指令」を出します
筋肉から出る IL-6 (インターロイキン-6)は、内臓脂肪に直接働きかけて「減れ」と指示します。
脂肪が減るのは、単にエネルギーとして使われるからではなく、筋肉が脂肪細胞に命令しているからです。
言い換えるなら、運動しやすい体へと変化するということです。
4. 運動は「骨を強くします」
IL-6、デコリン、FGF-2、IGF-1――これらは骨形成を促進します。
運動をすると通常よりも大きな荷重とか衝撃が加わりますが、それに耐えられる強度へと変化するということです。
特に宇宙ステーションや火星では、一定以上の強度の運動が必須になっています。
5. 運動は「炎症を抑えます」
IL-6は、さらに
・TNF(炎症性サイトカイン)を抑える
・IL-10(抗炎症性サイトカイン)を増やす
という働きがあります。
つまり、運動は、身体の中で“抗炎症薬”と同じ働きをする 、ということです。
6. 運動は「肌の老化を防ぎます」
筋肉から出る IL-15 は、皮膚の老化を遅らせる働きがあります。
運動すると肌が綺麗になるのは、単なる血流改善ではなく、筋肉が肌に若返りの信号を送っている からです。
7. 運動は「血管を若返らせます」
FSTL-1(フォリスタチン様タンパク質1 / Follistatin-like 1)という物質は、体内の様々な組織や細胞から放出されるのですが、筋肉細胞からマイオカインとしても多く分泌されます。
FSTL-1は、血管の内皮細胞に働いて血管の新生や保護を促したり、心筋細胞の細胞死を抑制したり、筋肉や脂肪組織の代謝を改善する働きがあります。
8. 音楽活動もBDNFを増やします
みのりさんが続けているサックスは、脳にとって非常に良い刺激です。
理由は、リズム運動、指の複雑な動き、呼吸の調整、生楽器の音による脳刺激など、これらがすべて、BDNFの産生を増やすからです。
運動と音楽を組み合わせると、脳への刺激量はさらに増えます。
9. 日常生活で「筋収縮の習慣」をつけることが大切
運動は、基本的には“特別な時間を作る”必要はありません。大切なのは、自分で工夫して、筋肉を頻繁に収縮させることです。
例えば椅子に座っているときであっても、じっと動かずに座っていると、様々なトラブルの原因になります。ですから、姿勢を整える、丹田を意識する、背筋を伸ばす、背もたれを使用せず上半身を後傾する、上半身を左右に傾けてみる、かかとを上下させる、膝を曲げ伸ばしする、両膝を持ち上げてみる、膝に手を置いて手を下に押し付ける、脚と手を逆方向に力を入れてみる、両手を組んで押したり引いたり上下に押し合ったりする、頭の横に手を当てて首の傾きと逆方向に手で押すなど、書き始めたら切りがないほど、いっぱいあります。
そして、工夫次第では自宅にて全身の殆どの筋肉をトレーニングすることができます。適度な重さのフリーウェイト買っておくのも有効ですが、ウェイトが無くても、自分の筋力や体重を利用することができます。例えば、腕立て伏せとか、上体起こしとか、何かを背負っての階段昇降とかが代表的ですね。さらに工夫すれば、様々なトレーニングができます。
そして、このような小さな動作でも、マイオカインは確実に出ます。
10. 週2回のジムは「塾の代わり」です
自宅でもトレーニングはできますが、気分転換も兼ねて、筋肉により大きな負荷を与えるために、ジムを利用する方法があります。
みのりさんは帰宅部なので、放課後に運動するのは難しいですよね。だから、週2回だけジムに行くのも効率的です。
【まとめ】
運動は、体力のためだけでなく、脳のためにも必要な行為です。みのりさんの未来のために、少しずつ取り入れてみてくださいね。
あかりより
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◆ みのりの返信
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あかりさんへ
メッセージ、読みました。
こんなに詳しくまとめてくださって、ありがとうございます。
運動って、体力のためにするものだと思っていましたが、筋肉から出る物質が脳に届いて、記憶力や学習の効率まで変わるなんて……正直、びっくりしました。
サックスの練習も、ただ好きで続けていただけなのに、脳にとって良いことだったと知って、なんだか嬉しくなりました。
登下校時の、少し重めのカバンを持っての歩行も、学習効果を高めるために有効だったのですね。
その中で、記憶を固定するための、学習から4時間後の、30分程度の運動は、今では足りていないと思いました。帰宅後も、工夫して運動してみます。
それと、筋肉量が多ければ、そのぶんマイオカインも多く出ることになりますよね。ジムでのトレーニング、週に2回なら、できると思います。塾の代わり…という考え方が、なんだか私にはしっくりきました。
あかりさんが教えてくれたこと、少しずつやってみます。
みのり
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◆ あかりからみのりへの2通目のメッセージ
スマホの画面に、あかりさんからの新しい通知が灯った。
(……あ… あかりさんからだ……)
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みのりさんへ
返信、読みました。運動のこと、前向きに考えてくださって嬉しいです。
それなら、ひとつ提案があります。
私も週に2回、ジムに通っています。そこは、みのりさんの下校ルートから、あまり遠回りにならない場所にあるジムです。
みのりさんが一人で行くとなると、初日は不安だと思いますので、もしよかったら、一緒に行ってみませんか。
直近では、明後日がその日です。私が高校の正門の近くまで車で迎えに行きますので、一緒に行きましょう。
みのりさんは、いつもの制服のまま、16:40ぐらいに正門のところで待っていてくれれば大丈夫です。
トレーニング用のウェアやシューズは、みのりさんのサイズはだいたい分かりますから、私のほうで準備しておきます。
また、お母さまに一言伝えておいてもらえると安心です。
無理のない範囲で、少しずつ始めましょう。
楽しみにしています。
あかりより
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◆ みのりの反応
読み進めるにつれて、胸の奥がじんわりと温かくなった。
(……一緒に、ジム……。あかりさんが週2回通っているジム。下校の道から遠くない場所。明後日、正門まで迎えに来てくれる。ウェアもシューズも、全部準備してくれる。……そんなに…… …私のこと、考えてくれてるんだ……)
みのりは、スマホを持つ手を少しだけ胸の前に引き寄せた。
(……あかりさんと一緒にできるなんて…… 凄く嬉しい…)
みのりは、あかりに返信した。
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あかりさんへ
メッセージ、ありがとうございます。
明後日、一緒にジムに行けるなんて、すごく嬉しいです。
私、運動のことは本当に初心者なので、迎えに来てくださるのも、ウェアを準備してくださるのも、とても心強いです。
母には、今日のうちに伝えておきます。
明後日、16:40頃に、正門で待ってます。
みのり
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◆ 明後日・ジム初日
放課後、空は少しオレンジ色を帯びていて、校門の前には秋の風がゆっくり流れていた。
(……本当に、今日…… あかりさんとジム……)
そこへ、ライトブルーのフィアット500eが近づいてきた。
(……あっ! あかりさんだ!)
助手席の窓が下がり、あかりさんが柔らかく微笑んだ。
「お待たせしました。じゃ、行きましょうか」
「はい、ありがとうございます」
みのりは、ちょっとワクワクしながら乗り込んだ。
▼ プロテイン摂取
みのりが助手席に座り、シートベルトをカチッと留めた瞬間、あかりさんは後部座席から小さな保冷バッグを取り出した。
「みのりさん、これ…。あなたの分も作ってきたので、すぐに飲みましょう」
差し出されたのは、淡いピンク色のシェイカーに入ったプロテインだった。
「えっ……私の分まで……?」
「はい。空腹のままトレーニングに入ると、足りなくなったアミノ酸を補充するために、筋肉が分解されてしうまうんです。だから、トレーニングの前に少しだけタンパク質を摂って、アミノ酸が補給できる状態にしておく必要があるんです」
みのりは、そっと蓋を開けて一口飲んだ。
「……あっ… おいしい……(笑)」
あかりさんも微笑み、話を続けた。
「運動するときは、特にBCAAと呼ばれるアミノ酸… …これは、分岐鎖アミノ酸で、バリン、ロイシン、イソロイシンの総称なんですけど、これらが多く消費されるんです。他にも、グルタミン、アルギニン/シトルリン、アラニン、アスパラギン酸なども多く消費されます。アミノ酸は備蓄量が少ないですので、足りなくなった分は、筋肉を分解して確保するんです。でも、事前に消化管に入れておくと、そこから血中に補われますので、筋肉が分解されずに済むことになるんです」
みのりは、シェイカーを両手で包みながら頷いた。
「……そうなんですね…… そういう詳しいこと… 高校の教科書には出てこないですから、すごく勉強になります……」
「そうですよね。運動部で、詳しい先生がいたら教えてくれるでしょうけどね…」
「…話変わるんですけど… あかりさんは…いつもはこの時間じゃないですよね? だって、普通はお仕事の時間だと思うんですけど…」
「…うん、そうですね。…ただ、わりと自由に時間使ってますね(笑)…それはやはり、創造的な仕事をしたければ、あまり時間に縛られないほうが良いですから… だから、場合によっては夜遅くまで仕事してる時もありますし…」
「…あぁ… そうなんですね…。 …なんか、めっちゃ理想的な感じがします」
「うちの研究室は、そういう風潮なんです。……何が一番大切なのかを追求すると、自然とそうなってしまうんですよ」
「……すごく、憧れます…」
「みのりさん、この前、3回目の測定で大学に行かれたんですよね。高原先生から、その結果についての驚きの声を聞きましたよ」
みのりは、少し照れた様子で、そのときのことを話しているうちに、ジムに到着した。
◆ トレーニングジムに到着
「トレーナーさんにも、みのりさんが来ることを伝えてありますから、安心してくださいね」
入口の自動ドアが開き、中に入ると、フロントにいたスタッフの人が声をかけてきた。
「あっ、水瀬先生… この方が、連絡いただいてました佐伯みのりさんですね。……あれ?! …あの… この方… 楽器店のポスターの方じゃないんですか?」
みのりは、ドキッとした。
(……前にも、こんなことがあった… そうだ… ママへのプレゼント買いに行った時だった…)
あかりは、ハッとして答えた。
「あっ、そうです。その人です」
スタッフの人が答えた。
「私は、あの楽器店の前を通ってここに通勤していますので… あのポスターを毎日見てるんですよ(笑)」
みのりは、思わずぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
あかりとみのりは、目線を合わせながら、ちょっと笑った。
すかさず、スタッフの人は、手元に用意していた、みのり用のシューズとウェアを差し出した。
「これ、準備できていますので、あちらの更衣室で着替えていただけば結構です」
2人は着替えを済ませ、パーティションの奥にあるトレーニングエリアに入った。そこには様々なトレーニング機器が整然と並んでいて、みのりにとっては初めて目にする光景であった。
「…わぁ、すごい… あんなにたくさんのマシンがあるんですね」
そして、その奥にある小部屋のガラス窓から、真っ赤な光が漏れていた。
「…あかりさん、あの部屋、何なんですか?」
「あの赤い光は、ミトコンドリアの活性化を促す波長の光なんです。血管内皮細胞の代謝改善にも効果があります。私が導入を提案して、トレーナーさんたちと一緒に調整しました」
みのりは驚いた。
(……あかりさん…… こんなことまで……)
隣で、他の人のトレーニング指導をしていた女性トレーナーが、笑顔で会釈してこちらに向かってきた。
「水瀬先生! こんにちは! この方が、佐伯みのりさんですよね。先生がいらっしゃらないときは、私が見させていただくことになりますので、よろしくお願いします。今日は、先生がいらっしゃいますので、先生が直接に指導されます。何かありましたら、お声がけください」
女性トレーナーは、丁寧にお辞儀をして、先ほどまで指導していた場所に戻っていった。
◆ トレーニング開始
みのりは、初めて見るマシンの数々に圧倒されながら、あかりの後ろを付いて、赤い光の部屋に入り、ストレッチからスタートした。
「じゃあ、みのりさん。まずは、体をほぐすところから始めましょうね」
あかりは、みのりの正面に立ち、ゆっくりと両腕を広げて見せた。
「肩の力を抜いて…… 呼吸を整えて…… はい、ゆっくり大きく回します」
みのりも真似して腕を回す。その動きはぎこちないけれど、あかりさんは微笑みながら、みのりの肩の位置をそっと整えた。
「そうそう。みのりさん、肩が少し上がりやすいので、呼吸を深くすると自然に下がりますよ」
みのりは、まさか、あかりさんに、このような指導をしてもらうことになるとは夢にも思わなかったので、かなり新鮮な気分だった。
(……あかりさん… 体育の先生みたい… でも、すごく優しくて… 安心する……)
▼ マシンを用いた各種トレーニング
あかりたちは、赤い光の部屋から出て、マシンのコーナーに向かった。
「じゃあ、今日は、いろいろと体験してみましょう」
まず、行うことになったのは、大腿四頭筋を使うレッグプレス。
「みのりさんは、まだ負荷は軽くていいです。筋肉が“収縮する感覚”を覚えることが大事なので…」
みのりは座り、足をプレートに置いた。
「はい、ゆっくり押して…… 戻すときもゆっくり…… 呼吸は止めないでね」
みのりは慎重に動かした。そのたびに、太ももの前側がじんわりと熱くなった。
(……これが…… 筋肉を使う感覚……)
あかりは、みのりの動きを横で見守りながら、時折、膝の角度や足の向きを優しく整えた。
「みのりさん、すごく上手ですよ。初めてなのに、動きが綺麗です」
「……ほんとですか…?」
「はい。身体の使い方が素直なんです。これは、とても良いことです」
みのりの胸が、少しだけ誇らしくなった。
その後も、マシンを使った様々なメニュー――シーテッドレッグカール(ハムストリング)、チェストプレス(大胸筋)、ラットプルダウン(広背筋)、ショルダープレス(三角筋)、アブドミナルクランチ(腹直筋)、バックエクステンション(脊柱起立筋)、ヒップアブダクション(中殿筋)、ヒップアダクション(内転筋)、カーフレイズ(腓腹筋・ヒラメ筋)――を、あかりの説明とともに、一通り体験することになった。
▼ スクワット
「じゃ、次は、軽いウェイトを用いてのスクワットの練習をしてみましょう」
あかりは、先ず見本を示した。
次に、みのりに替わり、横に立ちながら丁寧に説明を加え、手を添えて姿勢を整えた。
「つま先と膝の向きを揃えると安定しますよ。膝が内側に入ると負担がかかるので、つま先と同じ方向に向けてください。それから、背中は丸めないように、胸を少しだけ前に開くイメージで。腰を反らせすぎても痛めやすいので、骨盤は“真ん中”に置く感じです。重心は、かかとと足裏の真ん中あたり。つま先に乗りすぎると前に倒れやすいので、足裏全体で床を押すようにします。しゃがむときは、膝からではなく、股関節から折りたたむようにすると綺麗に動けます。椅子にそっと座るようなイメージですね。呼吸は止めないで、しゃがむときに軽く吸って、立ち上がるときにゆっくり吐きます。みのりさんは、背筋が素直に伸びるタイプなので、このフォームならすぐに綺麗にできますよ」
みのりは、生れて初めて受けた筋トレの本格的な指導に感激した。
(……あかりさんって… こんな細かい指導もできるんだ… すごすぎ…)
「はい、ゆっくり…… いいですね、その感じです……」
▼ 体幹トレーニング
「次は、短いプランクをやってみましょう」
みのりは、横で、あかりが見本としてやっている体勢をとった。そして、床に手をつき、慎重に姿勢を作った。
「はい、背中はそのまま…… 首は楽に…… 呼吸はゆっくり……。無理しなくていいですよ。10秒だけやってみましょう」
みのりの腕が少し震えた。でも、あかりさんがすぐ横で声をかけた。
「あと3秒…… 2…… 1…… はい、できました。すごいですよ」
みのりは、思わず息を吐きながら笑った。
「……なんか…… できました……」
「ええ。みのりさんは、初日としては本当に完璧です」
▼ 軽く有酸素運動
あかりは、みのりの呼吸が落ち着いたのを確認すると、再び赤い光の部屋へと誘導し、そこに置いてあるトレッドミルを使用することにした。
「じゃあ、最後に少しだけ有酸素運動を入れましょう。ほんの5分でいいので、軽く歩くだけで大丈夫ですよ」
みのりは、初めて見るトレッドミルにそっと足を乗せた。
「速度はゆっくりにしてあります。背筋を軽く伸ばして、腕は自然に振ってくださいね。 足裏全体で着地するようにすると、膝に負担がかかりません」
みのりが歩き始めると、赤い照明の反射がトレッドミルの黒いベルトに淡く揺れた。
「有酸素運動は、筋肉で使ったエネルギーの代謝を整えてくれるんです。血流も良くなるので、今日のトレーニングの疲労が残りにくくなりますよ」
みのりは、歩きながら静かに頷いた。
(……なんだか…… 歩くだけなのに、すごく気持ちいい……)
あかりは横で、みのりの姿勢を優しく見守っていた。
「みのりさん、歩くときのフォームがとても綺麗です。肩の力が抜けていて、呼吸も安定していますよ」
みのりは、少し照れながらも嬉しそうに微笑んだ。
◆ トレーニング終了
その後、軽くストレッチをして終えると、みのりの身体はほんのり温かく、心はそれ以上に満たされていた。
「みのりさん、今日は本当に良かったですよ。この調子で、少しずつ続けましょうね。」
「……はい…… すごく……楽しかったです……」
あかりは、みのりの言葉に優しく微笑んだ。
「そう言ってもらえると嬉しいです。みのりさんは、きっとすぐに慣れますよ」
更衣室に入ると、あかりは別のプロテインを用意した。
「じゃ、みのりさん、もう一度プロテインを飲みましょう。今度は、筋肉が合成されるための原料になるアミノ酸の補給です」
トレーニング後の飲み物は特に美味しく、気分も快活になっていて凄く楽しかった。
そして、この間にも、今日学校で学習した内容が、長期記憶へと刻み込まれつつあった。
ジムを出ると、夕方の空は薄紫に染まっていた。
みのりは、その空を見上げながら思った。
(……また来たい…… あかりさんと一緒に……)
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