老齢猫も蘇った奇跡のフレーズ

老齢猫も蘇った奇跡のフレーズ
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今回のアイキャッチ画像(高解像度版)
佐伯みのり
◆ 第35話 ── 波紋を広げ続けるアドリブ

◆ カメラマンの自宅スタジオで
昨日の午後、アストレア楽器株式会社のスタジオで、みのりを撮影したカメラマン──篠原は、自宅の一角に設けた自分の編集スタジオで、みのりを使ったポスター用の写真とCM用の動画制作に取り掛かった。
(……まず、静止画は置いておいて、動画の中から、インパクトの最も強そうな部分をチェックしていこう…)

篠原が撮った動画は、みのりがキーボードのスイッチを入れに行くところから始まっていた。
(……こんなことなら、社長さんが演奏をお願いするシーンから撮りたかったなぁ… 本当に急にお願いされた感じを出したかった…)

みのりは、キーボードの鍵盤の奥に並んでいる沢山の操作スイッチに、左から右へと視線を移動させていた。
(…これだ! こういう動作は、このキーボードが初めて触れる機種であって、事前準備も打ち合わせも何も無かったことを表現できる…)

次に、みのりは「じゃ、キーボードは伴奏楽器として使わせていただきますね」と言った。
(…これも重要だ! 今、とっさに、キーボードの使い道を決めたことが分かる)

みのりが「MODERN JAZZ SWING」ボタンを押すまでにも、どれを押すかの少し迷った時間が数秒あった。
(……この、迷っているような数秒の空白… 「どれでもいいんだけど… じゃ、これにしようか…」という気まぐれな雰囲気が出ていて、すごくいい!)

次に、みのりはエレキギターを手に持ち、最初は小さな音量で軽く音を乗せていった。
(……この弾き方は… 事前に何も練習していなくて、キーボードによる自動演奏のコード進行も未確認であることを物語っている… …重要なのでカットできない…)
循環コードが一巡した後は、次もその循環になることを確認するとともに、みのりのギターは本格的なフレーズを奏でていった。
(……上手いなぁ… いやぁ…まいったなぁ… 高校2年生でしょう… あり得ない)

2コーラス目、3コーラス目、4コーラス目、……、…… 進行していくたびに、みのりは異なったメロディラインを奏で、難しそうなテクニックも徐々に加えながら進行していった。
(……これ……すごいわ…)
篠原は、みのりのギターテクニックに驚き、編み出されるフレーズに引き込まれた。
(……あっ、いけない… 編集しなくちゃならないんだった。ちょっと、一回止めよう)

篠原は、大きく深呼吸した。そして、自分に鞭(ムチ)を入れた。
「自分は今、この動画を編集して、何パターンかを作成し、社長に見てもらわなければならないんだ。動画に見入っている場合ではない」

(……ただ、一通り、最後まで見ておく必要はあるな…)
篠原は、続きを再生し始めた。

みのりは、ギターを置いて、キーボードのほうに向かい、音量を上げに行った。
(……うーん… こういうシーンも、即興的だし、楽しんでる感じが凄く出てる。カットしたくないなぁ…)

みのりは、次に、サックスに持ち替えて演奏し始める。コード進行は、もうわかっているので、最初から躊躇なく音を乗せていく。
(……いやぁ… 上手いなぁ… もう、ゾクゾクする…。 ジャズのサックスを専門にやってるオジサンの演奏より…この子の演奏のほうが凄い…。 もう、全身がとろけそうだ……)

篠原は、自分に鞭を入れたはずであったが、みのりの演奏が始まると、そのことをすっかり忘れてしまい、スクリーンの中のみのりに見惚(みと)れ、出される音に聴き惚れた。

その後、みのりは再びギターに持ち替え、同じ伴奏を基にして、先ほどとは異なったメロディを乗せていった。そして、アドリブにアドリブを重ね、難しそうなテクニックも惜しみなく仕込んでいった。
篠原は、聴き進むにつれて、どんどんと新しい音楽に包まれていく感じで、それに陶酔しきった。
(……もう… ……最高……)

その後、みのりは再びサックスに持ち替えて、ここでも新たなアドリブを重ねていった。
篠原は、もう魂を奪われたかのような様相で聴き入っていた。

◆ 篠原の妻がスタジオに現れる
そのとき、スタジオのドアをそっと開け、篠原の妻である美咲が顔を出した。普段は、夫の仕事中にスタジオへ入ることはない。しかし、あまりにも心地よい音が漏れてきていたので、どうしても“何を聴いているのか”見たくなったのである。

「……あっ、ごめん。 …ねぇ、ちょっと聞かせてもらっていい? なんか、すごく心地よくて……」

篠原は振り返り、少し照れたように笑った。
「いいよ。じゃぁ、どの部分が特に良いとか、何でもいいから、感じたことがあったら言って」

篠原は、動画を最初からスタートさせた。
美咲はスクリーンを見て、目を丸くした。
「えっ、この子……すっごく若そう……」

「高校2年生らしいよ。昨日、撮影に行ったアストレア楽器で、ブランドイメージキャラクターとして新規採用された、“佐伯みのり”っていう子」

「えーーーっ!? それで、こんなジャズ弾けるの? すごい…… なんか…こんな演奏聞くの…初めて…」
美咲は、普段はジャズは殆ど聴かないが、最初のギター演奏が始まると、あまりの心地良さに、すぐにうっとりし始めた。

◆ 齢の猫が突然スタジオへ
そのとき、開け放していたドアから、飼っている老齢の猫 「こはる」 が入ってきた。二人は驚いた。
こはるは、いつもぐったり寝てばかりで、歩いたとしても、ゆっくり歩くだけだった。

「ええっ!? こはるちゃん、どうしたの!? こはるちゃんも聴きたくなったの?」

こはるは、ごく普通に歩いてきて、なんと、椅子にぴょん、と飛び乗った。そして、ちょこんと座り、スクリーンのほうをじっと見つめはじめた。

美咲は口を押さえた。
「わっ…椅子に飛び乗れた…… 横にならずに普通に座ってる……」

篠原は、編集作業どころではなくなった。
(……こはるが…こんなに元気になるなんて…… まさか…この演奏を聴かせたから?)

篠原は美咲に尋ねた。
「なんで、こはる、急に元気になったんだろう? 何か、別のもの食べさせた?」

「ううん、何もしてないけど…」

「じゃあ…いつもと違うのは…… この動画を再生していることだけ……」
篠原は、スクリーンの中のみのりを見つめた。
(……もしかして… この子の奏でる音には… 何かあるのかも…… 人間だけじゃない… ほかの動物にも……)

篠原は、椅子の上でちょこんと座って、みのりの演奏を見ているこはるを横目で見た。
(……本当に、どうしたんだ…… 椅子に飛び乗るなんて…… ここ数年、見たことがない……)

こはるは、まるで若返ったかのように、しっかりと上体を支え、スクリーンの中のみのりをじっと見つめていた。

美咲も驚きを隠せなかった。
「ねぇ……これ、すごくない? こはるちゃん、こんなふうに座るの、いつ以来かな…」

「…いや… もう、かなり前からこんなことなかったよ」

美咲は、スクリーンのみのりを見つめながら言った。
「この子の音…… なんか、体に染み込む感じがするよね…… 人間だけじゃなくて、猫にも効くのかな……」

篠原は、胸の奥がざわついた。
(……もし…これが本当に“音の効果”だとしたら…… PRとして使えるどころじゃない…… 会社のブランド価値を根本から変える可能性がある……)

篠原は、スマホを手に取った。天野社長に電話をするべきかどうか、一瞬迷った。
(……いや、これは伝えておくべきだ…… 社長なら、この意味を理解してくれるはずだ…)

◆ 篠原から天野社長に電話
篠原は、スマホの画面に天野社長を表示し、発信ボタンを押した。

「はい、天野です」

「篠原です。昨日は、ありがとうございました。今、その動画の編集を進めようとしているんですが…… ちょっと、信じられないことが起きまして……」

「えっ? どうしたんですか?」
社長の声が、わずかに緊張を帯びた。

「はい… うちで飼っている猫なのですが… もう老齢で、普段はほとんど寝てばかりなんです。そして、その猫が、みのりさんの演奏動画を再生していたら… 突然、スタジオに入ってきて、椅子にぴょん、と飛び乗って… しかも、普通に座ってスクリーンを見始めたんです」

社長は、驚きながらも、その話の結末を瞬時に予測した。
「…うーん… それは… 凄いことかもしれないですね…」

「はい、そうなんです。断言はできないのですが、少なくとも、みのりさんの演奏を流していたこと以外には、何も変わったことはしていませんでした。ですから、猫が急に元気になった原因は、みのりさんの演奏を流していたことしか考えられないんです」

社長は、深く深呼吸してから答えた。
「…篠原さん、連絡、ありがとうございました。…つまり… みのりさんの音楽には…… 人間だけでなくて、他の動物にも好影響を及ぼす力がある… …そういうことなのかもしれませんね…」

「はい。もし、この事実が科学的に証明されれば…、育脳キャンペーンの、もう一段上のキャンペーンも可能になりますね」

社長は、静かに、しかし確信を持った声で言った。
「篠原さん… その話、非常に重要です。こちらでも、その可能性を探っておきます。連絡いただいて、本当にありがとうございました」

電話を切ったあと、篠原は、もう一度、こはるを見た。こはるは、音を味わうように、行儀よく座って聴いていた。

(……この子が奏でる音楽は… …ただの演奏じゃない気がする……)
篠原は、編集画面に向かいながらも、胸の奥に広がる、ある種の“確信”を抑えられなかった。

◆ 天野社長も動いた
電話を切ったあとも、天野社長は、篠原の言葉が頭から離れなかった。
(……みのりさんの音楽で…老齢の猫が元気になった…… 篠原さんが嘘を言うはずはない……)

天野社長は、机に肘をつきながら、昨日のみのりの演奏を思い返した。
(……あの音の流れには……確かに…“何か”があった…… 人間の心を揺さぶるだけじゃなくて、もっと根本的に、別のところにも作用しているのかもしれない……)

そして、ふと、みのりが初めて会社に来たときの面談を思い出した。
(……みのりさんは言っていた。「大学の研究室で、楽器を演奏しているときの脳活動をMEGで撮影してもらえるかもしれません」と…。……あのときは、「高校生が大学で脳活動を撮影されるなんてすごいな」くらいにしか思っていなかった。しかし今は違う。……その研究室の先生と、一度話してみたい… みのりさんの脳で何が起きているのか… そして…、他の人の脳に、どのような影響を与えるのか……)

社長はスマホを手に取った。
(……みのりさんに聞いてみよう)

◆ 天野社長がみのりに電話する
「はい、みのりです」

「天野です。突然ごめんなさいね。昨日は、本当にありがとうございました。今日は、ちょっと相談したいことがあって……」

みのりは少し驚きながらも、丁寧に応じた。
「はい、どうされましたか?」

「みのりさんが言っていた、大学の研究室… 楽器演奏中の脳活動を撮影してもらえるという話… その先生と、一度お話ししたいと思うんですけどね。そこで、連絡先を知りたいんですけど、代表番号とか、研究室や先生のお名前を教えてもらえないでしょうか…」

みのりは、意外な展開に驚きながらも、高原教授と話してもらうことにした。
「はい、わかりました。代表番号は、**-****-****です。そこで、高原研究室の高原教授に繋いでもらえれば、お話しできると思います」

「わかりました。ありがとう…みのりさん。じゃあ、一度、お話させていただきますね」

◆ 天野社長が高原教授と話す
天野社長は大学の代表番号に電話し、所属と用件を伝えて外線受付に取り次いでもらった。

「はい、高原です」

「初めまして。私、アストレア楽器株式会社の天野と申します。実は、佐伯みのりさんの件で、少しお話ししたくてお電話させていただきました」

高原教授は穏やかな声で応じた。
「みのりさんの……。はい、どうぞ」

天野社長は、みのりに関するこれまでの経緯や、昨日の撮影のことを丁寧に話した。
高原教授は、それに対して丁寧に対応していた。
「……はい。 ……はい。 ……なるほど。  ……あの子の能力は、本当に計り知れませんね。企業の方が注目されるのも、当然のことだと思います」

天野社長は、その後、みのりの演奏がスタジオの空気を変えたこと、そして、カメラマン宅の老齢猫が突然元気になったことを話した。

高原教授は、驚きながらも、あることに閃いた。
「……そういえば、よく似た話を思い出しました。以前、図書館での水瀬あかりさんの講演のあと、控え室でみのりさんと話していた時のことです。みのりさんが登校中の道路に、飛べなくなっていたスズメがいたんです。そのとき、みのりさんがカバンから、“LifeSignal Generator”という小さな装置を取り出して、スズメに近づけたんです。すると、みるみるうちに元気になっていって、数分後には、飛び立っていったんですよ」

天野社長は、その装置との関連性を、瞬時に模索し始めた。
「……そんなことが…」(……その装置のことは知らないが… 同様の効果か…)

「ええ。その装置は、水瀬あかりさん…という方が作ったもので、みのりさんは日常的にそれを使っています。もし、その装置から出ている“ある種の信号”が、みのりさんの脳に影響を与えていて……その信号を、無意識のうちに演奏している音のフレーズに乗せているとしたら……」

天野社長は、あることを思い出した。
(……みなせあかり… …どこかで聞いた名前… …あっ、そうだ! あの動画で、圧倒的なパフォーマンスでドラムを叩いていた女性だ… その女性が開発した装置…)

高原教授は続けた。
「みのりさんの音は、人間の脳の中心付近、即ち、生命現象の中枢ともいえる部分に作用する可能性があります。だから、常識を遥かに超えた感動が生じる…。人間だけでなく、他の動物にも影響する……そういうことなのかもしれません。もちろん、これはまだ仮説ですので、今後、研究を進めないと断言できませんが…。…ただ、非常に興味深いテーマになると思います」

電話の向こうで、高原教授の声は静かだったが、その内容は天野社長に鋭く刺さった。
(……みのりさんが奏でる音楽には… …生命現象の中枢に作用する何かがある… …その話は凄くよく解る… …そうだとすれば…ごく短時間にあれほどの人を集めてしまったことの説明がつく…)
社長は、しばらく言葉が出なかった。

高原教授が静かに言った。
「もしよろしければ、みのりさんの脳活動とか、みのりさんの音楽が脳活動に与える影響についての撮影が始まったら、結果を共有しましょう」

「……ぜひお願い致します……」
天野社長は、深く頭を下げるようにして電話を切った。そして、その胸の奥には、新たな確信が生まれ始めていた。

◆ 高原教授のセルフトーク
高原教授は、天野社長との電話を静かに切ると、しばらく受話器を見つめたまま動かなかった。
(……寝てばかりいた老齢猫が… みのりさんの音楽を聞いたことで… 普通に歩きだし…椅子の上に飛び乗れるようになり…普通に座れるようになり…その音楽を聴き入っていた…)

机の上の資料を指先で軽く叩きながら、ゆっくりと考えを巡らせた。

(……音楽が、脳機能を高める… それ自体は、昔から知られていることだ…。 音楽療法という分野があるくらいだし、認知機能の改善、運動機能の向上、情緒の安定……そういった効果は確かに存在する……)

高原教授は、椅子にもたれて天井を見上げた。
(だが…… それらの多くは、何週間も、何か月も継続して初めて現れる効果だ…。すぐに現れる効果といえば、リラックス、血圧や心拍数の変化、疼痛緩和……そういった生理的な反応が中心だ……)

(……しかし… ほとんど寝てばかりで、よたよた歩きしかできなかった老齢猫が、いきなり普通に歩きだし、椅子にジャンプして普通に座る……そんな即効的な効果は、音楽療法の範疇を遥かに超えている…)

教授は、M-HIMに装着されてあるLifeSignal Generator(LSG)部分の回路図を眺めながら小さく笑った。
(……水瀬さんなら… このあたりのこと、いとも簡単に答えてしまいそうだな…。…あの人は、常識の外側で生きているようなところがあるし… LSGを作った張本人だし… まっ、いきなり聞かずに、取れるデータを取ってから話を聞かせていただくことにしようか……)

(……ところで… みのりさんの脳が、LSGの信号を無意識のうちに学習し、それを無意識のうちに音楽として再現している可能性… もしそれが本当なら……みのりさんの音楽が、人間の脳幹や辺縁系など、生命現象の中枢に直接作用することがあっても、何ら不思議ではない…… そして… だからこそ、常識を超えた感動が生じる……人間だけでなく、他の動物にも影響する…… そういうことなのかもしれない……)

高原教授は、おもむろに佐野教授の内線番号を押した。

「はい、佐野です」

「高原です。少しお時間よろしいですか? ちょっと、相談したいことがあるんです」

「はい、いいですよ」

「じゃ、今から先生の部屋に伺います」

高原教授は、佐野教授の部屋に行き、アストレア楽器から電話があったことや、みのりの動画を撮って編集作業を行っていたカメラマン宅での老齢猫のジャンプの話を紹介した。また、みのりが、飛べなくなっていたスズメにLSGを近づけると、やがて飛んで行った話に似ていると思ったことも紹介した。さらに、一般的な音楽療法との効果の違いについても、自分の思うところを話した。

佐野教授は、何度も頷きながら、高原教授の話に聞き入った。
「……なるほど… 確かに、一般的な音楽療法の効果とは桁違いですね。数分で動物の運動機能が回復するなんて… 通常の神経生理学では説明できません」

高原教授は頷いた。
「ええ。だからこそ、みのりさんの脳を測定する前に、みのりさんが奏でる音楽そのものの効果を、先に検証しておくほうが良いのかな…と思ったんです」

佐野教授は、椅子を少し前に引き寄せた。
「そうですね。そして、そのような事実が見つかれば、今度は、そのような音楽が編み出される理由を、みのりさんの脳の活動様式から探っていく…」

高原教授は大きく頷いた。
佐野教授は続けた。
「じゃ、具体的に…どうしましょうか…」

高原教授は、目を輝かせながらアイデアを語った。
「大学院生の数名に、被験者として協力してもらいましょう。そして、できるだけ高性能な音響システムを使って、みのりさんの演奏を聴かせる。もちろん、収録された動画には、サックスの超高周波成分は入っていないですから、その効果は限定的になるかもしれないですけどね…」

佐野教授は、興味深そうに頷いた。
「音源とか、比較対象はどうしましょう…」

「音源は、この前、私たちが「ぶつりーず」として演奏したブルースがWeb上で幾つも公開されていますから、その中で、最も高音質なものを選んで、みのりさんのサックスが流れている部分だけを音源として使いましょう。画面からの被験者への影響を避けたいですから、音だけを聴かせましょう。そして比較対象としては、同じようなブルースの即興演奏をしている別の奏者の動画を使いましょう」

佐野教授は、メモを取りながら言った。
「つまり…、みのりさんの演奏と、他の奏者の演奏で、脳活動の変化に違いがあるかどうかを調べる… そういうことですよね」

「ええ。もし、みのりさんの演奏でだけ、脳幹や辺縁系に特異的な活動が見られるのなら… LSGの信号を脳が学習している可能性が、一気に現実味を帯びます」

佐野教授は、少し笑った。
「…本当に、みのりさんは面白いですね。…あと、LSGの開発者である水瀬さん…。この二人が、高校、大学、企業に、大旋風を巻き起こしていることになりますね…」

高原教授も笑った。
「まったく、そのとおりです」

「じゃぁ、大学院生に声をかけておきます。音源の準備も、音響のシステムも、MEG測定のプロトコルなども、ちゃんと準備して、また先生に連絡入れますね」

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